第二十二話 アメリカへの航海 その1
アメリカ合衆国ハワイ準州オアフ島の軍港である真珠湾には、多数の艦艇がたむろしていた。
だが、そのほとんどはアメリカ海軍の艦艇ではなかった。
日本海軍の艦艇がほとんどであった。
それ以外では少数のイギリス海軍の艦艇があった。
その内の一隻である「プリンス・オブ・ウェールズ」の艦橋ではフィリップス提督とリーチ艦長が周囲の光景を眺めていた。
「アメリカ海軍の太平洋における重要な軍港である真珠湾に日本海軍の艦艇多数が停泊している……、数年前に言ったらジョークにもならなかったが、それが現実になるとはな……」
フィリップス提督のつぶやきにリーチ艦長が応じた。
「しかも武力で占領したわけではないですからな。連邦政府の命令でアメリカ太平洋艦隊のほとんどは東海岸に引き揚げてしまいからな」
「ハワイに駐留していた合衆国陸軍の方も米本土出身の兵たちが故郷の混乱で帰郷を求めて除隊希望が相次いで軍として維持ができなくなって消滅してしまったからな。その結果、ハワイが軍事的には空白地帯となってしまった」
「それで、ハワイ知事は日本よる『保護』を求めたのですな」
「ハワイ知事の判断は正しいと見るべきだろう。軍事的に空白地帯になったからには、日本が武力で占領しようとするのは時間の問題だったからな。そうなる前に自分の方から身を差し出したということだな」
フィリップス提督は双眼鏡で停泊している日本海軍の艦艇を眺めた。
「『アカギ 』『カガ』『ソウリュウ』『ヒリュウ』『ショウカク』『ズイカク』。日本海軍の正規空母六隻が揃い踏みだな」
「しかし、ある意味もったいない使い方ですな。フィリップス提督、正規空母六隻を輸送船として使うとは」
「日本海軍内部でも反対する者は多かったそうだ。だが、ハワイと西海岸諸州は一刻も早く不足する物資の提供を日本側に求めたそうだ。そうなると正規空母の航空機用格納庫に物資を詰め込んで運ぶのが一番速いとの結論になった」
「しかし、皮肉ですな。国内が豊富な天然資源に恵まれていて、経済的に世界で一番豊かだったアメリカ合衆国の一部とは言え、日本に物資の提供を求めるとは」
「アメリカ国内は生産も流通も混乱しているからな。現状ではヨーロッパ諸国と貿易するのは難しいし、貿易が可能な工業国と言えば日本ぐらいしなかない。知っているか?リーチ艦長、今、日本国内は第一次欧州大戦の時ぐらいの好景気になると見込まれているそうだ。世界が混乱しているなかで数少ない国内が安定している国で、輸出が順調に伸びているそうだからな」
「日本から借金をして海軍を維持している身としては、日本が豊かになる方が良いのでしょうが……」
「将来、経済大国となった日本が脅威になるかもしれんがな。さて!水兵たちを半舷上陸させよう。数日だがハワイでの休暇を楽しませよう」
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