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人形の心  作者: 星野 雫
9/11

命の欠片

テーマ :砂漠

禁則事項:擬態法、擬人法の使用禁止。(偽者表現も含む)


 テーマが…。禁則もよく理解できず、比喩はOKだよね? と、書いてしまいました。



「晴海…。 そうなんだろ? おまえなんだろ?」


 彼の視線はすがる様で、その問いを肯定できないのはとても辛かった。 けど、私は彼女ではなかった。 確かに私の中に彼女は存在する。 特にあの記憶を発見してからは一層、彼女の影響が強くなっていると思えた。 何かを考えるたびに、そして彼と話すたびに、私は彼女と一体となっていく、そんな感じがあった。

 だからといって……。


 それでも、やはり私は晴海さんではなかった。

「私は、晴海さんじゃないわ…。 彼女の記憶を奪った、彼女がああなってしまうことを予測しながら何もしなかった。 そんな、ネットで生まれた怪物よ…」

「うそだ。 晴海だろ? 記憶を奪った? どういう……、  まさか?」


 思えば、これまで、このことを彼には告げて無かった。

 だが、彼だってあの実験に関わっていた。 だから、予測はあったのだろう。

 晴海さんの記憶はどこかにあるかもしれない。 その予測、いえ、望みを持っていたのかもしれない。 けど、事実は少し違った。 事実を伝えるのはとても辛かった。 それでも、問われて誤魔化せるほど無神経ではいられなかった。

「それは…」

 彼の視線は、私をまっすぐに見詰めていて、私が伝えようとする言葉の裏を、その記憶の全てを読み取ろうとしているかの様に感じられた。

 その視線を受けつつ、私は重い口を開き、事実を、私が持つ罪の記憶を伝え始めた。


 私がどこで生まれ、何をしてきたのか。 どうやって彼女の記憶を手に入れのか…、そして彼女の意識が消え行くさまをただ見ていたことを…。



「私があの実験を止めていれば…。 私には出来たのに…」

「まぁ、あれは俺と晴海のミスだから、おまえが責任を感じる事はないんだ…」

「でも! でも、私には判っていたのに! ああなることは判っていたのに……」


「だが、当時のおまえにとって、それは止めるべきことじゃなかったんだろ? って、今のおまえには晴海も含まれてるのか…。 はは。 ややこしいな。

でもな、とにかく、特に最近、おまえからは明らかに晴海を感じるんだ。 だから、おまえ自身が何て言おうが、おまえは既に単なるプログラムなんかじゃないさ。

おまえは命ある存在だよ。 だから…」



「おかえり、晴海」


 そう言う彼は暖かく微笑んでいた。


 その言葉は涙が出るほど嬉しかった。 私を晴海。 人間。 そう言ってくれる彼の気持ちが、例え言葉だけでも、その優しさが嬉しかった。

 それまで、私自身は砂漠なんだと考えていた。 ネットで生まれ、命など欠片もない。 晴海さんの記憶というオアシスの周りに居た私だって、所詮はその一部。 自分の心と感じるものも所詮は偽物、砂漠の蜃気楼にすぎない。 晴海さんの記憶を映しているだけ。 結局、私自身は砂粒のようなプログラムに過ぎない。 そう考えていた。

 けど、彼はそんな私の中に、気持ちが、人間の心という命がある。 そう言ってくれた。

 それは、私がずっと求めてきたものだった。


「その言葉、とても嬉しい…」

「でもね。 私はやっぱり晴海さんとはちょっと違うわ。 そうね、晴海じゃなくて、ハル。かしらね?」

 そう言い、口角を上げた。 こんなときに、そんなどうでもいいことを言えるなんて、そして笑うことができるなんて…。

 これが気持ち、というものだろうか?




 けどそのとき、彼は別のことに気が付いた様だった。

「待てよ。 じゃぁ今、ネットにはおまえの分身が居るんだな?」

「ええ。 間違いなく居るわ。 ネット、ネットに繋がる全てのコンピュータ、そこには、間違いなく存在してるわ」

「そうか…」


 彼は何か思い当ることがある様だった。


「それでかな…。 最近、ネットを通しての処理で、結果が微妙に予測からずれることが話題になってたな」

「どういうこと?」


 彼の話によると、大量の処理をネットを通して実行したとき、その結果が予測と微妙にずれたことがあった、ということだった。 確かに、個々の現象をいくら観察しても何も見つけられないだろうけど、大量の処理の、そのトータルを比較した場合、何か介在する存在があれば、僅かなずれを観測することが出来るかもしれない。

 そして、そのずれを探ろうと再度やってみたが、もうずれは観測できず、その後は何度やっても、もうずれは観測できなかったという。

 おそらく、自分を探ろうとする処理そのものに侵食して、調整してしまったのだろう。 そのくらいのことなら私でも出来る。


「さらに変なのは、そのずれが観測されたデータが変なんだ。 プリントアウトとファイルの値が違うんだ。  今、それが話題になってる」


 プリントアウト…。

 ファイルならば整合するように書き換えられる。 けど、紙になってしまったものは書き換えられない。 それはネットを支配する存在にとって盲点かもしれない。

 とにかく、自分の存在を探るものは脅威と判定するだろう。




 かつては、私もネット世界の砂漠の一部だった。 そこに命はない。 が、もし砂漠を探ろうとするものがあったら…。


 今、砂漠に砂嵐が吹こうとしているのではないだろうか…。



 うーん。 次をどうつなぎましょう…。 とにかく、次がラストなんですよねぇ…。

 五枚、という量でラストに持ってけるかなぁ…。


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