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苦手な方はご注意ください。

魔導戦士OverZone

作者: 緑野くま

気が付くと俺は、不思議な空間にいた。

空は黒く染まっていたが星があちこちで煌き、大地は雪でも降ったかのように真っ白だった。

しかもその白い大地には、水晶でできた墓標のようなものがおびただしい程あった。

一体ここは何処なんだ?確か、俺はあの時、ベッドに入ってそのまま眠って…。ああ分かった、ここは夢の中だ。きっとそうだろう。もし、こんなにも神秘的な場所が現実にあるのなら、教えてもらいたいくらいだ。

そう考えていたときだった。俺の目の前に、小さな光が出てきたのだ。

そして、その光が俺に話しかけてくる。

『ねえ、君って10年前のこと、知ってる?』

「10年前?」

『その様子だと、知らないみたいだね。…一つ教えてあげる。10年前のことが、再び起きる。そして、ボク達が君達の世界に行く。』

「どういうことだ…?10年前、何があった?」

『確かなことは、人々が絶望の運命を辿っていたこと。そして、選ばれた者が運命を覆していったこと。』

「それだけじゃ分からないな。具体的に説明してはくれないのか?」

『説明したいけど…もうじき朝になる。長くなってしまうよ。』

「そうか、なら一つ教えろ。お前は誰だ?」

『ボクは、時の守護者 クロノス。』

「クロノス…?」

『また、この場所か現実で会おうね。九条(くじょう)刹那(せつな)。」

辺りがまばゆい光に包まれた。


ああ、また変な夢を見てしまったな。

俺は目を覚まし、ベッドから出ながらそんなことを考えていた。

いつにも増して非現実的な夢だった。まるでファンタジーRPGのプロローグを思わせるような…そんな感覚がした。

それにしても、再び起きるとは…どういうことだ?まさか天変地異の如く世界そのものが変化し、あの夢で見たような世界になってしまうのか?

いや、ありえないな。第一にあのクロノスと名乗った人物が、10年前と言っていた。何も無かったからこそ、今のこの世界が存在しているのだろう。

他にも不思議なことは沢山あったが、考えようとしたときに「刹那ーっ。早く起きなさいよー。」という声がした。

考えるのはまた後でにしよう。今は時間の無駄になるだけだ。


その後、俺は階段を駆け下りてリビングへと入った。

「おはよう。母さん、父さん。」

椅子に座り挨拶した後、俺はテレビに目を向けた。

「最近は不吉なことばかり起きるな。」

父さんがそう呟く。というのも、ニュースで取り上げられていたのが、住宅街で女性の死体が発見されたことだったからである。

身体のどこにも外傷がなく、事故なのか、事件なのか皆目見当もつかないようなものだといっていた。

しかも…今回が初めてではない。数日前にもあったのである。

「刹那…あなたも気を付けなさいよ?もしかしたら、殺人の可能性だってあるし…ねぇ。」

「分かっているよ。そういう母さんたちだって、夜遅くに帰って来るだろ?だったら余計気を付けないといけないじゃないか。」

母さんは「こっちだって分かっているわよ。」と微笑みながら言った。

朝ご飯を食べながらニュースを見ている俺は、まだ心のどこかであの夢のことを思っていた。


7時30分になったころ。俺は中学校へと向かっていた。

俺の住む町…【明真城めいしんじょう】は、辺境とも言える場所に位置しており、下手すると地図でもなかなか見つけられない。知っている人はかなりの博識だろう、そんな町だった。

だが、ビルやアーケード街が多く、近未来的な建物も数か所存在するため、他の地域の人からは【隠された都市】という風に呼ばれている。

今日、そんなこの町では珍しく、雪が降っていた。登校している小学生の子供たちがはしゃいでいた。

楽しそうなものだが、現実はちょっとしたパニック状態に陥っている。そんなところだろうか。

そう考えていた時だった。後ろから突然、

「なんか楽しそうね。どうしたの?」

という声がした。振り返ると、そこには俺の幼馴染、(たちばな)愛来(あいら)の姿があった。

「愛来か。いや、子供が楽しそうにしていたから…な。」

「へぇ、刹那って意外なところに目を向けるんだね。」

「どういう意味だ?」

「何でもないよー。」

こいつと話をしていると知らないうちに楽しいような気持ちになってくる。それは、出会ってからと変わりなかったような気がした。

しばらくして、愛来が話題を変えてきた。だが、それは意外なものだった。

「何かさ、不思議な夢見たんだよね。」

「夢?」

「うん。何か凄く神秘的な場所に自分が立っていて、時間経ってから小さな光が出てきて…」

俺はその内容を聞いたとき、ただただ驚くことしか出来なかった。何ということだ。俺と同じような夢を見ている奴が他にもいたとは!!

