第九話 ソビエツキー・ソユーズ追撃戦 その3
モスクワの劇場で開かれた上映会に、ヒトラーはスターリンとトロツキーに招待状を送っていた。
二人とも相手と同じ劇場に行くのは嫌だったのだが、ソ連国民にも人気のあるヒトラーの招待を断ることはできなかった。
二人が劇場に行くと、ヒトラーは二人に会えたことに感動した態度を見せて、二人を同じ貴賓席に案内した。
二人は席は別にしたかったのだが、一般の客も大勢いる前で拒否することはできず。二人並んで座ることになった。
上映開始時間まで、二人は、ヒトラーの「演説」を一方的に受けることになった。
もちろん、ヒトラーはロシア語は話せなかったのだが、ドイツから連れてきた通訳者が吹き替え声優並みに優秀であった。
政治家だった頃からヒトラーの演説好きは知られており、人によっては長々と話されることにうんざりすることもあったが、深く感銘されることもあった。
この時のヒトラーの演説の内容は、内戦におけるトロツキーの軍事指導者としての功績を褒め称え、スターリンのソ連共産党初期から事務方として支えた功績を褒め称えた。
ヒトラーの演説を聞いた二人は権力をめぐって対立関係におちいる前の純粋に共産革命の活動家だった頃を思い出した。
上映時刻となり映画が始まった。
映画のタイトルは「ある国を訪れた旅芸人」。
内容は架空の国を舞台として、軍を率いる将軍と内政を預かる政治家が権力闘争をしているというストーリーであった。
ヒトラーは二人を和解させようとするその国を訪れた旅芸人という役であった。
喜劇映画ではあるが、自分たちのことをモチーフにしていると、トロツキーとスターリンの二人は分かった。
上映終了後、ヒトラーの歓迎パーティーが開かれ、トロツキーとスターリンも出席した。
ロシア式のパーティーでは強い酒を潰れるまで飲むのが定番ではあるが、トロツキーとスターリンは禁酒主義者であるヒトラーに合わせたように一滴も飲まずに熱心に三人で話していた。
パーティーが進むにつれて、最後には個室でヒトラー・トロツキー・スターリン・ヒトラーの通訳者の四人だけになっていた。
その個室で何が話されたかは不明である。
しかし、ヒトラー・トロツキー・スターリンは三人とも上機嫌で部屋から出て来たのは確かであった。
ヒトラーがドイツに帰国して、しばらくしてソ連の新聞にトロツキーとスターリンが公式に和解したことが発表された。
「偉大なる映画俳優ヒトラー氏が我々を和解させてくれた」とも発表された。
そして、ヒトラーが帰国したドイツでは、ドイツ議会で少数政党であったドイツ共産党が新しい思想を発表した。
それは「社会主義市場経済」というものであった。
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