第二十八話 アメリカへの航海 その7
フィリップス提督もリーチ艦長も「プリンス・オブ・ウェールズ 」の乗組員たちも誰一人として自分たちを狙っている潜水艦がいることにまったく気づいていなかった。
その潜水艦の艦内では乗組員たちが魚雷発射の準備をしていた。
もし、その光景をフィリップス提督が見ることができたとしたら、イギリス海軍の潜水艦の手本にしたいほど乗組員たちの練度は高かった。
潜水艦の艦長の発射命令により魚雷は発射された。
この段階になっても「プリンス・オブ・ウェールズ」も護衛の駆逐艦二隻も潜水艦の存在に気づいていなかった。
魚雷の雷跡に「プリンス・オブ・ウェールズ」の見張員が気づいたのは、魚雷が至近距離まで近づいた時だった。
見張員からの報告を受けたフィリップス提督とリーチ艦長は魚雷が「プリンス・オブ・ウェールズ」に命中することを覚悟した。
「この『プリンス・オブ・ウェールズ』に魚雷が命中したのは間違いないのだな?リーチ艦長」
「はい、フィリップス提督。間違いありません」
魚雷が命中したのならばやることは決まっている。
浸水した箇所の隔壁を閉鎖し、それ以上の浸水を防ぎ。
浸水により艦が傾斜したのならば、反対舷に注水することで復元する。
火災が発生したのならば消火し、負傷者が出たら救護する。
艦橋には艦内各所からの被害報告とそれに対する指示が激しく飛び交う……はずなのだが、艦橋は奇妙なほどに静かであった。
「リーチ艦長。繰り返し確認するが、潜水艦が発射した魚雷がこの『プリンス・オブ・ウェールズ』に命中したのは間違いないのだな?」
「はい、魚雷四本が命中しました。至近距離まで気づかす。艦長として大変申し訳ありません」
「謝罪は必要ない。それで命中した四本とも爆発しなかったのかね?」
「はい、その通りです。本艦に損害はありません」
「我々にとっては幸運だが、相手にすれば不運だな。しかし、四本とも不発なんてことがあるとは……」
「噂に聞いたことがあります。アメリカ海軍の魚雷は設計そのものに欠陥があり、不発になる確率が高いそうです」
「何だと!?魚雷に欠陥があるのならば、何故アメリカ海軍は改善しない?」
「アメリカ海軍の上層部は『現場の使い方に問題がある』の一点張りで、魚雷に欠陥があることを認めておりません。この噂は水兵たちのジョークかと思っていたのですが、どうやら事実だったようですな」
「アメリカ本土は混乱しているからな。ますます改善されることはないか、海賊潜水艦の制圧に向かった駆逐艦二隻はどうなっている?」
「魚雷による反撃を受けましたが、不発だったそうです」
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