命の欠片
テーマ :砂漠
禁則事項:擬態法、擬人法の使用禁止。(偽者表現も含む)
テーマが…。禁則もよく理解できず、比喩はOKだよね? と、書いてしまいました。
「晴海…。 そうなんだろ? おまえなんだろ?」
彼の視線はすがる様で、その問いを肯定できないのはとても辛かった。 けど、私は彼女ではなかった。 確かに私の中に彼女は存在する。 特にあの記憶を発見してからは一層、彼女の影響が強くなっていると思えた。 何かを考えるたびに、そして彼と話すたびに、私は彼女と一体となっていく、そんな感じがあった。
だからといって……。
それでも、やはり私は晴海さんではなかった。
「私は、晴海さんじゃないわ…。 彼女の記憶を奪った、彼女がああなってしまうことを予測しながら何もしなかった。 そんな、ネットで生まれた怪物よ…」
「うそだ。 晴海だろ? 記憶を奪った? どういう……、 まさか?」
思えば、これまで、このことを彼には告げて無かった。
だが、彼だってあの実験に関わっていた。 だから、予測はあったのだろう。
晴海さんの記憶はどこかにあるかもしれない。 その予測、いえ、望みを持っていたのかもしれない。 けど、事実は少し違った。 事実を伝えるのはとても辛かった。 それでも、問われて誤魔化せるほど無神経ではいられなかった。
「それは…」
彼の視線は、私をまっすぐに見詰めていて、私が伝えようとする言葉の裏を、その記憶の全てを読み取ろうとしているかの様に感じられた。
その視線を受けつつ、私は重い口を開き、事実を、私が持つ罪の記憶を伝え始めた。
私がどこで生まれ、何をしてきたのか。 どうやって彼女の記憶を手に入れのか…、そして彼女の意識が消え行くさまをただ見ていたことを…。
「私があの実験を止めていれば…。 私には出来たのに…」
「まぁ、あれは俺と晴海のミスだから、おまえが責任を感じる事はないんだ…」
「でも! でも、私には判っていたのに! ああなることは判っていたのに……」
「だが、当時のおまえにとって、それは止めるべきことじゃなかったんだろ? って、今のおまえには晴海も含まれてるのか…。 はは。 ややこしいな。
でもな、とにかく、特に最近、おまえからは明らかに晴海を感じるんだ。 だから、おまえ自身が何て言おうが、おまえは既に単なるプログラムなんかじゃないさ。
おまえは命ある存在だよ。 だから…」
「おかえり、晴海」
そう言う彼は暖かく微笑んでいた。
その言葉は涙が出るほど嬉しかった。 私を晴海。 人間。 そう言ってくれる彼の気持ちが、例え言葉だけでも、その優しさが嬉しかった。
それまで、私自身は砂漠なんだと考えていた。 ネットで生まれ、命など欠片もない。 晴海さんの記憶というオアシスの周りに居た私だって、所詮はその一部。 自分の心と感じるものも所詮は偽物、砂漠の蜃気楼にすぎない。 晴海さんの記憶を映しているだけ。 結局、私自身は砂粒のようなプログラムに過ぎない。 そう考えていた。
けど、彼はそんな私の中に、気持ちが、人間の心という命がある。 そう言ってくれた。
それは、私がずっと求めてきたものだった。
「その言葉、とても嬉しい…」
「でもね。 私はやっぱり晴海さんとはちょっと違うわ。 そうね、晴海じゃなくて、ハル。かしらね?」
そう言い、口角を上げた。 こんなときに、そんなどうでもいいことを言えるなんて、そして笑うことができるなんて…。
これが気持ち、というものだろうか?
けどそのとき、彼は別のことに気が付いた様だった。
「待てよ。 じゃぁ今、ネットにはおまえの分身が居るんだな?」
「ええ。 間違いなく居るわ。 ネット、ネットに繋がる全てのコンピュータ、そこには、間違いなく存在してるわ」
「そうか…」
彼は何か思い当ることがある様だった。
「それでかな…。 最近、ネットを通しての処理で、結果が微妙に予測からずれることが話題になってたな」
「どういうこと?」
彼の話によると、大量の処理をネットを通して実行したとき、その結果が予測と微妙にずれたことがあった、ということだった。 確かに、個々の現象をいくら観察しても何も見つけられないだろうけど、大量の処理の、そのトータルを比較した場合、何か介在する存在があれば、僅かなずれを観測することが出来るかもしれない。
そして、そのずれを探ろうと再度やってみたが、もうずれは観測できず、その後は何度やっても、もうずれは観測できなかったという。
おそらく、自分を探ろうとする処理そのものに侵食して、調整してしまったのだろう。 そのくらいのことなら私でも出来る。
「さらに変なのは、そのずれが観測されたデータが変なんだ。 プリントアウトとファイルの値が違うんだ。 今、それが話題になってる」
プリントアウト…。
ファイルならば整合するように書き換えられる。 けど、紙になってしまったものは書き換えられない。 それはネットを支配する存在にとって盲点かもしれない。
とにかく、自分の存在を探るものは脅威と判定するだろう。
かつては、私もネット世界の砂漠の一部だった。 そこに命はない。 が、もし砂漠を探ろうとするものがあったら…。
今、砂漠に砂嵐が吹こうとしているのではないだろうか…。
うーん。 次をどうつなぎましょう…。 とにかく、次がラストなんですよねぇ…。
五枚、という量でラストに持ってけるかなぁ…。