第十二話 ソビエツキー・ソユーズ追撃戦 その6
日本国内でヒトラーの「社会主義市場経済」に共鳴する人間は意外に多かった。
ヒトラーは映画で日本人やアジア人を二等民族あつかいしているため、一般大衆からは嫌われているのだが、逆にいわゆるインテリと言われる階層からは人気が高かった。
一種の自虐思想、欧米コンプレックスというべきもので「欧米で高く評価されているヒトラーに二等民族あつかいされるほど、我が日本民族は欧米にくらべて遅れているのだ。欧米に追いつくためにあらゆる手段を取らなければならない」と彼らは考えて「社会主義市場経済」を日本でも採用すべきだと考えたのだ。
日本では、この主張を表向き述べると、社会から排斥されてしまうので地下組織として活動するようになった。
その地下組織には、政治家・高級官僚・高級軍人などが参加していた。
その地下組織は表向きの名前は「ヒトラーの映画を非難する会」であった。
日本国内では事実上上映禁止になっているヒトラーの映画を会員の個人宅に集まって私的に上映して、ヒトラーの映画の過ちを非難するという趣味の会とした。
表向きは、ヒトラーを非難する会に偽装することで、ヒトラーの思想に共鳴する会だということを隠したのだ。
この偽装はうまく行き、特高警察なども、その会の正体に長い間気づかなかった。
地下組織の正体が発覚したのはある事件によってだった。
会に参加している陸海軍の人間が、海軍で開発中だった十八インチ砲の技術情報をソ連に渡したのだ。
詳しい事情を説明すると、こういうことであった。
日本陸軍は列強各国にくらべて、軍の機械化に遅れていた。
一応、戦車は国産できたし、国産トラックの生産も進んでいたが、質・量ともにまだまだであった。
そこで、ソ連の技術を日本に輸入しようとしたのだ。
ドイツではベルサイユ条約により、ドイツ国内での戦車の研究開発・製造を禁止されていたので、以前から秘密裏にソ連国内で戦車の研究開発をしていた。
ドイツの大企業がソ連に進出すると、それは公然の秘密になっていた。
仮想敵国であるソ連の技術を手に入れようとするのは奇妙に思えるかもしれないが、ソ連との関係を強化することで、ソ連との戦争を回避するという考えが一部にはあったのだ。
ソ連側はもちろん見返りを求めた。
それがソ連が日本にくらべて遅れている海軍に関する技術であったのだ。
最初は日本側は旧式戦艦や初歩的な航空母艦に関する技術の提供でお茶を濁そうとしたのだが、ソ連側は受け入れなかった。
最新の海軍技術の提供を求めたのだった。
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