第十九話 アメリカの事情 その4
射殺された十歳の少年が連邦軍に向けて狙撃した理由は、本人が即死だったので不明である。
その少年が住んでいたあたりでは狩猟が盛んで、男子は全員幼い頃から父親に猟銃のあつかいを習うのが普通であった。
射殺された少年も父親から猟銃の使用法を習っており、さらには父親が強盗犯を射殺して地元警察から表彰されたことがあった。
推測ではあるが、少年の住む田舎町には連邦軍が来たのは初めてだったので、少年が連邦軍を強盗団か何かと勘違いして父親の真似をしたのではないかと思われた。
しかし、そんなことは現場の連邦軍の人間にとっては、どうでもよかった。
さすがに十歳の少年を「マフィアの一員だった」と強弁するのは無理がありすべてを隠蔽しようとした。
しかし、それを止めたのが事件の現場となった町に、たまたま休暇で里帰りしていた海軍士官であった。
蒸留所の摘発のために投入されている連邦軍は、マッカーサー大統領の出身であるアメリカ陸軍で、アメリカ海軍とアメリカ海兵隊は一切関わっていなかった。
マッカーサー大統領としては自身の出身である陸軍に功績を稼がせようとしていたし、実際問題として陸軍が一番ふさわしかった。
海軍と海兵隊はむしろ蒸留所の摘発に関わらないことに安心していた。
連邦軍の本来の任務は「外国との戦争」と考えていたし、蒸留所の摘発などという任務は軍隊のやることではないと、むしろ軽蔑していたからである。
海軍士官は海軍兵学校に入学する時に推薦してくれた地元州選出の上院議員に連絡を取った。
その上院議員は野党の有力政治家で反マッカーサーとまでは行かないが、野党議員としては与党の失点を攻撃するのは政治家として当然であった。
事態を知ったマッカーサー大統領は当初は「偶発的な事件」として現場の人間にだけ責任を負わせて、小さな問題で終わらせるつもりでいた。
しかし、マッカーサーが「ノルマ」を課していたことが、このような事態をまねいたとして批判が大きくなった。
批判にさらされたマッカーサーは人前に出ないようになり、ホワイトハウスに籠もって指示を出すだけになった。
「……と、ここまでは新聞を読んでいれば誰でも知っていることだな。リーチ艦長」
「はい、フィリップス提督。この報告書には我がイギリス情報部が突き止めた極秘情報が記されています」
フィリップス提督は重々しくうなづいた。
「そうだ。我がイギリス情報部は本国を失っても優秀だな。マッカーサー大統領の暗殺未遂事件が起き、マッカーサーは意識不明の重体で、側近たちがそれを隠しているという極秘情報を入手するとはな」
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