十五、討伐詐欺
「おはよう」
水色のパジャマ姿の湖水が眠そうな顔で食堂にやってきた。
「おはよう」
目を擦っている湖水に皆あいさつをかえした。
「ねぇ湖水、今日は僕ら皆で幽霊を退治に行くからね」
やさしく毅は言った。
それに合わせて千央たちは真剣神妙な顔で頷いた、当然至極、という感じで。
それから皆揃って湖水の顔に注目した。次に湖水が頷くのを見ると、いっせいに何かを決意した表情になった。
こんな奇妙な光景の訳は、先日の幽霊騒ぎの一件にあった……。
あのお化けの闖入騒ぎの後、千央は暗闇にまるで何かがいるかのように感じ、恐くて眠れないでいた。千央はカメのように布団の中に潜り、しっかりと目を閉じ、そのことは考えないようにしていたら、そのうち寝てしまっていた。次の日には、前の晩の恐さは跡形もなく消え去り、なにか特別に面白い経験をした時のようなワクワクした感じだけが残ったのだった。
確かに一時的には恐ろしい思いもしたが、明るい日の下にでてみれば、なんであんなのを怖がったのだろうかと不思議に思って笑ったものだ。
朝食の席にも、話題にすら上らず、いつもなら意識もしないうちに忘れ去られそうな出来事だった。それきり終わったと思っていた。
しかし湖水は違った。その日の夜皆が寝静まった頃、湖水が眠るのが怖いと言って泣きだしたのだ。千央はその騒動に一度だけ目を覚ました。湖水は大声で泣き喚き、部屋を駆け回り、狂人のように大騒ぎした。
《おばけが来るーッ!!おばけが来るよーッ》《助けてぇ……》《こあいーッ!!こあいーッ》
千央はその凄まじいパワーに恐怖さえ感じたのだった。これは夜遅く、何度も起こったそうだ。湖水にその度に起こされた園さんは、なんとなく寝不足の顔つきである。湖水は朝方やっと落ち着いて眠ったらしい。起きてきたのはついさっきだった、時計は12時をとうに回っていた。
さて、その昨晩の話を聞いた千央たちは、それまでの間、食堂に集まってどうしたものかと話し合っていた。思ったより大事になってしまい、千央も皆もとても驚いていた。可哀相なことをしたと、皆は一様にしょんぼりとした。他の子も千央も騒ぎ立てて、湖水を怖がらせてしまい、罪悪感があったのだ。
しかし、誰もこんなに影響するとは思っていなかったのだ。
「そんなに恐かったかしら?」アンコは呟く。
「普段、こういう普通のお化けの話とかしないから、慣れてないんだよ」毅が笑って言った。
伊鶴は、のんびりと言った。「湖水は子供だから仕方ないさ」
「そんなこと言って、うるさく騒いだくせに。お前が一番やかましかったぞ」と、真琴は指摘した。
「盛り上がっただけだよ」伊鶴は羞恥心を隠すかのように反論した。「恐い話の最中にあんな音がなったら誰だってびっくりするっつの」
たしかにあの音はその場を盛り上げるのには最高のタイミングだった。今思えば最悪だけれど。
「でも、あの音は一体なんだったんだろう?かなり大きい音だったけど……。まさか、本物のおばけだったりして」アンコはふふと笑いながら言った。
「そんな訳ないだろ。まぁ、あれには俺もビビったけど」慶幾は白状するかのように言った。
「だから、あれはただのラップ音だってば」公平は言った。公平によると、温度が下がったり空気が乾燥すると木材が伸び縮んで軋みが起き、それであの小枝の折るような音が鳴るらしい。あの日は、夕方から気温が下がっていたから、ラップ音が起きても不思議ではないという。
「ねぇ、そういえばお前さ。昨日変なこと言って湖水を慰めていなかった?」毅は思い出し笑いをして慶幾に聞いた。
「ああ、そういえば言ってた。まるで効果無かったけどな」
「さっぱりだったな」毅は頷いた。
「なんのこと?」真琴は尋ねた。
毅は説明した。湖水の泣き声で起こされた慶幾は朦朧とした意識の中、この間家にやってきたおばけを山に探しに行ってやると、約束したのだった。そして話のとおりおばけがいるのなら退治してきてやると言い、周りの皆は湖水を慰めようと、大きな賛成の声をあげたのだった。その時その場にいた千央も、頼もしそうに見えるよう、自信に満ちた顔で頷いた。しかし、聞いているのかいないのか、その後も湖水は大声で泣き続けたのだった。
