第二十三話 アメリカへの航海 その2
「プリンス・オブ・ウェールズ」は、ハワイのオアフ島にある真珠湾のドックに入っていた。
「数日の滞在のはずがハワイにいるのは長引きそうだな。リーチ艦長」
「はい、フィリップス提督、本格的な整備をハワイですることになるとは思いませんでした」
「ハワイに来て、艦のあちこちに不具合が見つかるとはな。日本でも、それなりに整備していたのだが、日本海軍の艦艇の方が優先されるからな。どうしても、こちらの方は後回しになる」
「ですが、ハワイにいる間に不具合が見つかって良かったのではありませんか?そうでなければ、洋上で航行不能になっていたかもしれません」
「確かにそうだな」
フィリップス提督は、ドック入りしている「プリンス・オブ・ウェールズ」を眺めた。
航海中は艦内にいるから外からこうやってじっくりと眺めるのは久しぶりであることにフィリップス提督は気づいた。
(何だが、前に似たような光景を見たことがあるような……、ああ、イギリス本土の造船所で見たんだ)
「プリンス・オブ・ウェールズ」は航空戦艦である。
艦の前部に主砲があり、後部は飛行甲板になっている。
一隻で戦艦と航空母艦を兼ねていて便利と、戦前の少年向き雑誌などで想像図が掲載されていて、大人気になったこともあった。
だが、現実に存在する航空戦艦は「プリンス・オブ・ウェールズ」だけである。
(日本国内向けの宣伝では『世界に誇るイギリス海軍の航空戦艦』なんて言っているが、『プリンス・オブ・ウェールズ』が航空戦艦になったのは苦肉の策にすぎないのだがな)
英本土が失われるのが避けられなくなった時、イギリス政府は決断を下した。
できるだけの人員・資産を海外に脱出させることにしたのだ。
イギリス王室・政府の人間はもちろん、科学者・学者・芸術家など将来のイギリス再建に必要な人材も海外に脱出させた。
持ち出す資産も金塊や宝石など資産的価値が高い物だけでなく、絵画や彫刻など歴史的価値が高い物も対象であった。
輸送のためにできるだけの船をかき集め、その護衛をするのはもちろんイギリス海軍であった。
「プリンス・オブ・ウェールズ」もその一隻であったのだ。
英本土脱出の時、「プリンス・オブ・ウェールズ」は前部砲搭のみが搭載されていた未完成の状態だった。
後部砲搭を搭載する時間的余裕は無く、むしろ、これを幸いとして後部甲板にできるだけの物資を積み込んだ。
幾多の困難に遭遇したが、「プリンス・オブ・ウェールズ」は日本列島にたどり着いた。
それが「プリンス・オブ・ウェールズ」が現在の姿になった原因であった。
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