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わたしのすてきな後見人  作者: 畑中希月
第四章 後見人改め……

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第二十二話 一通の手紙

 その日の午後のことだ。オティーリエとイルゼが血相を変えて、ロスヴィータの部屋に入ってきたのは。これには、ロスヴィータはもちろん、二人を出迎えたリベアティアも驚いた。


「どうしたの、二人とも。伝説の竜か鷲頭獅子グライフでも現れた?」


 息を切らしてオティーリエが答える。


「──違うわよ。国王陛下がいらっしゃったの」


「ディーケ王女にお会いになるために?」


「王妃陛下とお帰りになるために! 今日は何が何でもお引き戻しあそばすご所存よ。近衛騎士を何人もお連れになってたし。そうそう、ラリサ伯もいらっしゃったわよ」


「え……」


 思わずリベアティアは言葉を失う。冗談で言ったのに、まさか本当にグライフ(レシエム)がきてしまうなんて。どんな顔をして彼と会えばよいのだろう。

 イルゼが瞳を潤ませてロスヴィータに訴える。


「国王陛下はもうすぐこのお部屋にいらっしゃいます。鍵を閉めても、扉を壊してしまわれそうな勢いで。……いかがなさいますか?」


 ロスヴィータは優美に立ち上がり、決然と言った。


「仕方がないわ。わたくしが直々に応対します」


 リベアティアたちは部屋の壁際に控え、ロスヴィータは扉の正面に佇む。


 やがて、整然と揃った無数の足音が、扉の前で止まった。扉が音高く開かれ、シュツェルツが姿を現す。すぐうしろにはルエン、それにレシエムが控えていた。レシエムと目が合ってしまったので、リベアティアは慌ててそっぽを向いた。


 お辞儀をするや否や、ロスヴィータはシュツェルツに詰め寄る。


「どういうおつもり? 数を頼んでわたくしを連れ戻そうとなさるなんて。女官たちが怯えるでしょう。元々かけらほどしかない良識まで失ってしまわれたの?」


「悪いが、君の毒舌に怯んでいる暇はないよ。先程、枢密院会議で、君の素行を咎める発言があった。早く戻りなさい、ロスヴィータ。君自身やディーケのためだ」


 ロスヴィータは一瞬息を呑んだようだが、再び眉をつり上げる。


「そう。人に何かを言われたから、ようやく動かれた、というわけでございますのね」


(……王妃陛下、この前は国王陛下の御許に戻ってもいい、とおっしゃっていたのに)


 やはり、本人を前にすると素直になれないのだろうか。その気持ちは、自分にも分かるような気がする。

 シュツェルツはおもむろにかぶりを振る。


「それは違うよ。私自身が君に戻ってきて欲しいんだ。神々に誓って言うが、私は浮気をしていない」


「……そんな。だって──」


「イングリトは君に嘘をついたんだよ。私が彼女に何度も会っていたのは、勤務態度を改めてもらうためだ。何もなかったし、恋愛感情も持っていない。私の妃は今までもこれからも君一人だ。だから、頼む。戻ってきてくれ」


「……本当に、心から、そう思っていらっしゃるの……?」


「もちろん、思っているよ」


 シュツェルツは優しくほほえむと、ロスヴィータを抱き寄せ、口付けた。

 オティーリエとイルゼが小さな歓声を上げる。まあ、夫婦だものね、と思いながらも、事の真相を明かされた衝撃もあり、リベアティアはその場に固まってしまった。


 ロスヴィータを抱き締めたまま、シュツェルツは悪びれた様子もなく辺りを見回す。


「……ということで、皆、部屋から出ていってくれないか。王妃と二人だけで話がしたい」


 リベアティアたちは慌ててかしこまると、ぞろぞろと部屋をあとにした。最後に部屋を出、扉を閉めたルエンに、レシエムが信じられないという面持ちで語りかけている。


「……陛下はご正気か? 衆目の前で、堂々とあのような恥ずかしい行動をなさるなど」


「陛下の羞恥心は、伯爵閣下の羞恥心とは別の場所にあられるのでしょう」


 しみじみと答えるルエンに、レシエムは分かったような分からないような表情で頷いたが、リベアティアの視線に気付いたらしい。むっつりとした表情で、すっと歩み寄ってくる。


「昨日、リヒトからこれが届いた。君の分だ」


 上衣の裏から一通の手紙を取り出すと、リベアティアに向けて差し出した。リベアティアはおずおずと受け取る。


「招待状だ。結婚式の」


 レシエムは一言だけ付け加えると、離れていった。


 リベアティアは思わず同僚たちのほうを振り返る。オティーリエもイルゼも、興味津々といった様子で、リベアティアと手紙とを交互に見ている。いくら手紙の内容がやましくないからといって、人前で渡すこともないだろうに。


(レシエムだって、国王陛下と大差ないわ。充分羞恥心がずれてるじゃない!)


 リベアティアは憤然としたが、彼への返答を、まだしていないことに思い至った。


 答えを出さなくては──できれば、結婚式の前までに。

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― 新着の感想 ―
[一言] ルエン、立派になって…!! と改めて思う次第。 まぁ陛下は羞恥心より愛の方が大きい方だから…
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