第二十四話 アメリカへの航海 その3
航空戦艦「プリンス・オブ・ウェールズ」はパナマ運河を航行して、太平洋側から大西洋側へと移動している途中であった。
英本土から日本に脱出した時はスエズ運河を通過したため、「プリンス・オブ・ウェールズ」がパナマ運河を通過するのはこれが初めてであった。
フィリップス提督は「プリンス・オブ・ウェールズ」の艦橋から外の景色を眺めていた。
「人間はこれほど巨大な運河をつくることができるのだな。この大工事を成し遂げたアメリカ合衆国は確かに偉大な国だったのだな」
パナマ地狭の地形を大規模に変えてしまった大規模な土木工事の結果を見て、フィリップス提督はつぶやいた。
「ですが、パナマ共和国はアメリカの混乱に乗じて、パナマ運河の国有化を宣言して自国の物にしてしまいました。パナマ運河の建設に多額の費用と手間をかけたアメリカとしては許せないことでしょうね」
リーチ艦長の言葉にフィリップス提督は苦笑した。
「確かにそうだが、アメリカは国内の混乱でパナマは放置状態だ。アメリカ連邦政府は形ばかりの抗議をしたが、パナマ運河のパナマ共和国による国有化は既成事実になってしまった。だからこそ……」
フィリップス提督は艦橋からは直接見えない後部の飛行甲板と航空機用格納庫の方に目を向けた。
そこには航空機は一機も無く、パナマ共和国向けへの支援物資が満載であった。
「この『プリンス・オブ・ウェールズ』は英本土から日本に脱出した時のように貨物船に戻って、パナマ共和国への通行料代わりの物資を運ぶことになったんだ」
フィリップス提督は英本土から日本に辿り着いたばかりの頃のことを思い出した。
後部砲塔が未搭載の「プリンス・オブ・ウェールズ」には日本で砲塔を載せようとしたが、それは困難であった。
英本土から砲弾は持ち出したが、砲身や砲塔までは持ち出せなかった。
日本製の既存の砲塔を載せるのも考えられたが、それをすると前部と後部の主砲の性能が異なるため、運用が困難になると取り止めになった。
日本に英規格の主砲を製造してもらうことも考えたが、生産が混乱すると日本側に断られた。
それならいっそのこと前部のイギリス製の砲塔を下ろして、前部も後部も日本製の既存の砲塔にすることも考えられたが、「数少ないイギリス戦艦の主砲が日本製では士気が下がる」と、それも取り止めとなった。
しかし、「プリンス・オブ・ウェールズ」の後部甲板が何も無い状態では見た目が悪いため対策が必要であった。
その答えが「プリンス・オブ・ウェールズ」を航空戦艦にすることであったのだ。
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