それを聞いて公平は皆に聞いてきた。
「ねぇ、湖水は本当にお化けがでたと思って恐がっていると思うかい?」
慶幾は少し考えてから答えた。「さぁ、わからないよ、でもそうなんじゃないの。そういって怖がっていたし」
千央もそう思う。幾つかの怪談話、そしてあのラップ音。幼い湖水が怖がるには十分な出来事だ。
「なんでそんなこときくの?」千央は聞いた。
「うん……。もしそうなら、退治という案はそう悪くないかも知れないと思ってさ」ゆっくり考えながら公平は言い、そして笑った。
この時、千央の頭の中にはクエスチョンマーク柄の風呂敷が一杯に広げられていた。
「どういうこと?」
「なんだって?」
「何よそれ」
慶幾、真琴、アンコが同時に言った。毅は顔をしかめた。
「つまりだね」公平は机の縁を持って前のめりになった。「存在しないものに怯えているのなら、それを退治したふりをすればいい、って言ってるんだよ。嘘は嘘で解決。――要は、ちちんぷいぷいのみたいに暗示をかけるって訳さ」
「どうやるの?」
公平は目を細めた。「そうだな。まず――、どっかにおばけの根城みたいなのを仕立てあげる。それから、そこに行った……後に、湖水におばけはもういなくなった、というとか。」
この話を聞き、千央の頭の中には大勢の子供に石を投げつけられ、泣きながら退散していくおばけの姿が浮かんでいた。
「どう?」公平は聞いた。
「どうって言ったって……」慶幾は呆れた声を出した。
「変だよねぇ」真琴は言い、近くにいた千央と顔を見合わせた。千央は目で頷いた。確かに原因を作った当事者というのもあって、どうにかしたいという気持ちは千央にももちろんあるのだけど、しかし元々無いものを退治するなんていきなり無理難題な話であった。
毅は言った。「おいコラ。俺の弟はそんなのにだまくらかせるほど馬鹿じゃないぜ。そんなの簡単にばれるよ」
「そうか?お化けの存在を信じてるならいけると思うんだけどな」公平は続けた。「湖水はまだ幼稚園児だろう?そのくらいならあるいは信じてもらえるかもしれないぜ?」
「でもさ。湖水はあの場の雰囲気に当てられてなんとなく不安になっているだけで、実際に幽霊がいると思って恐がっているわけじゃないと思うんだけど」千央は意見を言った。
「当てられた?」伊鶴は笑う。
「う……、つまり、幽霊は普段あまり信じていない。けど、皆が怖い怖い言って大騒ぎした時の興奮が残っているせいで、あんな風になったんじゃないかと思うんだ」
「まぁ、そうかもね」真琴は言った。「信じていないのに退治したなんて言ったら白けるだけだろうね」
「むしろ、馬鹿にされたと思って怒るんじゃない?」
いや、この場合、おばけなんかよりもっと気味悪い思いをするかもしれないのだ、普通の人がいきなり幽霊が見えて、退治しましたなんて言ったら、その人そのものがやばく見えてくる。正に今の千央の状態じゃないか。
「つまり信じていなくて退治の振りを演技とわからない場合が……最悪だな」
「完全に憑かれておかしくなったと思うだろうね」アンコの言ったことに皆笑った。この冗談はここにいる子くらいにしか通じないだろう。なのでより一層可笑しかった。
皆はこのとっぴょうしのない案についてしばらく考えこんだ、湖水は上手く騙されてくれるだろうかと。
千央も考えた、おばけを信じこんでいるかいないか。こればかりは多分個人差というしかない、恐らく。千央は参考に自分が湖水と同じくらいだった時を思い出してみて、びっくりしてしまった。信じる信じないという以前に、千央は小さい頃、お化けの話を認識していなかったらしい、ということを思い出したのだ。どうやら存在さえ知らなかったらしい。
さらに小さい頃何かを恐れていたという記憶もない。なんとも幸せでのん気な幼児である。だが今は逆に恐いものだらけで、千央は今度はがっかりした。このペースじゃとんでもなくびびりやの大人になりそうなのだ。
そういえば、皆はどこの時点でお化けの存在を知ったのだろうか。それはある程度成長した脳から自然発生した空想の産物なのだろうか、それとも、周りの意地の悪い大人から脅されたのだろうか。まぁそれは今現在の自分だったなと千央は今の自分とその将来像に、かなり憔悴し、ゲッソリとした自虐的な気分になった。