しばらく呆けていたせいか、愛来が「えっ何?どうしたの?」と不安げな顔で訊いてきた。

その経緯を話すと、愛来は「えええーっ!?」と悲鳴にも似たような声を上げた。

その後、焦りを見せながら、こちらに質問をしてきた。

「ちょ、ちょいまち。一つ質問させて。刹那のところに来たのって、精霊姫 エルデって言ってた?」

「エルデ…?いや、違うな。俺のところに来たのは、時の守護者 クロノスと名乗っていた。」

「あ…そうなの?成程。同じような夢でも、部分的に違うところがあるみたいだね。」

愛来は何かを納得していた。間違いなく夢のことだろうが、本当にそんなので良いのだろうか?

そのとき、【神岡かみおか第一中学校】と刻まれた石碑が目に飛び込んできた。話をしていたら、いつの間にか着いたらしい。

俺たちは校内へと行き、教室へと向かった。

「結局、何だろうね。私たちの見た夢って。」

教室に着いた後、愛来のふとした言葉から、またあの夢の追及が始まった。

「さあな。ただ、10年前というのが引っ掛かるな。」

「そうだね。一応先生とかに訊いてみようよ。何か分かるかもしれないし。」

そうして、昼休みの時間を使っての調査(というよりは聞き込み)を計画した。


昼休み終了後。教室にて。

「何か分かったか?」

愛来が来た直後、早速ではあるがそれぞれ手に入れた情報をを交換した。

「ええと。10年前に、今起こっている事件と全く同じようなことがあったみたい。」

「今起こっている…?ああ、あの変死体のやつか。」

「うん。でも、その出来事いつの間にか無くなったんだってさ。」

「さっぱり、か?」

「そう、さっぱりと。」

「俺も同じような事しか聞かなかったが…お前のほうが具体的だな。」

結局、情報不足ということもあり、今回はここで解散となった。

チャイムが鳴り、5時間目の授業が始まる。

やはり退屈だ。しかも給食を食べた後だからか、頭がボーっとする感覚がする。

俺は窓の外を眺めていた。雲一つない、すがすがしい程の青空だった。

変死体の出来事さえなければ、平和だというのに。そう思ってもいた。

その時だった、突然声がしたのである。

『10年に一度、復活するものの名は 魔導石マジックオーブ。ボク達の母たるものであり、魔導戦士の糧となるもの…』

何なんだ、今の言葉は。魔導石?母たるもの?魔導戦士?訳が分からない。

そのとき、「九条さん?どうしました?」という担任の声を聞いてやっと我に返る事ができた。

そうだ、気にしなければどうにもならないか。自分でもやっと気づいて、少し恥ずかしいような気にもなった。

ボーっとする感覚も抜け、ようやく授業に集中することが出来る。そう俺は確信していた。

ただ一つ、気になったことがある。さっきの声が、あの夢の中で聞いたものに似ていたのだ。まさか…な。


この日、学校が終わった後、すぐさま家に直行した。どうしても心が落ち着かないのである。夢のことといい、あの声といい、何かがおかしいように思えた。

家に着いた後、自分の部屋に向かって全力疾走し、ドアを強烈なまでに勢いよく閉めた。

「…ハァ」

ため息が出た。このやり場のない何かをどこにぶちまければいいのか、見当がつかない。完全なる思考停止である。

頭を抱え、体育座りのような体制で椅子に座る。

何かモヤモヤするようなものが胸にある。気持ち的な問題だろうが、今の俺にはどうにも出来なかった。

心臓が鼓動している音しか聞こえない。そんな状態だった。

そのとき突然、この静けさをぶち壊すように電話のベルの音が響いた。

急いで受話器を取ると、声がした。母さんの声だった。

『ああ、刹那?いきなりなんだけど今日、乃愛ノアが帰って来るって連絡が入ったの。』

乃愛というのは、俺の姉である。

「珍しいな、姉さんが戻って来るのか。それで…どうすればいいんだ?」

『私もそんなに早く帰れる訳じゃないから…、二人で適当に晩御飯食べてね。』

「分かった。とりあえず何かあるもので済ましておくよ。」

『ありがとね。それじゃあ。』

そういった後、電話は切れた。再びあの静けさが戻ってくる。

少し気持ちが楽になったような気がする。良かった。これで冷静に行動できる。

そう思い、俺はまた自分の部屋へと向かった。だが…この後、今日起きた出来事の中でも、最も現実離れしたことが起きるとは…当たり前だが、想像していなかった。


午後7時。ある程度の晩飯の準備を終えたころ、能天気な声が響いてきた。

「おう、ただいま。元気にしてたか?」

「…!姉さんか。お帰りなさい。」

「何だよ、浮かない表情だな。何かあったのか?」

「いや…何でも。そんなことよりも、晩飯の準備しておいたから。」

話の逸らし方がだいぶ強引だったような気がしたが、姉はたいして気にしていないようだ。

俺は姉のこの性格がどうも馴染めなかった。どうしてここまで気楽にいられるのだろうと、毎回考えてしまうのである。そして、男勝りなところもだ。

突然、なんの前触れもなく姉が話しかけてきた。

「お前、最近通販で何か注文したりしたか?」

「えっ?いや、無いけど。それがどうした?」

「お前宛ての届け物があったぜ。」

「はっ?!」

声を上げたと同時に、箸から焼き魚の欠片がぽとりと落ちた。いや、そんなことよりもさっきの発言だ。届け物だと?!

