第十四話 ソビエツキー・ソユーズ追撃戦 その8
イギリス海軍の駆逐艦四隻は、砲撃の合間を縫うように「ソビエツキー・ソユーズ」に接近していた。
そして魚雷を「ソビエツキー・ソユーズ」に向けて発射した。
しかし、一般的な魚雷であったら目標に命中するどころか届かないような距離で発射された。
「ソビエツキー・ソユーズ」は、駆逐艦四隻が怖じ気づいて当たるはずのない遠距離で発射したと判断したのか回避しようとはしなかった。
しかし、一本の魚雷が「ソビエツキー・ソユーズ」に命中した。
イギリス駆逐艦が発射したのは、日本製の「酸素魚雷」であった。
日本以外の海軍では魚雷は空気を燃焼させる「空気魚雷」である。
酸素を燃焼させれば、魚雷の速度も射程距離も上がるのは分かっていたが、開発中に爆発事故が相次いだため、どこの国の海軍も開発を中止していた。
だが、日本海軍だけが極秘裏に「酸素魚雷」の開発に成功していたのだ。
イギリス海軍が酸素魚雷を手に入れたのは、イギリスのレーダーなどの電波兵器との交換であった。
「どうやら、これで勝ったな」
魚雷一本で速力が低下して、「プリンス・オブ・ウェールズ」と「ヤマト」の砲撃を受けて炎上する「ソビエツキー・ソユーズ」を見てフィリップス提督はつぶやいた。
「フィリップス提督、日本製の酸素魚雷がカタログ通りに作動して良かったです」
「まったくだ。リーチ艦長」
酸素魚雷が高性能なのは分かっていたが、あつかいが難しく、使い慣れた日本海軍でも事故が発生するため、フィリップス提督はイギリス海軍初の酸素魚雷の実戦での使用に不安があったのだ。
「ソビエツキー・ソユーズ」が沈没して、溺者の救助作業を終えると、フィリップス提督は宣言した。
「さあ、勝利の凱旋だ。ヨコスカに戻れば、ヨコスカ市民がチョーチン行列で我らの勝利を祝ってくれるぞ」
数日後、横須賀鎮守府の一角にあるイギリス海軍臨時総司令部で、フィリップス提督とリーチ艦長は新聞を読んでいた。
日本に滞在する外国人向けの英字新聞、日本の国内の新聞を英訳した物など数紙が机の上に置かれていた。
「フィリップス提督、やはり、どの新聞でも隅に小さな記事で書かれているだけです」
リーチ艦長が指差した記事には小さく「北海道近海に出没していた海賊船沈没」とだけ書かれていた。
「戦艦の撃沈は大きなニュースになるはずなのだがな。これでは小船の海賊船が事故で沈没したようにしか読めない。ヨコスカ市民によるチョーチン行列も無しだ。どういうことなんだ?」
フィリップス提督が不満を漏らしていると、机の上の電話が鳴った。
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