「君はどう思う?」
急に尋ねられ、プレッシャーのためか、毅は赤面しつつ言った。
「僕はうまくいくと思う。家のことをいうなら、人がお化けをお祓いするところを普段からみてるし逆にいいかも、……それで、それで吹っ切れてくれればいいかもしんない」
「じゃあ、行くか、行っちゃうか」
公平は自分の案が受け入れられ、嬉しそうに破顔しながら言い、最終的にそういうことになったのである。
はじめのうち、千央は両方に半分ずつ賛成だった。
あんなに恐がるのをみてると試す価値はある気がするが、嘘と見破られた時の立場のなさったらない。それに騙すことにも罪悪感がある。しかし、湖水にそう信じさせて安心させることができるならそれはそれで良いと、とりあえずやってみようとじゃないかと、いう湖水の保護者である、毅の意見で心が傾いた。
とはいえ、上手く演技できなければ嘘だとばれてしまうだろう。架空の話なのだから、実際にはいないものをいるように見せなければいけないのだ。絶妙なタイミングで鳴ったラップ音や人影のような物の登場、皆の演技なしの興奮した悲鳴などの演出に後押しされ焼き付けられた恐怖を、全く冷静な時の素人の三文芝居で溶かなければならない、すごく難しそうだ。それに、
「私絶対笑っちゃうと思うんだけど」千央は誰にともなく呟いた。
「そんな時はな、下手に喋らず黙っとくんだよ」公平は真面目な顔でこっちを向いて言った。
わかった、と言うように千央はただ頷いた。
「でもちょっと待って」毅は引き止めた。「その前に湖水が昨日のことを覚えているかさぐりをいれてみよう、すっかり忘れてしまっているかもしれない」
公平は頷いて言った。「それもそうだな。もし忘れてたら、いきなりおばけ退治云々言い出したりした僕らに混乱するだけだよ。まぬけもいいとこだ」
「それと仮に覚えていたとしても、湖水が嫌がるようならよそう」
皆は毅の意見にいっせいに同意した。
そうしてさっきのように、毅の言ったことに湖水が頷いた。これで千央たちの、おばけ退治行きが決まったのだった。
早速、元気なく朝昼兼用の食事をとる湖水に毅は手作りの弓矢を湖水に見せた。この弓は、竹を裂き、曲げて作ったものに麻ひもをきつく張ったもので、矢は細い竹を尖らしたものだった。これらは午前の内に千央たちが増田家の納屋で用意してきたものだ。
それから他の子達もそれぞれがおばけ退治に有効だと思う武器を持って集まってきた。
短冊の紙に悪霊大散と書かれた、手作りのお札(退の字が間違っている)おばけ退治にはお馴染みな塩を一掴み分、スリングショット(パチンコ)。半分はただの遊びになっているのだ。千央も一組弓矢を持たされ少しだけわくわくしはじめていた。
「ちょっと、癇癪玉はやめとけよ。山家事になるだろ」
公平は伊鶴を叱ってそれを取り上げた。伊鶴はおとついの花火の残りの癇癪玉をパチンコの弾にしようとしていたのだった。
毅は弓の弦を中指でビシバシと弾いてみせた。
「ね、これで退治してやるから」
古いひもだったのか、粉が空気中に舞い、千央は鼻がむずむずと痒くなった。
湖水ははしを下ろし、渋い顔で頷いた。これが駄目押しになったような気がした。それは嫌がってるというより、沈んでいるという顔だったから、昨日のことがまだ影響しているのだと千央は可哀相に思った。皆はそれぞれの思いを巡らせ顔を見合わせた。
かくして、劇場型おばけ討伐隊は、ここに発足し、一同は山に向かって出発したのだった。
“劇団いきあたりばったり、演目は妖怪討伐でごさーい。チョーン!!”
「ヤァヤァ、湖水を怖がらす、クソ妖怪は何処じゃー!!余が征伐してくれるで候ぉ!!」
伊鶴はそう叫びながら、目茶苦茶に走り、とんぼ返りをして見事枯れ葉の山の上に背中で着地した。
千央はその可笑しさについ声をあげて笑った。
「今は演技しなくてもいいよ。湖水は見てないんだからさ」慶幾はそう言いながらも、口の端がひくついている。「とにかく今は土産になるものを探さないと」
山へ入る前、千央たちの間でこんな会話が持たれた。
――湖水におばけ退治を信じさせるような、証拠が必要じゃないか?
――証拠?例えば、どういうものだよ?