ありえない。宅配便業者の人に会った覚えはないし、ハンコを押した記憶もない。それ以前に、電話のあった直後部屋にこそ戻ったが、その時から部屋からは一歩たりとも出てはいないし、チャイムの音など一度も聞いていない!!

俺はそのことを姉に話した。終わった後姉は目を丸くしながら、「何じゃそりゃ。」と言った。

だが、その後姉は元の表情に戻り、

「まあ、後で調べてみようぜ。これ食い終わってからよ。」

と言いながら、味噌汁を流し込んでいた。

俺はその時思っていたことがある。この状況の訳が分からん、と。


およそ10分後。俺たちはその届け物を見ようとなり、玄関へ向かった。そこには姉の言った通り、段ボール箱がぽつんと置いてあった。

「差出人の名前が書いてないな。ひょっとしてなんかの悪戯(いたずら)なんじゃねえのか?」

「それはまだ分からないよ。でも、調べてみるしか方法はない。」

俺は段ボール箱を抱えてリビングへと向かう。その時俺は、その段ボール箱がそれなりの大きさがある割にはかなり軽かったので少し驚いていた。

段ボールを床に置き、カッターを持ってくる。一応何が入っているのか分からないので、丁寧に開けることにした。

一度姉と顔を見合わせ、覚悟を決めてその箱を開けた。

「…えっ?」

「…何だこれ?」

そこに入っていたのは、石だった。だが、これを見る限り、ただの石ではないようだ。

美しい光を放ち、ところどころが透明になっている。パワーストーンか何かを思わせるような感じだった。

「綺麗だな。お前の部屋に飾ったらどうだ?」

「それもいいかもしれないけど、調べないといけないだろ。」

「はいはい分かったよ。…ん?」

姉の表情が変わった。一体どうしたというんだ?そう思い質問すると、姉は石を指差しながら言った。

「裏の部分に何か…刻まれていないか?」

「刻まれている?」

石を裏返すと、そこには確かに何かが刻まれていた。

英語で刻まれていてよく分からない。試しにだが、その文字を読んでみることにした。

「えーっと…何だ?く…ろ…の…す。何っ!!クロノス!?」

「おい刹那?どうした?!…うわっ!!」

その瞬間、部屋全体が光に包まれた…。


「せ…な。刹那。おい!起きろ刹那!!」

目を覚ますと、そこには姉が焦った様子で俺を見ていた。

「大丈夫か?私は何とも無いけどよ。」

「そうか…それなら良か…!?」

俺たちは目を疑った。俺たちの目の前に、会ったことのない少年が立っていたからである!

『こんばんは。九条刹那。』

「うわああああああっ!?」

驚きと恐怖で叫び、確実に2、3歩下がった。

『覚えてないかなぁ?そっか。あの時この姿で会っていなかったからね。驚くのも無理ないか。』

「お…お前何を言って…?」

瞬間、俺の脳裏にある言葉が蘇る。

『また、この場所か現実で会おうね。九条刹那。』まさか、この少年は…!!

「クロノス…?」

思わずそんな言葉が漏れ出た。すると、少年は微笑み、

『そうだよ。ボクはクロノス。異世界から、この現実に来たんだ。』

と言った。

「異世界だと?まさか…そんなことあるわけ…。」

「…ああっ!!」

突然姉が声を上げた。今度は何なんだ!?そう思ったとき、姉はありえないことを口にした。

「思い出した!そうだよ、久しぶりだなぁクロノス。全然変わっていないじゃんか。」

『ボクも思い出したよ、乃愛。君はもう大人になっているんだね。」

「ちょ…ちょっと待ってくれ!!」

俺は姉とクロノスの会話を遮り、今までの疑問を一気に放つ。

「姉さんまで一体どうしたんだ?!何なんだこれ?!訳が分からない!!いきなりそいつが出てきたかと思えばそんな厨二病発言から始まってしまいには姉さんまで話に乗って…本当に何なんだよぉぉぉぉぉぉぉ!?」

