第二十六話 アメリカへの航海 その5
ソードフィッシュは海面近くをゆっくりと飛行していた。
日本海軍やアメリカ海軍からは面と向かっては言われないが、陰でソードフィッシュが「時代遅れ」と言われているのをソードフィッシュの搭乗員たちは知っていた。
日米の空母艦載機の攻撃機は全金属の単翼機なのに、ソードフィッシュは翼が羽布張りの複葉機だからだ。
日米の攻撃機が時速三百キロ以上で飛行できるのに対してソードフィッシュは時速約二百二十キロが最高速度であることも評価が低い原因になっていた。
だが、ソードフィッシュの三人の搭乗員は自分が乗る機体に誇りを持っていた。
三人とも英本土を脱出以前から、ずっとソードフィッシュに乗り続けており、もはや自分の身体の一部になっていた。
それに、今回の任務は「潜水艦の捜索」である。
この任務には海面すれすれの低空を低速で飛行できるソードフィッシュの方が向いている。
ソードフィッシュは機体は確かに旧式化しているが、英日が共同開発した最新式のレーダーと海中に潜む潜水艦を探知するための磁気探知機を装備しており、捜索能力は日米の最新鋭機より高かった。
ソードフィッシュの磁気探知機が海中を航行する潜水艦の反応を捕らえた。
普通なら潜水艦の反応を捕らえた時点で、ソードフィッシュは潜水艦に爆雷を投下するのだが、今回はそうする訳には行かなかった。
ソードフィッシュから「プリンス・オブ・ウェールズ」に向けて通信用の電波が飛んだ。
電波は「プリンス・オブ・ウェールズ」に届き、艦橋のリーチ艦長に報告された。
「発見したようですね。フィリップス提督。ですが、ここからが問題ですね」
「そうだな。リーチ艦長。普通なら潜航している敵の潜水艦を発見したのなら撃沈してしまえばよいのだからな。だが今回は……」
「海賊潜水艦をアメリカ海軍はできるならば沈めるのではなく拿捕してくれと言われてますからね」
「海賊潜水艦の背後関係を知りたいのだそうだ。海賊潜水艦の単独犯行とは考えられないからな。他国に船と積み荷を売りさばいているからには背後に大きな組織がいる可能性が高い。海賊潜水艦を単に沈めてしまっては背後にいる組織には辿り着けないからな」
「では、フィリップス提督。事前の打ち合わせ通りにソードフィッシュには指示を出します」
航空戦艦「プリンス・オブ・ウェールズ」からの通信がソードフィッシュに届いた。
通信を受けて数分後、ソードフィッシュは爆雷を投下した。
事前の打ち合わせ通り爆雷は海賊潜水艦の至近だが、海賊潜水艦に損傷を与えないぎりぎりの距離に投下した。