――そうだな。何かの骨とか血とかがいいかな。
――そんなもの山の中で見つかるわけないだろ。あったら新たな事件だよ。
――別に本物を持ってこいとは言ってない。ぽい、ものでいいんだ。不思議な感じのするものを、各自手分けして探してきてくれ。
というわけで、千央たちは山に入った後、何組かに別れてお土産探しに行くことになり、慶幾、伊鶴、千央が同じチームになった。
慶幾は地面を凝視しながら、「ああ、どっかに死体っぽいもの落ちてないかなぁ」と物騒なことをつぶやいていた。
「あるわけないじゃん」と石を持ち上げながら伊鶴。
「そんなもの、あって欲しくないよ」と千央は枯れ葉を掻き分けながら言った。
「これどう?」伊鶴は地面の中から何かを発掘してきた。それは黄色いアヒルーの描かれた古びたマグカップだった。
「かわいい」と千央は言った。でも、カップは不思議な物でもなんでもない。むしろ身の回りにあふれている品物だ。
「こんなの見つけたけど」次に慶幾が持ってきたのは、茶色い瓶だ。ラベルが貼ってある。開けると中は空っぽだった。
「まぁ、何にもならないよな」慶幾は匂いを嗅ぎ、顔をしかめて瓶を捨てた。
千央は地べたを這って探したが、何にも見つからず、手がぱさぱさになっただけだった。脇のより深くなった森を見た、奥に行けば何か面白い物が探せるかもしれなかった。
「意外とゴミないもんだね」
足で枯れ草の山を掻き分けながら伊鶴は残念そうに言った。
「それはそれでいいことなんだけどね」
慶幾が笑いながらそう言うのを、千央は背後で聞いた。
千央は草が生い茂る道に闇雲進んで行った。川の音に混じり、遠くの方から皆の声が聞こえてくる。いつもと逆で、見るより聞く方がずっと忙しい。見る方は木と土と蔦のみ……そういったものしかなかった。鳥や蝉が鳴きまくっている。これらがいるのは木のずっと上の方で、姿を見ることはないのたが、無視できないほどやかましいのだ。中にはケケケケ、ケケケーッとまるで笑っているかような鳴き声の鳥もいる。しかし、あまり愉快そうには聞こえない。
千央は丈高く伸びた草を飛び越えて奥に進んだ、特別濃い草いきれを吸い込んだ。上を見ると澄みきった空があり、雲が千切れた綿飴のような形で浮いていた。空はごく自然な色なのだが、青みが強過ぎて、むしろ人工物に思えてくる。かき氷のブルーハワイのような色だ。
千央は足元を見た。ここいらは死んだ草と生きた草が混在している箇所だった。夏の青々とした若草がある一方、長い間をかけて枯れ葉が堆積した、ふかふかの地面をしたところもある。そこはまるで反発力の弱いトランポリンのように、足を取られてとても歩き難い、千央がゆっくりと踏むと茎の折れるパチパチという音がして、そこから小さなクモが中から這い出てきた。
千央はぎょっとし、後ずさった。といっても、クモだけのせいではなかった。どこからか、助けを呼ぶ声があがったからだ。まさかお化けが本当に出たのかと思い、声の出所を探そうと振り返った。
引き返し始めて千央は混乱した。あれ?さっきまで左側で川の音がしていたのに今は右側から聞こえてくる。……、いやこれで合ってるんだ、来た道を戻ってるんだから。しかしここはどこだろう……?見覚えがないようで、見覚えがある。木ばかりの風景なものだから、全部に見覚えがあるのだ。まずい、迷っちゃったんだろうか。
千央はパニックになっていた、パニックになった時って梅干しを食べて唾液がでているような、明らかに何かが分泌されているような感覚が脳みそにある気がするのだ。千央は不意に思い出した。ああ、そうだ。自分が幼い頃一番怖かったのは迷子になることだった。そういやその時も、母親は全く心配してはくれなかった。あんのクソ婆め。畜生。
千央が怒りのまま、ひたすら突き進んでいると、ふいに視界が開け、木のない空間が見えてきた。そこに行こうと大きく踏み出した時、木のあしに足を取られ、千央は前につんのめって倒れてしまった。千央が飛び出したのは木のない開けた場所だった。誰も見ていなかったが、赤面しながら千央は立ち上がった。膝がヒリヒリするので見ると、擦りむいていた。畜生。
ここはうまい具合に木影が集まるところで、夏のコントラストの強い影とは違う、まるで秋か春の空間がここだけに残留しているようだった。木が逆スポットライトのような効果を果たしている。とはいえ、空気はまさに夏の熱さであった。木の叉になったところにはクモが大きな巣を張っていた。
千央はそこに落とし穴を見つけ、ほっと一安心した。落とし穴の近くには道があるはずだからだ。どうやらそこまで奥まった所には来てないみたいだ。
あ、いたぞ。見つけた。
