第二話 イギリス海軍臨時総司令部
日本帝国海軍横須賀鎮守府の建物の一角にイギリス海軍臨時総司令部はあった。
フリップス提督とリーチ艦長は、臨時総司令部に来るたびに今の自分たちが「日本海軍という大家の間借り人」であることを確認することになるので複雑な気持ちになった。
二人は執務室に入ると、従兵が出した紅茶を飲んだ。
インドから日本に輸入された本物のセイロンティーであり、従兵の紅茶をいれる腕も良く、素晴らしい味であったが、それも二人を複雑な気持ちにさせた。
英本土を脱出する直前には、敵潜水艦による通商破壊であらゆる物資が英本土では不足しており、本物の紅茶は手に入らず不味い代用品ばかりを飲んでいた。
「英本土にいた頃は本物の紅茶など飲めなかったのに、日本に来たら飲めるようになったのは数少ない良いことだな」
フリップス提督は、コメディアンのように、日本人だったら落語家のようだと表現する口調で言った。
リーチ艦長は、それに対して生真面目な口調で言った。
「フリップス提督、英本土を奪回して、英本国の国民全員に再び本物の紅茶を飲めるようにするのが、私たちイギリス海軍の使命だと思います」
「その通りだな。リーチ艦長、ティータイムは終わりだ。英本土を奪回するための仕事を再開することにしよう」
二人はあちこちからの報告書を読みながら相談を始めた。
「やはり、『プリンス・オブ・ウェールズ』の艦載戦闘機であるシーファイアは全損したか?」
「はい、フリップス提督、演習中に『プリンス・オブ・ウェールズ』の後部飛行甲板からの発着艦の時に、機体が損傷しました。幸いパイロットは全員無事ですが、機体は予備の部品が無くなったので全機修理不能です」
「予備の部品の工場もシーファイアの工場も、今や懐かしき遥かなる英本土にある。元々シーファイアは空軍機のスピットファイアを海軍機にしたものだからな。空母で運用するには無理があったし、『プリンス・オブ・ウェールズ』の狭い後部飛行甲板では運用するには更に無理があった」
「やはり、日本のゼロ・ファイターを導入するしかないでしょうか?」
「それしかあるまい。後で日本側と私が交渉しよう」
「それと、艦載攻撃機のソードフィッシュの方は全機健在です。こちらの方は何故か英本土を脱出した時、予備部品を大量に持ち出したので、長期間の運用が可能です」
「だが、羽布張りの複葉機のソードフィッシュは、日本海軍の全金属単葉機にくらべると明らかに旧式だ」
「では、攻撃機も日本海軍機を導入しますか?」
フリップス提督は首を軽く横に振った。
「いや、日本から導入するのは、今のところゼロ・ファイターだけにしよう。ソードフィッシュはこれからも使い続けるつもりだ」
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