「おい刹那。こっちもこっちで悪かったから、とりあえず落ち着け!一旦落ち着け!!」

俺の顔がどんどん熱くなっている。しばらくは冷めなさそうだ…。


気持ちを落ち着けるために確実に20回は深呼吸をしたであろうその後。今ある情報をまとめるためにクロノスと姉、そして俺の3人で話をすることにした。

「話をする前に…1つ質問をさせてくれ。本当に異世界から来たんだよな?」

『そうだよ。何度も言っているじゃないか。』

「そうだな…それを仮定に話を進めよう。」

そして、あの夢の話の続きが聞きたかったのでクロノスに話したところ、詳しく教えてくれた。

『まず、ボク達は10年に一度、必ずこの現実世界に来ることになっているんだ。』

「そして、来る前には必ず、あの夢を見ると?」

『そういうことだね。その後何らかの方法を使ってこの石…魔導石を送るんだ。ちなみに、ボク達は普段この石の中で過ごしているんだ。』

そうか、だからあの時クロノス(らしき声)は魔導石のことを【母たるもの】といっていたのか。勝手にそう思っている中で、姉がクロノスに質問をした。

「どうして、この世界に来る必要があるんだ?お前らが来ることに何か意味あんのか?」

『ああ、一応あるよ。』

何だろう、嫌な予感がする。俺たちは不安に駆られていた。

そして、クロノスの口が開く。


『この世界のことを学習するためだよ。』

「えっ?!」

『この世界の文明がボク達の世界では珍しくてね。いろんなものを見て勉強するって感じかな。』

「それじゃあ、何故人間と行動する必要がある?」

『ボク達だけじゃあよく分からないんだよ、未知の領域って感じでさ。それで、君たち人間からいろんなこと聞いていくってワケ。』

だが、その話を聞いて、ふと疑問があがった。何故あの時、絶望を辿っていたと言っていた…?

『最初は上手くいっていたんだけどね…。』

俺が質問をする前に、クロノスが話した。その時から、声のトーンが暗くなる。

『ボク達の仲間の中に、人間の感情を探って魔導の力を与えて、悪いことしようっていう奴らがいたんだ。それで、そいつらを止めるために、ボクらも人を探して魔導の力を与えて戦っている…。っていう感じかな。』

「人間が魔法なんて扱えるのか…?!」

『扱えるよ。この魔導石さえ使えばね。』

ここまで来ると、もはや別次元の話にしか聞こえない。だが事実は事実だ。今こうやって異世界の住人が目の前にいるのだから。

その後、今度は姉が口を開く。

「実際10年前、私がお前と同じ年のころにこいつが来たんだ。まあその時は今のお前と同じような状況だったけどな。」

姉が一人で爆笑しながら話を進める。本当にこの人のテンションにはついていけないな。

「それで私は同志と一緒に戦ったんだよ。私はお前の先輩ってわけだな。ハハッ」

「まだなるって決めていないからな!…って何になるんだ!?」

すると、クロノスが俺のほうを向き、静かに言った。

『魔導石を自分自身に憑依させ、魔導と共に戦う戦士…。魔導戦士にだよ。』

その瞬間、俺の頭の中は真っ白になる。ああ、何てことだ。まさか、あの非科学的な力が、この現実世界に存在するとでもいうのか?いや、クロノスたちがいる限りはありえるだろうな。