千央は駆け寄った。何人かが草がまだらに生えた盆地にいて、木の所に円をかくようにして群がっている。千央は興奮を納めつつ、何食わぬ顔でその中に加わった。盆地の大きくへこんだところには黄色いストロー状の枯れ草がこんもりと乗っかっていた。
毅がこれはイノシシの巣だと言った。
なるほど、と千央は思った。この大きさだと、イノシシくらいのサイズにはちょうどピッタリだろう。
千央はそこに毛が絡み付いているのを見つけ、それを手に取った。かなりの剛毛で握るとちくちくしており、針のように尖っていた。色は茶色かった。
貸してと言われ、千央は毅にイノシシの毛を渡した。毅はそれをまじまじと見たり、匂いを嗅いだりして観察した後、こう言った。
「こいつをおばけの毛ってことにして、おばけ退治の証拠にしよう」
千央はそのことに異議は無かったが、自分たちの追っているものはこんなにも毛深かかったのか、と驚いた。千央はもっと実態のない儚げな幽霊のようなものを想像していたので。
それからしばらくの探索活動の結果、戦利品は次のようなものがあった。
伊鶴の見つけたマグカップ、イノシシの毛、3cmはある大きめのビー玉、白くなった木、何かの茶色い羽、それとなぜかカミキリムシだ。カミキリムシは関節をキシキシいわせ、慶幾の手の平を歩き回った。
千央はまずビー玉を手に取った。このビー玉はすごく変わっていて、光があたると虹色に光るのだ。まるでそれは、雨あがりの道路に車から漏れたガソリンみたいな色だった。なにかの拍子に固まってしまったシャボン玉みたいにも見える。大きさは親指と人差し指をくっつけたくらいで、持つとかなり重みを感じた。
続いて白く変色した木は、流木のように滑らかでささくれがなく、細く尖り、まるで何かの動物の牙のようだ。そして、羽ペンにできそうなくらいの立派な羽は、クモの巣に引っ掛かっているのをアンコが見つけた。単純に留守番している湖水へのお土産になると思ったそうだ。羽の柄は黒と白の縞模様だった。千央は綺麗になるよう、指で挟んで撫で、毛羽を整えてやる。すると、より滑らかでつやつやになるのだ。
これらを総合すると、千央たちが退治した幽霊は、長い牙に茶色い毛の生えた体に翼を持った中々に恐ろしい姿をした化け物だったようだ。
公平は羽を見て言った。「これは何の鳥の羽だろう」
「多分、ワシじゃないとは思うけど」と毅は言った。
二人は羽をまじまじと見た。
一方、千央は全く違う方面を見ていた、すぐ側の雑木林の中に丸丹棒に脚がついたような生き物がいたのだ。生き物はひたすらこちらに近づいてくる。目は小さく、上向きの鼻面、尖った牙……体色はそのまま樹木の外皮の色をしている。
間違いない、イノシシだった。
千央たちのいる場所から、数メートル先には数日前捕まえようと頑張っていたイノシシが行儀良く脚を揃えて立っているのだ。
「ウワッ!!」と千央は大声で叫び、それを指差した。
皆も千央が差したものを見つけ、イノシシはしばらくの間姿を見せつけていた。皆もそれに釘付けになった。しかし、「ウァァァァァ!!」千央たちは悲鳴をあげ、散り散りになって林に逃げ込んだ。イノシシはいきなり猪突猛進とばかりに、突然千央たちの中に飛び込んできたのだ。
イノシシは一直線に突っ走り、反対側の林の中に飛び入んで消えた。千央はア然として、低木の影から窪地を覗き見た。そこにはもう、イノシシはいなかった。大きさはおじさんが話してくれたものとは比べものにならないほどに、小さかった。せいぜい犬くらいだろうか、それでもミルコの方が大きいだろう。しかし、あの足の速さと力強さといったら!!まるでお寺の鐘打ちの棒みたいだった。
千央の周りの林で、姿は見えないが興奮した囁きが交わされたのがわかった。鳥がクククと笑い、樹木がざわめいた。また、イノシシが戻ってきたのだ。
すると木の擦れる音が聞こえ、慶幾が立ち上がった、それから逸足でイノシシの方へと駆け寄った。イノシシは少し逃げるそぶりを見せたが、ほとんど意にかえさず、今度は反り返った鼻面で地面を掘り始めた。
慶幾は弓に矢を番え、数メートル先のイノシシへ狙いを定めた。力が持たず、腕がぶるぶると震えている。
「おい、やめろ」と公平。
「いいから。黙って見ててよ」慶幾は鋭い声で囁き、ますます弓を引いた。
その場はしばらくの間、静寂につつまれた。慶幾は矢を射った。しかしすぐにこれは駄目だとわかった。矢の軌道は芯から大きくぶれ、回転していたからだ。竹の矢は弧を描いて飛んでいき、地面に先がぶつかり、自らの弾力と勢いで土の上をビョンと跳ね、ボトリと落ちた。イノシシはピッキーと一声鳴き、悠々とその場から去って行った。 どこかで誰かの笑い声があがった。固唾を呑んで見守っていた千央もほっとして力が抜けた。
慶幾は弓を見て、怒った声を出した。
「何だ。これ使えないのかよ」
