第一話 対空戦
航空戦艦「プリンス・オブ・ウェールズ」の艦橋で、イギリス海軍大将トーマス・フィリップスは苛立っていた。
何故ならば、一方的に空襲を受け続けていて、敵に対してマトモな反撃ができていないからだ。
「プリンス・オブ・ウェールズ」についてフリップス大将は細かく指示を出したくなる衝動に駆られたが、個艦レベルの指揮は艦長の管轄であるので、艦長の職権を犯すようなことはできず。
また、そのようなことをすれば、部下たちに動揺しているのを知られるので、表向きは冷静でいるように振る舞っていた。
「プリンス・オブ・ウェールズ」の後部飛行甲板から発艦した戦闘機隊は、日本海軍のゼロ・ファイターにすでに駆逐され、日本海軍の爆撃機・雷撃機は上空を縦横無尽に飛び回っている。
タイプ99艦上爆撃機とタイプ97艦上攻撃機は、「プリンス・オブ・ウェールズ」と護衛の駆逐艦4隻の放つ対空放火などものともせず、肉薄して爆弾や魚雷を投下して来る。
「プリンス・オブ・ウェールズ」艦長ジョン・リーチ大佐も苛立っていた。
頻繁に進路変更の指示を出すことで、航空攻撃を避けようとしていた。
英国本土にいた頃に、味方の空母艦載機相手の演習をしていたので回避には自信を持っていた。
だが、日本海軍機はイギリス海軍機を遥かに上回る速度で、過去の演習の経験の意味がほとんど無かったのだ。
(クソっ!この鈍重な戦艦が!)
リーチ艦長は内心で罵り、自分が罵ったことに驚いた。
イギリス海軍の最新鋭戦艦キング・ジョージ五世級二番艦「プリンス・オブ・ウェールズ」の艦長に任じられれた時には、リーチ艦長は誇りに思った。
英国首相がキング・ジョージ五世級戦艦を「不沈戦艦」と呼んだ時には、それに心の底から同意したが、今はそうは思えなくなっていた。
艦内のあちこちからの損害報告が「プリンス・オブ・ウェールズ」の命運が尽きたことが分かった。
リーチ艦長はフリップス大将に総員退艦の許可を求めると、フリップス大将はそれを承認した。
リーチ艦長はフリップス大将にも退艦を求めたが、「ノーサンキュー」とフリップス大将は答えた。
フリップス大将とリーチ艦長は沈没する「プリンス・オブ・ウェールズ」と運命をともにした。
「……以上が、本日の演習結果だな。リーチ艦長」
「はい、フリップス提督」
日英合同演習終了後、上陸した二人は、司令部に向かう自動車の中で、演習内容について話し合っていた。
「演習とは言え、『プリンス・オブ・ウェールズ』を失い。私と君が戦死するという事態には怖気をふるうな」
「はい、今、我々は日本の間借り人の身ですから。艦にも人にも余裕はありません」
フリップス大将は苦笑した。
「まったくだ!日本の横須賀に、英本土を脱出したイギリス海軍の臨時総司令部があるなど、数年前に言ったらジョークにもならなかったが、今は、これが現実なのだからな!」
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