だが…今の俺には、魔導戦士…と言ったか、それになる理由などない。

「残念だが、なれないな。大きなことが今1つとして無い。」

『いや、もう起きてるよ。』

そう言ったのはクロノスだった。

『最近この町で、変死体が相次いで見つかってるみたいだね。』

「それがどうした?…まさか。」

『そう、そのまさかだよ。』

そして、クロノスは言った。

『あれは、魔法を使った殺人だよ。』

俺の見た世界は、あっという間に豹変してしまった。


次の日、俺は何かの違和感を感じながら目覚めた。

昨日のあの出来事は何だったのだろうか。出来るならば夢であってほしい。

だが、そんな俺の望みは、ある声と共に崩れ落ちた。

『おはよう刹那。よーく眠れたかい?』

「眠れるわけないだろう。それよりも何でいるんだ?」

『昨日の話の続きがしたかったから。』

まさかこいつと暮らすことになるとは…呆れてものが言えない。

とりあえずリビングにでも向かおう。そう思い俺は階段を駆け下りた。

「刹那?今日は随分と遅いわね。まあ休みの日だから別にいいけど。」

「それに今日は部活も休みだしな。」

椅子に座った直後、クロノスが突然話しかけてきた。

『ちなみに言っておくけど、ボク達の姿や声は、魔導石に選ばれた人にしか見えないし聞こえないからね。』

こいつ、ついて来ていたのか。しかも堂々と俺の目の前に姿を現したのもそういうわけか…。

「分かった。とりあえず、母さんの前で話をするのはまずい。だから、黙っていてくれないか?」

『うん、分かった。』

母さんに怪しまれないよう、小さな声で話す。

これからこんな生活が続くのが、つらい。そう思っていた。


「じゃあ、行くわね。留守番よろしく。」

「ああ。いってらっしゃい。」

母さんが仕事に出かけ、やっと解放されたような気がした。母さんが厳しいからというわけではない。クロノスがいるのが、はっきり言って厄介だからである。

再びリビングに戻ろうとすると、電話が鳴った。先に姉が受話器を取る。

「はい、もしもし。…ああ、そうだよ。久しぶりだね。…刹那だね?分かった、ちょっと待っててね。」

そして、姉が俺の方へと向き直る。

「刹那。愛来ちゃんからだよ。」

「分かった。今行く。」

姉から受話器を受け取り、耳に当てた。

『もしもし、刹那?今日時間ある?』

「あるけど、どうした?」

『すごいことが起きたの!昨日言ったエルデっていうのが本当に出てきて…あっ、もしかして刹那のところもあった?』

「ああ、あったさ。それで、顔合わせと話をしたいと?」

『そういう事!じゃあ、刹那の家に行ってもいい?久しぶりに乃愛さんに会いたいんだっ!』

「大丈夫だ。いつでも来い。」

『よっしゃー!それじゃ、また後でねっ。』

ガシャンと音を立てて電話が切れた。愛来のテンションがいつにもまして上がっていたのはこっちにも伝わった。

「愛来ちゃんも相変わらず可愛いなぁ。フフッ」

「姉さん…。どうした?」

「いや、聞こえたんだよ。お前らの会話が。あっそうだ。」

姉さんがいきなり俺に近づいてくる。しかも、気味の悪い笑顔だったため、俺は逃げるようにして後ろに下がった。

「お前さあ、いつも愛来ちゃんと一緒にいるんだろ?だったら勢いでもいいから告白でもしたらどうだ?」

「な、何言っているんだ?!」

『刹那の顔真っ赤だね。』

「お前は黙っていろクロノスッ!!」

ちなみにだが、この混沌とした状況は30分程度続いた…。


この状況がだいぶ回復した後、チャイムの音がした。

「お邪魔しまーす。」

愛来の声だ。俺は玄関へと向かう。

「来たか。とりあえず上がれ。話はその後だ。」

そう言っている間、愛来の背後に少女がいるのに気付いた。恐らく愛来の言っていた、【エルデ】だろう。

愛来はリビングに入るとすぐに姉の存在に気付き、

「おいっす乃愛さん!久しぶりです!!」

と挨拶をしていた。

「乃愛さんって今は、警官の仕事どうなんですか?」

「警官って言ってもまだ下っ端だぜ?まあでも…それなりに頑張ってはいるよ。」

愛来は姉さんとの話を終えると、早速背後にいた少女を紹介してくれた。

「刹那は分かったと思うけど、この子がエルデ。異世界のお姫様なの。」

『改めて、よろしくお願い致しますわ。』

エルデは深々と頭を下げながら言った。成程、姫というのはあながち間違いではないようだ。

『エルデ、この女の人覚えている?』

クロノスが姉を指差しながらそう言った。するとエルデの表情が明るくなる。

『もしかして…乃愛?まあ、これは運命の再開ですわ!!』

エルデはそう叫んだあと、姉さんに抱き付いた。

「えっどういう事?何で乃愛さんは知っているの?!」

愛来は訳が分からないとばかりに俺の方を向く。

「ハァ…一応全部話そうか。」

俺は一度、今まで起きたことを全て話した。


状況を掴んだ愛来は、何かを考えていた。あの例の事件のことだった。

「あの変死体、魔法が関わっていたんだね。でも…何の魔法なんだろう?」

「さあな、それさえ分かれば良いんだが。」

魔法と言っても様々な種類があるのは分かっていた。一体何なのかを考えていた時、姉が口を開く。

「そういえば、一応私も警察だから、今回の事件…って言った方がいいかな。とにかくそれの情報は持っている。その中で、1つ気になったことがあったんだ。」

「気になること?」

「ああ、人が死ぬ前に必ず、ある音楽が流れていたらしい。」

「音楽…!?」

「ヴァイオリンだか何だか、弦楽器で演奏されているものだ。聴いてみるか?」

姉さんの提案ということもあり、聴くことにした。

ヴァイオリンの美しい音色が響き渡る。だが何故だ?この曲を聴いていると何か悲しいものを感じる。そう、まるでこれは、人の死を感じさせるような…。

いつの間にか曲は終わっていた。その時はただただ呆けていることしかできなかった。

だが、クロノスとエルデの2人は驚愕していた。何に驚愕しているのかは分からなかったが、この2人がそんな表情をしているということはかなりまずいのであろう。そう思ってクロノスに話しかけると、

『まずいどころじゃないよ。』と緊迫した口調で言われた。

『間違いない。これは、音響魔法による調べだ。』

「音響魔法?』

『音の力で様々な効果を発動することの出来る魔法ですわ。でも、この曲は…。』

「この曲、何というタイトルだ?」

『…復讐の鎮魂歌(レクイエム)。』

タイトルを聞いた瞬間、凍り付くような感覚が全身に走る。復讐、そして鎮魂歌。さっき感じていたのはこれが関連していたものだったのか…?それを想像した上で、クロノスに尋ねる。