「使えるわけないだろ。格好だけのために作ったんだから」と毅は言う。
「期待ハズレだったなぁ」伊鶴は不満気だ。
「でも、即席にしては案外健闘したじゃないか」公平は矢を拾おうとそちらの方へ歩きながら言った。竹の矢は、千央たちから数メートル先にある木の根元に落ちていて、茶の地面に小さな影を作っていた。
「ひもが乾燥し過ぎてるから、真っすぐに飛ばないんだ」伊鶴は言った。
「家に帰ったらもっといいものに作り直そうよ。ひもじゃなくてゴムを使ったら上手く飛ぶかも」
「そんな長いゴムあるのか?」
「輪ゴムをいくつかつなげたらいいんじゃない?」と、真琴は提案した。
「あーっ、ゴッチ!!」急に公平の悲鳴があがって、皆はビクッとした。始めは大声を出して千央たちを驚かそうとしているのかと思ったが、どうやら違うらしい。公平は矢を持ったまま立ち尽くしていて、その影はピクリともしない。
千央たちが駆け付けると、公平は震える手で自分の頬をペタペタと触って、驚愕した目つきをしている。
目で指した先には藪があり、真っ白のヤギがいた。茶色の草の中で横たわっている。ヤギはなぜか、全く動くことがなかった。何かようすがおかしい、顔が変だ。いや、全部おかしい。死んでる。間違いなく。
ヤギの死体、それは、――他に何があろうか、――もちろんゴッチだった。
ゴッチはヤギの模型のように目を開けたまま、コロンと横たわっていた。力無く、というより脚をピンと伸びきらせており、体は硬直し、まるでヤギの剥製のようになっている。
皆はヤギの死体の周りに集まりゴッチを見下ろした。
「えっ、何で……?」とアンコは言った。
千央も同じように思った。しかし、千央はなんでゴッチが死んでいるのか、というより、そもそもゴッチは水野さんの家に預けているのではなかったか、なんでここにいるのだ、という風に考え出していた。なぜなら、千央はひどく動揺して、悲しくなってきていて、それについて、すぐに深くは考えたくなかったからだ。これはゴッチの死と同様、意外なことだった。
毅はヤギの前にしゃがみ込み、前脚を掴んでゆっくりと持ち上げ、取り落とした。ゴッチの脚はゴム人形の様にボトと鈍い音をたてた。
「もう死後硬直が始まってる」
毅は周りを憚るかのようにささやいた。
「いつ死んだんだ、前見た時は元気だったのに……。だいたいなんでここにいるんだよ」納得できないように慶幾は言った。
「また逃げたんだろ。ゴッチのことだから」毅は静かな声で言った。
「昨日湖水と見に行った時はいたよ」珍しく動揺しながら真琴は言った。一秒前に元気でも今は死んでるんだから、意味ないだろ、と千央は腹が立った。
「なぁ、もしかしてあれのせいじゃなかろうか、あの……例の……」慶幾は言い難そうに呟いた。かなりぼかした言い方だったが、その場にいた全員が意味を理解したと思う。
慶幾はこれが病院から逃げ去り、鎌を持ち去ったと言われている男の仕業ではないか、と言っているのだ。もしこれがその鎌男のやったことならいろんな意味で大変なことになる。千央は血の気がひいた。
無論、公平はそれを否定した。「馬鹿な、そうならそれなりの怪我してるはずだろう。全然傷はないようだし、血も出てない」
「そうだよねぇ……」
慶幾はふーっと、溜息をついた。その長い溜息を聞いた公平はまさか、と言って笑った。
と言いつつも一同は、死体をひっくり返したり、あちこち触ったり、もしかしたら死の原因になった怪我の後がどこかにないものかと調べていった。随分念入りに調べたのだが、幸運なことに、ヤギの体には切り傷どころか、すり傷一つ見つからなかった。ゴッチがケガで死んでないことは明らかだ。じゃあ、ゴッチは何で死んでしまったんだろうか?
何気なく千央は硬い毛の生えた背中を撫でた。真琴も遠慮なくぺたぺたと触っていた。しかし、慶幾は触りたがらなかった。
「かわいそう」と、伊鶴。
皆は元気だったのに、と口々に言った。
「変なもんでも食べたんじゃないか?」
慶幾はそう言ってフンを見た。ゴッチのフンはポロポロとした粒状になっていて、周りにはハエが数匹渦を巻くように飛び回っていた。アンコは手の平を降り、ハエを追い払った。
千央たちはゴッチの顔をジッと眺めた。ゴッチは苦しむでも安らかでもなく、ボーッとして空虚な顔をしていた。自分が死んだのを理解しているのか、していないのか、よくわからない顔だった。
「ゴッチを埋めなきゃならない」きっぱりとした声で公平は言った。それが唯一の慰めであるかのようだった。
「コイツをこのままにしておく訳にもいかない」この暑い季節、ゴッチにもハエがたかりはじめるだろう。次の日来てみたら、ウジが湧いていたとか、目玉が烏に食われていた、なんてことになったら誰もさわれないだろう。そしてそのうち、腐りだし、堪え難い匂いが漂いはじめる、と。
