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復讐のインテリジェンスソード  作者: 川越トーマ
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伝令

 我がアレス共和国は隣国のマーズ連邦と戦争状態にあり、軍人である父と俺は、いつ戦地に赴いてもおかしくはなかった。

 軍務に就くことは恵まれた能力を持つ『貴族』の神聖な義務だった。

「わたしのことが、だいすきなのはうれしいけど。やきもちやいちゃだめだよ」

「みゃあ」

「そうそう、いいこ、いいこ」

 俺と父が表情を引き締めて話しているのはお構いなしに、レナは仔猫のマリオと戯れていた。

「ほんとになかよしね。猫の心がわかるみたい」

 母は妹にやさしい視線を送っていた。

 しかし、そんな母の言葉の一部を父が聞きとがめた。

「おいおい縁起でもないことをいうなよ」

 父は少し不機嫌そうに口をとがらせていた。

 ちなみにレナはまだ小さいので、どんな能力者なのかわかっていなかった。

 超能力は第二次性徴に合わせて出現することが、ほとんどだった。

 普通の人間には何が問題なのかわからないだろうが、幾度となく父の口から出た不満らしく、母は落ち着いて言葉を返した。

「あまりテレパシストのことを毛嫌いしちゃいけませんよ。お味方にも大勢いるんでしょ?」

「ふん、確かに伝令、情報収集で我が軍に貢献している。しかし、心の中に土足で入ってくるような奴らを俺は好かんのだ」

 能力者が建国し、貴族として君臨するアレス共和国においても、特定の能力者に対する偏見や恐怖は存在した。

 テレパシストに心の秘密を暴かれ脅迫されるのではないか?

 テレポーターに自宅に侵入され財産を奪われるのではないか?

 サイコキノに遠くから首を絞められ殺されるのではないか?

 事実、能力を悪用して犯罪行為を働く者もいた。

 アレス共和国では、そうした人間の取り締まりや検挙のために軍の精鋭部隊をもって厳罰で臨んでいた。

「パパ、パパはレナのこときらいなの?」

 父と母の様子を心配そうに眺めていたレナは、父のズボンを小さな手で握りしめ、不安そうな視線を父に向けた。

「嫌いなもんか、パパはレナのことが大好きだよ」

 レナの表情に気付いた父は心から滲み出るような笑顔を浮かべ、彼女をやさしく抱き上げた。

「ありがとう、パパ」

 レナは父の胸にしがみつき、安心したように身をゆだねていた。

 俺は父と妹の様子に心が温かくなるのを感じていた。

 しかし、朝の平和な家族のひと時は荒々しいノックで打ち破られた。


 母親がドアを開けると灰色の髪を角刈りにした、いかつい軍人が立っていた。

「伝令! 執政官から、各軍団長に非常呼集です」

「何事か?」

 父はレナを床に降ろし、すっかり仕事の顔になっていた。

「国境付近の科学遺跡『宇宙の港』に敵襲です」

 過去の科学文明が残されている場所は『遺跡』として大切に守られていた。

 失われた技術を取り戻すためのヒントが詰まった重要な場所であり、しばしばアレス共和国とマーズ連邦との間で争奪戦が繰り広げられていた。

「敵の数は?」

「詳細は不明です。一万は下らない模様」

 父の畳みかけるような質問にもひるむことなく、いかつい軍人は背筋を伸ばし正面を見据えて答えていた。

「わかった。直ちに出頭する」

 父の返事を聞くと、いかつい軍人は見事な敬礼を返し、かき消すようにいなくなった。

 伝令を任務とするテレポーターなのだろう。

「あなた……」

 敵襲と聞いて、さすがに母は心配そうな表情を浮かべた。

「行ってくる……ケント、ついてこい、お前も貴族の務めを果たさねばなるまい」

 俺は緊張感で胃の中に不快感が込み上げてくるのを感じた。

 訓練課程を終えたばかりでいきなり前線に赴くことになるとは思わなかった。

「いってらっしゃ~い」

 緊張に押しつぶされそうになっている俺を励ますように、レナは無邪気に手を振っていた。

 足元には左目の周りに黒いハートマークを付けた白い仔猫がじゃれついていた。

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