入国
「ところで、アレス共和国に入国したら、誰か頼るつてはあるの?」
ポールの質問は、俺も知りたいことだった。
俺としては、俺との約束を果たしてもらう上で有利な場所に住み、有利な仕事に就いて欲しかった。
「何もわかりません」
恐らくそういうことは、すべて両親が考えていたのだろう。
「いっそのこと、俺たちの仲間にならない?」
「軍隊ですか?」
「第七警務小隊には、テレパシストが僕しかいないんだよ。助けを求めた君の『声』の大きさからすると能力的には十分だと思うんだよね。年齢も任官条件を満たしてるし、かわいいし」
「いま、サラッとナンパしなかったか?」
マーサがポールに射るような視線を送った。
「ん? そうかい? 気づかなかったよ」
ポールのように浮ついた雰囲気の男を俺はあまり好きではなかったが、彼の提案には賛成だった。
第七警務小隊は俺にとって都合のいい情報が得られる可能性が大きかった。
隊長のジョン・リード少佐は昔の知り合いだし、マーサ・メルゲン少尉は恐らく俺の知っているあの男の関係者だ。
メルゲンの姓はアレス共和国では珍しいし、体形もあの男に似ていた。
「遺体はすべて埋葬していくが、構わないか?」
現場検証を終えて、ジョンは厳しい表情でカレンに確認した。
「はい」
結局、マオがどのように死んだのかは曖昧にされたままだった。
恐らく第七警務小隊のメンバーにとって、カレンの心に負担をかけてまではっきりさせたい事実ではなかったのだろう。
ポールが再度、能力を使ってカレンを尋問することはなかった。
「遺品を渡しておく、つらいと思うが不要なものは一緒に埋葬するといい」
「……はい」
カレンは改めて現実に向き合い、声を詰まらせた。
「これから君はアレス共和国で入国審査を受ける。先程、ポールがやったような奴だ」
「はい」
「まあ、君なら心配しなくても大丈夫だ」
カレンは黙ってうなづいた。
「そして入国審査をクリアした後で能力チェックを受ける。この結果で君の社会的な身分も決まる。また、就職にあたっても能力チェックの結果が重要だ」
「就職もですか? 能力の有無で、貴族と平民に分けられるとは聞いていましたが」
「例えば軍隊で士官となるには貴族の身分が必要だ。つまり、能力者でないと士官になることができない」
「そうなんですか……」
会話の中身が俺にとっては退屈で緊張感のないものになっていった。
久しぶりに長時間、緊張の中で『障壁』の能力をふるったため、猛烈な疲労と睡魔を感じていた。
《そろそろ限界だ》
ここまでのやり取りで、俺自身は『入国審査』の対象とはならないことがほぼ確定した。
もしも、実施したらとてつもなく問題になるだろう。
そんなことを考えながら、俺は深い眠りに落ちていった。