食う腐れるの描写に恐れ戦いた千央たちは、すぐそれに同意した。
すぐ側にゴッチを埋めるのに都合のよい穴があった。さっき千央が迷い込んだ場所のあの落とし穴だ。毅は首を千央は前脚を持ち、伊鶴は後ろ脚を、公平は最も重い腰を支え、そこに千央たちはヤギを運びこんだ。
その間真琴とアンコ、慶幾は野の花を摘んできて、それをゴッチの上に撒いた。ゴッチ白い体に薄黄色やピンクの斑点がぽつぽつと咲いた。
皆は黙り込み、周りにある土の山を崩し穴に入れていった。お尻から顔へ順に埋めていき、顔が最後に余った。土の丸窓から見えるゴッチの顔は、なんだかレリーフのように思える。ゴッチの顔を埋める時、千央はゴッチにさようならを言ってお別れした。
それから土を山のように盛り、塚に仕上げ、周りを草花で飾りつけた。そして手を合わせた。
千央は毅の横顔を眺めつつ、実は彼が泣き出さないか、心配に思っていた。台風の時に秘密基地においてけぼりにしてきたことには、あんなにも取り乱していたのに、今のこの落ち着きぶりはどうだろうか。すごく変なやつだな、と思いながら。
「うーん」
随分長い話になったが、真は一度も不満なようすを見せずに聞き終えた。
「では、ゴッチに怪我はなかったんだね?」
真は聞き、皆は頷いた。
「うん。全くの無傷だったよ、だから何かの病気で死んだんじゃないかと思ってる」と慶幾。
「でも、前日までは元気だったんだよ。湖水がやったエサもよく食べてたし」真琴は言った。この会話は何回も繰り返され、もはやお馴染みの堂々巡りだった。
「水野さんの話じゃ、前の日の夕方見に行った時は確かにいたんだって。だから、その後なんかあったんだ」
今まで千央たちは散々ゴッチの死因を考察をしていたが、ほとんどアイデアは出尽くしてしまっていた。なにせ、傷一つなく一晩で死に至るヤギの病など、ほとんど思いつかなかった。毒殺の線も話題に出たが、しかし一体誰が何の目的で一介のヤギをわざわざ毒まで用いて殺すというのだと、すぐに反論された。
不意に背後で引き戸のガラガラという音がし、看護師さんが入ってきた。看護師は昼食だと呼びに来たのだ。それで、この会話は一旦打ち止めになった。真によるとこの病院では、動ける患者は、普段ナースステーション前にある食堂に集まり、大人数で食事をとっているという。しかし千央たちが大勢でいるのを見て、御膳を運んできてくれたのだ。
きっとこんな大人数で行ったら迷惑なんだろうなと考え、千央は笑って言った。「でも他の患者さんを見たかったな」
真は「なんで?」と聞き返した。
千央は訳を話した。自分は反対運動をされるくらい嫌がられる人たちをもう一辺見たいのだ。前の時は特別意識していなかったので、機会があればしっかり観察したいと思っていたのだ、食堂に集まる患者の中にもいるに違いないから、と。
真はそれを聞き、大変きっぱりとしたようすで言った。
「いや、見れないよ。ここにいるのは内科の患者さんだけだよ。他は別の棟にいるんだ」真はお盆を自分の方へ引き寄せた。「確か西棟にね」
「そうなのか。残念」千央は言葉の通り、がっかりした。
真の昼食は食パン、ホワイトシチューに、なぜか大根のなますを組み合わせるという謎の献立だった、明らかに味の組み合わせを考えてないメニューだったが、千央たちは興味津々で覗き込んでいた。皆の注目を浴びて、真はかなり食べ辛そうだった。昼食はもちろん千央たちにはでない、だから売店に行って、何か食べる物を買いに行くことになった。
真が進んで先に立ち、道案内をしてくれた。この病院の売店は一階の待合室すぐ側にあった。病院の規模の割にこじんまりとした店で、千央たちの他に客は一人しかいなかった。店の陳列の仕方は駅構内の売店に似ていて、種類は多いが数が少なく、1つ、2つしか置いていない商品もあった。カップ麺の品揃えがすごく充実していたのと、食料品とオムツとが一緒の棚に並んでいるのが病院の売店という感じがし、ちょっと面白かった。さらに以前テレビで見たことのある、透明なプラスチック製の急須を千央は見つけた。値段を見ると600円くらいだった。
千央はクリームパンを選びとり、毅はカップ麺の新味を選び会計した。全員分で1700円にいかないくらいだった。全員が買うとパンの棚はほとんど空になってしまって、千央は自分たちはたくさん買い物をするいい客なのだろうか、それともパンを買い占めた迷惑な客なのだろうかと、しばし考えた。
病院は三階建てで、一階は外来になっていた。一部がピロティ形式になっていて、そこにはプランター植物が並べてあり、中庭のような使われ方をしていた。窓が大きく、十分陽が差し込むので廊下に明かりをつける必要はなかった。皆は窓際のテーブルに並んで座り、パンにかぶりついた。
