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復讐のインテリジェンスソード  作者: 川越トーマ
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テレポーター

 必死で逃げるパクの正面に突然長身の人物が立ちはだかった。

 パクよりも頭一つ分くらい背が高く、アレス共和国軍の赤茶色の皮鎧を身に着けていた。

 ただ、パクやマオとは異なり胸部を保護する赤い金属プレートはついていなかった。

 防御力よりも身軽さを優先しているのだろう。

 銃も刀も帯びておらず、武器らしいのは腰に下げた短剣だけだった。


 それにしても、その人物の出現には何の前触れもなかった。

 猛スピードで近寄ってきたわけではない。突然、現れたのだ。

《テレポーター……》

 その不自然な現れ方は、瞬間移動テレポートと考えるのが自然だった。

 パクはぎょっとしながらも精神を集中し、正面の人物に『思念波』を叩きつけようとした。

 しかし、長身の人物は正面に残像を残し、真横からパクの右顎に左ストレートを叩き込んだ。

 残像が残るような、引きの鋭い見事なパンチだった。

 皮手袋をした拳が空気を切り裂く音を立てたような気がした。

「えっ?」

 パクは、間抜けな表情を浮かべてよろめいた。

 すると、今度は再びパクの正面に現れ、右フックをパクの左顎に浴びせた。

 長身の人物の残像がパクの周囲を取り囲み、長いリーチを生かして一方的にパンチの雨を浴びせかけた。

 まるで、ボクシングのパンチングボールでの練習を見るようだった。

「ぶ」

 パクの足から力が抜け、真下に崩れ落ちた。

 そして、そのままうつ伏せに倒れた。

「ふう……」

 長身の人物は大地に横たわるパクに一瞥をくれると、皮手袋をした手の甲で額の汗を拭った。

「怪我はない?」

 少女の方を振り向いて長身の人物は、にっこりとほほ笑んだ。

 声は低かったが、形のいい胸のふくらみが女性であることを主張していた。

 美少年のような凛々しい雰囲気の女性だった。

「はい」

 少女は素直に返事をした。

 長身の女性の皮鎧の胸にはアレス共和国軍警務部隊のバッジが光っていた。

 アレス共和国では、軍が警察の役割も担っていた。警務部隊というのは、軍における犯罪捜査の専担組織だった。

「じゃあ、その物騒なものを鞘に納めてくれるかな」

 赤い髪を短く切った、さわやかな印象の若い女性は、長い腕を優美に動かし、少女の握る刀を指し示した。

「えっ? 鞘?」

《まずいな》

 鞘のありかを知っている俺は、少女の動揺を予想した。

 少女はキョロキョロと周囲を見回した。

 そして胴体を両断され、内臓をぶちまけて骸になっているマオに気付いた。

「きゃあ!」

 刀をつかんだ少女の手から力が抜けた。

《俺を離すな!》

 少女はびくっと俺の『声』に反応し、何とか俺を掴みなおした。

《やつの腰から鞘を外して俺を納めろ》

 命じてから、『ハードルが高いよな』と思った。

 血まみれの死体から物を奪うようなことは、まともな神経の人間には難しいだろう。

「でも……」

 案の定、少女はぐずぐずしていた。

《自分でできなかったら、警務部隊のお姉さんにでも頼むんだな》

 少女はおずおずと長身の女性の方を振り返り、声にならない悲鳴を上げた。

 鼻や口から血を滴らせ、瞼を腫らしたパクが、女性の背後に立っていたからだ。

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