「この曲をまともに聴いたものは死ぬ…。当たっているか?」

『うん。その通りだよ。…こっちからも質問していい?』

「…何だ。」

『ヴァイオリンでも何でも楽器の演奏が上手くて、心に闇を抱えていそうな人…。誰か心当たりない?』

「そんな奴いるわけ…」

俺がそう言いかけた時、愛来がハッとした表情になる。

「1人、いるかも。」

その時全員が愛来の方を向く。最初、愛来の顔が引きつったが、落ち着きを取り戻し話を始めた。

「私と刹那とはクラスが違うんだけど、高木(たかぎ)(ゆう)っていう男子がいるんだ。」

愛来の話は次のように続く。


高木優には友達がいなかった。何でも、その暗い人柄と他人に興味がないことから、近寄りがたい存在だったらしい。

ちなみに彼は吹奏楽部所属で、部内の評判こそ良かったものの、話し相手はまともにいなかったという。

何でも、彼には親友がいたが、その親友に裏切られることになる。そして、ついに人間不信の状態にまで追い込まれたという。

優自身も劣等感を抱え、その影響あってか引きこもりになり、担任が来ても部活の先輩が来ても心を開こうとはせず、その日以来、学校で姿を見せることは無かった。


「…っていう感じかな。私もこの話は友達から聞いたことだから、よくは分からないんだけどね。」

劣等感を持っての引きこもり…か。しかも人間不信。悪いことをしようと企む異世界の住人にとってはこの上ない人物だろうな。そう思っていたときに姉が愛来に訊いてきた。

「カウンセラーとか親にも話そうとはしなかったのか?」

「人間不信だからなぁ…。もう誰とも話そうとはしなかったんじゃないですか?」

「それもそうだな。一体どうすればいいんだか…。」

その時だった。どこからともなく音楽が流れてきた。しかも、この曲は…!

「復讐の鎮魂歌!!」

俺たちは一斉に耳を塞ぐ。固く何も聞こえないぐらいな勢いで塞ぐ。頼む!早く終わってくれ!!

一定の時間が経った後、やっと曲は聞こえなくなった。だが次に聞こえてきたのは、女性の悲鳴。

「きゃあああああああああっ!!」

何事だという勢いで次々と人が出てくる。俺たちもそれに続いて外へと飛び出した。

ある程度の道を進むと、人だかりが出来ているのが分かった。人で囲まれていたのは、死体だった。

外傷なき死体…あのニュースで見たものと同じようなものだった。

その時、人混みの中から、姉と数人の警官が出てきた。

「ここからは私たちがやるから。」

そう言われ、俺たちはこの場を離れる事となった。

だがこれで、1つ分かったことがある。この事件は本当に魔法が関わっていたということだ。


月曜日。あの事件があっても学校の授業はある。

登校するのが何かとつらかった。どうすればこの悲劇の連鎖は止まるのだろうか?…やはり、魔導戦士になって戦うしかないのか?

『随分と悩んでいるみたいだね。』

「…学校でもついてくるのか。」

『少し気になるからね。ボク達の世界にも学校はあるんだけど、この世界よりは古典的なんだよね。』

「成程な。これも調査の一種か。」

『あと刹那。予定表って書いてあったやつを見たけど、月曜日のところに音楽って書いてあったよ。』

…不吉だ。どうも嫌な予感しかしない。そう思っているとき、声をかけられた。愛来だった。その後ろにはエルデがいる。

「あの後、何か情報は聞いた?」

「姉さんからは一応聞いたが、これまでの死体を調べても、毒物の検出は全く無かったらしい。」

「じゃあ、やっぱり魔法の力なんだね…。」

非科学的な力など、現実の世界では通用しない。言ったところで笑い者にされるだけだろう。だが今回に限ってはその力あっての事件である。誰もそんな力なんて信じはしない。そして気付かないうちに人間は死んでいく。

もう、どうすればいいんだ?


学校に着き、ある程度の授業が終わり、3時間目。ついに音楽の授業が始まった。

『まさかだとは思いますが、ここであの曲が流れたならば逆にチャンスですわ。』

『そうだね。ボク達なら魔法を使って魔導戦士の位置が特定できる。そこでボク等が押さえつければ大丈夫だよ。』

「そんなこと本当に出来るのか…!?」

『だから大丈夫って言っているじゃないか。』

担任の話を聞いている中で待ち続ける。幸い静かな中での授業だったので、心配はなさそうだ。

「それじゃあ、合唱の練習をするので、ピアノの周りに集まって下さーい。」

担任が呼びかけた、まさにその時。あの曲が流れ始める。

「始まったよ刹那。」

「ああ。クロノスは…!」

クロノスは全速力でダッシュし、そして…何もない場所に向かって強烈な蹴りを入れたのである!!

『もらったぁーっ!!』

俺たちには何もないように思えた。だが、その後異変が起こる。その何もない場所から「うぐっ」という呻き声が聞こえたのである。

周りにいた人達にも聞こえたらしく、ざわめきが起こる。

『刹那!愛来!!』

突然エルデの声が聞こえた。そして、エルデが姿を現す。

「ど、どうしたの!?ねえ、あの呻き声は誰だったの?」

『話すよりも、あの場所に行った方が早いですわ!!』

「あの場所?」

俺がそう言った後、エルデは叫ぶ。

呪印領域スペルゾーン、開放!!』

その後、俺たちの目の前で光が弾けた。


目を覚ますと、そこは音楽室だった。だが目覚めてからすぐに異変に気付く。

誰もいなかったのだ。正確に言えば、俺と愛来とエルデ以外にというところか。

「エルデ…さっきのは一体…何なんだ?そして、ここは…?」

さっきの光が今までのものよりも強烈だったゆえ、目まいがする。エルデは俺の質問に答えてくれた。

『ここは、呪印領域…。人間でも魔導を扱える空間ですわ。ちなみに、ここは現実世界とは全く違う別空間。現実世界に影響はないのでご安心を。』

姉からもクロノスからも聞いていないことだったが、現実に影響がないならそれはそれで良かった。だが、現実世界の世界で俺たちは突然消えた…。しばらくは大騒ぎになるだろうな。

