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人形の心  作者: 星野 雫
7/11

お出かけ

テーマ :歓喜

禁則事項:心理描写の禁止


 私は何者なのか、それはいくら考えても判らない、けど、それが「わたし」そう覚りはじめた彼女、そろそろ物語を動かさないと…。 そう思っての回ですが、うまく動き始めたでしょうか…。

 一旦、投稿しましたけど、心理描写がバリバリに入っていることに改めて気が付いて、あわてて改稿しました。 まだ、あるかなぁ…。 テーマは…。一応はあるつもりですけど…。  む、むずかしーです…。

 などと言いながら、またまた改稿してしまいました。 心理描写、減らせたかなぁ…。

 けど、とにかく、今回の改稿でラストにします。(2/6  14:43)


 ある日、平和な午後のひと時、私の口から言葉が滑り出た。


「コージ。 つめは噛み切るんじゃなくて、爪切りで切るものよ?」


「あぁ、判ってるよ…」


 それはごく自然な会話だった。 あまりに自然だった。

 けど、それは「わたし」が知るはずのないことでもあった…。

 しばらくの間はどちらも気が付かなかった。 けど、気が付かない訳はなかった。 それに、既に時は満ち始めていた。

 だから、私がその言葉を口にしなくても、結局は同じことになったはず。


 けど、とにかく、その言葉がきっかけだった。


「どうして…、  どうしてその渾名を知ってるんだ…?」


 そう。 彼の名前は『ひろし』だ。 漢字で書くと『広志』。 単純な読み替えに過ぎないけど、その渾名を付けたのも、使っていたのも、一人だけだったはず……。

「あ……。  それは…。 だってあなたの名前、そうも読めるじゃない…。 だからよ。 そ、それだけよ……」

 渾名だけじゃなかった。 彼が、これまで『わたし』の前でつめを噛み切ったことはなかった。なのに、当たり前のように私は指摘してしまった。

 だから、もうそのことは誤魔化しようはなかった。


 そう。 私の中には、あの彼女がいた。 確実な形が認識できるのは記憶だけど、それ以外もあると予測された。 既にそれは分離不可能で、色々な存在は混ざり合ってしまった。


 それが『わたし』だった。



 彼は、まっすぐに私を見詰めていた。

 私も、彼も、身動きもせずにお互いの目を覗き込んでいた。

 その間に、私の頬は少し温度が上がったようだった。


 私の体は、概ね生体部品で出来ており、その生体部品を維持するための機構も動物にならっての構造だった。 だから、私の体の大半の構造は人間にとても近い。 人間と同様に体温を維持するための機構として、私の体には約三七度の液体が循環していた。 そして、その機構の制御は実に複雑で、その機構のバグなのか、時として出力の調整がおかしくなることがあった。

 その時もそうだった。 その循環のためのポンプの出力が上がり、まるでポンプの音が聞こえるかのような錯覚すらあり、そして循環する液体の量が増えたことにより、私の頬に当たる部分は若干温度が上がり、液体の色が少し透けて見えていた。

 そう。 単純に外側から見れば、頬を上気させた。 そんな状態と認識されるだろう。



 そんな状態から、続く彼の言葉は、およそ予測からかけ離れたものだった。


「な、今度、出かけないか? 認可が下りるまでには少し時間がかかるかもしれないけど、ちょっと外を歩いてみないか?」

「どういうこと?」

「こんな部屋に、いつまで閉じこもっていても仕方ないだろ?」

「私、外に出られるの?」

「まぁ、何かの条件はつくだろうけど、 何とかなると思うよ」

「そうなの? なら、うん。 出かけたい。 私も外に出てみたい」


 彼がどんな理由でそんな提案をしたのか、それは判らなかったけど。 それでも、私がその提案を拒否する理由は無かった。



 色々な議論はあった様だった。

 けど、結局。 数日後、私の外出許可が下りた。 あるものを装着するのが条件だったけど、それは予測範囲のことだった。

 その装備に関して、詳細の情報はなかったけど、いざという時の最終的な処理の手段が内蔵されていることが予測できた。


「ふふ。 中身は何かしらね? 私が逃げ出す訳なんてないのに」

「大丈夫か?」

「ゼンゼン大丈夫よ? あなたは、この中身を知ってるの? GPS? それとも爆弾?」

「ば、爆弾なんか……」

「とにかく、俺から離れなければ、そして決められた範囲から出なければ大丈夫だから」

「平気よ、頼りにしてるわ。 よろしくね、コージ?」

「はいはい。 まぁ、せいぜい楽しもう」


 その時の、彼の笑顔は見たことがあった。

 そう。 あの写真に写っていた、あの笑顔と同じだった。 あの写真では、その笑顔は彼女に向けられていた、今、その笑顔が私に向けられていた。



 当日。 私は鏡に映る自分の姿をチェックしていた。

「うん。 大丈夫」

 私が着ている服は彼が用意してきたものだった。「新しく買うのは勿体無いから」そう言いながら、少し赤い顔の彼が差し出した服は、知っている服だった。

 不思議とサイズもぴったりだった。

 その辺の記憶ははっきりしないけど、彼女も同じくらいの身長だったのだろうか?

「準備は出来たかい?」

「OKよ」

 その言葉を合図に、私たちは部屋を出た。




 まだ冬が終わりきっていない外の気温は低かった。

 けど、そんなことは関係なかった。 澄み切った大気が、綺麗な水色の空が、私の周囲に広がり、そして今、私は日の光を浴びて歩いていた。


 思わず、伸びをしながら言った。

「うーん。 気持ちいい」

「おまえでも、そんな感覚があるのか?」

「失礼ね。 気持ち、はあるのよ」

「ははは。 そうだったな」


 そんな会話で二人で笑った。

 私だって笑ってるつもりだった。


 どうすれば笑顔になるのか、それはよく判ってなかった。

 でも、彼は笑っていた。 それは穏やかで、暖かな笑顔だった。

 だから、私だって笑顔に違いなかった。


 二人はどこに出かけたんでしょう? でも、そろそろ彼女は自分を受け入れ始めます。 どうしてなら、一番欲しかったこと、彼の笑顔がもらえたから。 こんな私でも、彼を笑顔に出来るなら、そんなに捨てたもんじゃない。 けど、それだけでは……。

 さぁ、次はどうしよう…。 お出かけの真の目的は? 一つは、彼女も予測したもの、でも、他にも……。

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