「もしかしてさ。ゴッチはフィラリアだったんじゃないかな」真はふと思いついたように言った。
しかし、「いや、違うか。突然死んだんだもの」早々に結論をつけ、取下げてしまった。
「フィラリアって何?」千央は聞いた。横文字の病気は今一ぴんとこない。
「蚊に刺されて移る、寄生虫のことだよ」
「うへぇ」
「僕ん家の犬もこの季節は薬を飲ましてるよ。でも犬以外は感染しないのかも、猫もいるけど、猫には薬飲ませてないもの」
「ああ、知ってる。心臓にそうめんみたいな虫が生えるやつでしょう?」慶幾は言った。
「うげぇ」
そういえば、と千央はあることを思い出した。千央の家の近所の動物病院にはある風物詩がある、毎年暖かい季節が近づくとフィラリアに寄生された犬の心臓の模型と写真とがよりにもよって受付カウンターに展示されるのだ。その虫は極細の上、白色をしていて、あまりにもそうめんに似ているので、グロいのかそうでないのか、よくわからない代物なのだ。そのことを話して聞かせると、無論皆は気味悪がった。
しかし、真は言った。「それはいい方法かもしれないよ」
「お金がかかるから、薬を買うのを渋る飼い主がいるって聞いたことがあるよ。犬には保険がないからね。気味の悪い模型を見てショックを受けたら、買ってくれると考えたんじゃないかな」
「それも手かもね」千央は納得した。そして、口髭を生やしたそこの医者を思い出していた。あの獣医、人の良さそうな顔して中々やり手だな、と考えながら。
「ところで湖水はその後どうなの?」真は聞いてきた。
この質問には公平が答えた。「もう平気みたいだよ、昨日は普通に寝ていたよ。あの討伐詐欺はあんまり意味がなかったようだね」
千央たちの帰り際、真は餞別だと言って何かが入ったレジ袋をくれた。
伊鶴は中を覗いて吹き出し、それを突っ返した。「いらないって、こんなのもん。誰も読まないよ」
しかし真は、何やらしたり顔で言うのだ。「この雑誌の84ページに面白い記事があったんだ。とやかく言わずに読んでみなって」
確かによく見るとそれは新品で、さっき行った売店の袋に入っていた。真はわざわざこれを購入したのだ。それは有名人のゴシップが載るような週刊誌だったが、中にはなるほどと思わせるような内容の記事が載っていた。
『【人権のためか!?はたまた……、自治体の対応の真意とは?】
峰山と雪夢山の間から清冽な卜夢川の水が注ぐ西昇町。九州北部の人口人たらずの小さな町である。ほとんどの面積を森林が占め、間に小規模な田畑があり、牛舎が所々に点在する。
こののどかな田舎町に住民を二分する問題が持ち上がっているという。片桐夕日記者が取材した。
ことの発端は台風6号の上陸した今年8月7日。台風6号はに九州各地に大きな爪痕を残したが、山間にある西昇町も例外ではなかった。同日午後三時ごろ、市役所から発令されていた避難勧告は増水した河川による洪水の警戒から避難命令に変わる。対象住民は一斉に避難し始めていた。さらに長雨の影響で山崩れがおき、電線の断絶により周辺一帯が停電がおこった。なお、停電は午後四時過ぎに復旧している。
同じ頃、山のふもとに位置する私立よしば病院では別の問題が起きていた。職員の一人が精神科病棟に入院している患者Kの姿が見えないことに気がついたのだ。職員たちは院内を捜索するが発見できず、同日通報を受けた警察と消防が、明朝から山中の小規模な捜索を行ったが、これも発見には至らず、近隣住民への告知は11日までなかった。
この時逃亡した患者K氏の行方は現在をもってしてもわかっていない。直後の捜索と情報公開の遅滞が今回のような事態を招いたのではないかと指摘されている。さらにこの隠蔽ともいえる病院側の対応について、市長の指示があったのではないかとの疑惑の声があるのだ。それはなぜなのだろうか……。
【背景には地方商業活性法か?】
昨年の7月、過疎化地方商業活性法が成立。国から地方自治体へ補助金が出ることが決定し、その施行に間に合うよう、全国の自治体は地元の有望企業の認可を目指している。
ここ、西昇市の場合はよしば病院を認定させようという計画があるのだ。
よしば病院は1985年に開院。内科、心療内科、精神科、リハビリテーション科を併設し、現在ベッド数は68床。しかし、認定されるにはベッド数が足りず、認可規定内にするため病院側は病棟を増設し、156床まで増やす予定だった。
しかし新しい病棟の入院対象者は精神科の患者であることから、一部の住民の間で反対の声があがった、その反対運動は8月までにじわじわと広がりをみせていた。
今回の患者の失踪騒ぎにより、病院側の管理状況への不安や、不信感などで、住民の意見が反対にますます傾くことは明白であった――…… 』