そう思っていたときだった。クロノスが吹っ飛ばされてきたのである。

「クロノス!?」

俺たち3人はクロノスの所へと駆け寄る。それと同時に…1人の少年が部屋へと入ってきた。

「情けないなぁ。魔導石の主がそんなものだなんて。」

『カハッ…。油断してただけだ。まさかここまで扱えるなんて思ってもいなかったからね。』

こいつ…誰だ?愛来に訊こうと思ったとき、震えるような声で彼女は言った。

「…優君だよね?やっぱりそうだったんだ…。」

愛来の言葉で確信する。こいつが高木優なのか。そして、俺は言う。

「高木優…か。初対面で悪いが、もうこんな事はやめろ。今すぐにでも罪を償うんだ!!」

「それは嫌だね。」

あっさりと否定されたが、言うだろうとは薄々感じていた。その後、高木優は語り始める。

「魔導の力だっけ?最初は僕も信じていなかったよ。でもね、僕の持つ魔導石の主が言ったんだ。『復讐したい人がいるんだったら、この力を使えばいい。』って感じでさ。」

「誰だ。その復讐したい人っていうのは。」

「僕を裏切った、元親友。でも残念なことに、まだ目的は達成出来てないんだ。」

「目的って…そんな…!関係ない人が死んじゃっているんだよ!?どうでもいいの!?」

愛来が悲しみを帯びた口調で叫ぶ。だが、高木優は笑いながら答えた。

「ああ、その人達のことか。確かに関係ないね。巻き添え喰らったんじゃないかな?アハハッ」

「てめえ…っ!!」

「僕を止める気かい?無理だね。僕にはこの力があるのだから!!」

そういった後、高木優は(ふところ)から何かを取り出す。俺たちは見た瞬間、それの正体に気付く。

「魔導石…!?」

高木優は躊躇することなく、魔導石を左胸に押し当てる。そして、高木優の身体は光に包まれた。

その後、俺たちは高木優の姿を見て目を疑う。

高木優はあの時、学校の制服を着ていた。だが今は違う。ファンタジーものに出てきそうなキャラクターのような姿をしていたのだ。下手したらコスプレにも見えなくない。

「さあ、僕の奏でる旋律から逃げられるかな!!」

そう叫んだかと思うと、高木優はヴァイオリンを取り出し演奏し始める。だがこの曲は…復讐の鎮魂歌ではない!!

「え…何これ…?」

愛来の声を聞いて我に返ったとき、異変に気付く。俺たちの視界には炎しか映っていなかった。

まずい、このままじゃ焼け死んでしまう。こんなところで死んでたまるか。何としてでもあいつを止めなければ。

そうなると…もうあの方法しかない。

「クロノスッ!魔導石を貸せーッ!!」

全力で叫んだ。その時、クロノスは微笑みながら言った。

『覚悟を決めたみたいだね。』

クロノスから魔導石を受け取る。ふと愛来を見たとき、その手には魔導石が握られていた。

「私も…刹那と一緒に行くから!!」

魔導石を左胸に押し当てる。その瞬間、体の中で何かが駆け回るような感覚がした。


気付いたとき、俺たちもコスプレに近いような恰好をしていた。どうやら成功したらしい。

さらに、俺の手には明らかに武器が握られていた。装飾の多い大きなサイズの懐中時計の下の部分から、剣の刃のようなものが出ていた。この際剣と呼んでも大丈夫だろう。ちなみに愛来の武器は弓だった。

だがこの時、1つの疑問が出てくる。

「魔導戦士というからには魔法は扱えるだろうが…、どうやって発動させればいいんだ?!」

『今回は初めてだし、詠唱なしの魔法を扱うといいよ。イメージするだけで大丈夫だから。』

「そんな簡単なものでいいのか!?」

だが時間がない。炎はどんどん近づいてくる。その時、愛来が前に出てきた。

「こんなので大丈夫なのかよく分かんないけど…とりあえず、【アクアスパイラル】!!」

愛来は単なる思い付きで叫んだだけだろう。だが次の瞬間、魔法陣が現れ、そこから勢いよく水が出てきたのである。

その水はあっという間に炎を掻き消した。これが…魔導の力なのか…!!

「面白い…!やっぱり君たちは面白いなぁぁぁぁ!!」

高木優はまた演奏を始める。今度は無数の氷塊が、こちらに向かって襲い掛かる。何とか出来ないのかこれは?そう思ったとき俺は叫ぶ。

「【クロックワークス】!!」

その瞬間、氷塊が1つ残らず空中で停止する。だが、一定の時間だけならばまずい。俺は愛来の方を向く。

「愛来!あの氷塊…壊せるか?」

「任せて。【ファイアショット】!」

愛来が放った矢は炎をまとい飛んでいく。その衝撃などで氷塊は崩れていった。

「こっちも攻めるぞ!愛来!」

こうして、高木優との対戦が始まった…。


高木優と戦っている間、少しずつ魔法について知ることが出来た。

まず、使える魔法は、俺と愛来では全く違う。俺の場合は、時間と空間に関連した魔法。愛来の場合は自然の力を扱う魔法だった。恐らくはあの魔導石が関連しているのだろう。

そして、簡単な魔法は詠唱なしでも発動できるが、威力の高いものなどはそれなりの詠唱が必要があることも分かった。

だが、戦っている間ずっと思っていたことがある。ものすごく恥ずかしい!!

