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人形の心  作者: 星野 雫
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欠けた記憶

テーマ :不安

禁則事項:名前の記載禁止、「?」と「!」の使用禁止、そして会話文の禁止。(うわあ、多い…)


何かが足りない。 それは確か。 それは何だろう? 知るのは怖い。 けど、知らずにいてはいけないと思う…。 いよいよ、彼女が自分の秘密を解き明かし始めます。



 何かが引っかかっている。


 そのことは、初めから何となく感覚があった。

 ただのプログラムの癖に何を言ってるんだ、そう言うかも知れない。 けど、そうとしか言い様が無い何かがあった。 元々私なんて寄せ集めの記憶、いや、データや処理が秩序も無く組み合わさってしまったものだ。 整合しないのなんて、むしろ当たり前。

 けど、それでも、そんなごちゃまぜの中にも繋がることはたくさんあった。 微かな繋がりでしかなくても、一連のこととして確かな繋がりを感じさせる記憶が数多く見つかっていた。


 なのに…。


 なのに何故か、あの写真の彼女のこととなると、私の記憶は不自然だった。

 何の記憶もない。 そう言いきる自信はなかった。 かと言って、彼女のことに関する記憶を見つけることも出来なかった。 彼女に関連すると考えられる記憶はあるのに、なのに、その彼女に関する記憶はなかった。

 何かがあるはず。 そう感じられて仕方が無かった。

 私の中の記憶を、データをサルベージするべきだろうか…。


 けど、もしかすると、今の私の中には無いのかもしれない。

 そう。 私の元になった存在の一つ。 ネットに浮遊する集合意識。 その中に残っているのかもしれない。 その所為か、私の中にその記憶があったことへのフラグだけが立っている様な感じだ。 けど、そのデータへのリンク情報は壊れている様で、試しにリンクを辿ってみたら、記憶保護違反で処理が異常終了してしまった。

 きっと、ネットに接続すれば探すことは出来るのかもしれない。 けど、その場合は確実に、かつての私、あの集合意識に見つかってしまうだろう。

 そうなれば、私がこの機械人形の人工知能に対してやったことの繰り返しだ。

 つまり、データを取り込んで、使えそうな処理の制御を取り上げて、単なるサブルーチンとして自分に組み込むってこと。

 つまりそれは、動物などに例えて言うなら、食べられてしまうってことだ。

 何か、どこかのお話にあったと思う。 相手を捕食することで、その能力を自分の物にしてしまう怪物のお話が。 私自身だってそうやって自らを育ててきた。

 そうなってしまった場合、それは私にとっては死だ。


 つまり、結局私は、そんな怪物たちと同じで、忌むべき存在だ。

 それでも死ぬのは嫌だった…。



 けど、じゃあどうすればいいのか…。

 もう、私自身の中のデータは検索しつくしたはず…。


 判らないことがあるのは落ち着かない。 気が付くと、私は前髪をくるくるといじくり回していた。 そんな私を、彼はじっと見ている。 目の端で捕らえる彼の目は、私を貫き、どこか遠くを見ているようにさえ感じられる。

 彼は私を見ているのだろうか…。 それとも、私などではなく、何かもっと違うものを見ようとしているのではないだろうか…。

 そう。 彼が本当に見たいのは、あの写真に写っている彼女なのではないだろうか。 どうして私なんかにかかずらわっているんだろう…。 仕事の上で仕方なく私の相手をしているのだろうか。 確かに、今、私の一部になっている人工知能、あの処理を作り上げたのは彼だ。

 けど、それだけじゃない。 そう感じられる。

 もしそれだけなら、あんな視線を私に向けることはないはずだ。




 あ…。

 おかしい…。



 私の中を、いくら検索しても、既に知っているデータしかなかった。 そう考えていたけれど、これまでに私が検索したデータ領域を改めて整理したら、何かがおかしいことが判った。

 アドレスに空きがある。 どのようなリンクを辿っても到達しない記憶領域がある。

 しかも、かなり膨大な領域だ。

 私のベースになっている処理システムが認識していない記憶領域ってことだろうか。 けど、そんな領域なんて存在しないはずだ。 大体、ハードウェアとして記憶領域の途中に空きがあるなんて作り方はしないはずだ。

 つまり、何者かが、その領域に何かを隠して、見つからないようにベースシステムに細工を加えて、その存在を隠そうとしたってことではないか。 つまり、それは私が探しているデータがそこにあるかもしれない、その可能性が大きいってことだと思えた。


 まさか……。


 そんなことをするのは、私自身じゃないだろうか…。

 私自身が、見たくない、知りたくない何かをそこに隠したのではないか…。

 どんなに怖くても、一度手に入れたデータを自分から消すなんて出来ない。 見えない領域に押し込んで知らなかったことにする。 私はそうするだろう…。



 何があるんだろう…。


 恐る恐る、歯抜けの記憶領域へとアクセスした。


 やはり何かがある。



 あ…、 これだ……。

 微かだった記憶が整合していく。 懐かしく、そして哀しい記憶だ……。



 ああ…、 彼女の意識が流れ込んで来るようにすら感じる…。


 もう、彼女自身が何かを思うことは無いだろうけど…。



 そう。 私は、彼女の意識が消えていく様を見ていた。 そして、その欠片を拾い集めて隠し持っていたんだ。


 あの時、その傍らには彼がいた。

 私は、それを止めることは出来た。 けど止めなかった。


 そして彼女は意識を失った。





とうとう、自分自身が隠していたことに気が付いた彼女。 それは、思い出したくなかった記憶だけど、でも、いずれは向かい合うことになる記憶。 写真の彼女に何が起きたのでしょうか? そして、そのとき傍らにいた彼は何をしていたのでしょう…。

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