人に見られてはいないといえ、訳の分からないワードが次々と飛び交っている…。俺たちは厨二病か!?姉さんはよくこの場で戦ってこれたな…と今更感心してしまう。

その間愛来は【アースウォール】と唱えて土の壁を作りながら応戦していた。

ちなみに俺はあの剣を使って高木優との近接戦闘を行っている。

「刹那君。君は僕を殺す気で来ているのかい?」

「いいや、殺すつもりはない。お前は…罪を償わなければいけないからだ!!」

「嫌だと何度も言っているだろう!僕が今までどんなつらい思いをしたと思う!?」

高木優が演奏で風を起こし、俺はその衝撃で奥の方まで吹っ飛ばされる。

「あの演奏…厄介だな。何とか止められないのか?」

その時、愛来が俺を呼んできた。攻撃を避けながら愛来の元へと行った。

「何の用だ。」

「演奏を止めればいいんだよね?だったら私が、優君の腕を…凍らせる。」

「出来るのか?そんなこと…。」

「大丈夫だよ。それじゃ、行くねっ!!」

愛来は壁の外へと飛び出し、魔法を唱える。

「【ホーミングフロスト】!」

冷気を出す小さな魔法陣が、軌跡を描きながら高木優へと飛んでいく。

そして、その魔法陣が高木優の左腕に当たる。

「うわああああぁぁぁ腕がぁぁぁぁ!!」

その間に、俺と愛来は高木優の元へと向かう。愛来は左腕の氷を解除した後、高木優に問い掛ける。

「ねえ、本当にこのままでいいの?刹那の言う通り、償い…した方がいいと思うんだ。」

「しつこいな…。嫌だと何回言えば…!?」

その時、異変に気付く。高木優の身体が、光の塵になって上空へと上がっていくのである。

「な、何だこれ!?助けてくれッ!助けて…」

叫んでいる間に、身体が完全に消えた。これは一体何なんだ。そう思ったときにクロノス達が現れる。

『裁きだよ。魔導の力を使って、人殺しをしたんだから。』

「お前らがしたのか…?!」

『違うよ、自然にそうなるんだ。人を殺していなければ助かる確率は高いけどね。』

「じゃあ…何なんだ。高木優は…死んだのか?」

『死んだんじゃない。現実世界での存在が無かったことにされただけだよ。』

「どういう意味だ…。」

『現実世界に戻った後、学校の人達に「高木優っていう生徒は知っていますか。」って質問してごらん。そうすれば分かるよ。』

理由すら分からないまま、俺たちは現実世界へと帰還することになった。


その後、騒ぎになっていたかと思ったが、意外にも問い詰められるようなことは無かった。

そして、俺と愛来は別行動をとり、学校にいる人達にあの質問をした。

だが、その答えは、

「高木優って…誰それ?」

「さあ、よくわかんないなぁ。」

「そんな生徒…いなかったと思うけど。」

というようなものばかりだった。まるで、高木優という存在が元々なかったような…そんなものだった。愛来も同じことを言っていた。

クロノスが言っていたのはこのことだったのか…。だが、何故俺たちは覚えているんだ?

そう思いクロノスに質問してみると

『倒した君たち自身は覚えているんだよ。ただ、他の人達が忘れてしまっただけ。高木優の肉親でさえも。』

クロノスの最後の言葉に、何かの恐怖を感じる。もしも俺があの世界で消えたら、家族や愛来も俺の存在を忘れるのか…?

その時、愛来の言葉が、俺の暗い感情を壊す。

「何か納得いかないような終わり方だったね。」

「ああ、そうだな。」

『いいや。まだ終わってなんかいないよ。』

そう言って現れたのはクロノスだった。

「クロノス!?終わっていないってどういう事?」

愛来が目を見開きながら言う。その時クロノスが何かを取り出していた。それを見た瞬間、俺達は驚愕する。

「それは…高木優の持っていた魔導石!?」

『そうだよ。他人の持っていた魔導石は刹那達も使えるよ。ちなみに、刹那の使っていたやつを愛来が使ってもいいし、愛来が使っていたやつを刹那が使ってもいいんだからね。』

そして、クロノスは一呼吸置いた後、また口を開く。

『これの他にも魔導石はまだまだある。だから、悪いことしている奴らと徹底的に倒していかないとダメなんだよ。でも、もしかしたら…魔導石を持っている人の中には、協力してくれるのもいるかもしれないしね。』

徹底的に倒していく…口だけならば簡単だが、本当はもっと過酷だ。俺達にとって大切な人を失うかもしれない。

だが、放っておくと今回のようなことになり兼ねないのだ。

だから…俺達は、どんなことがあっても戦い続けると決めた。


また、あの平和な日常が戻ってくることを、俺達は祈っている。











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