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人形の心  作者: 星野 雫
5/11

機械仕掛け

テーマ :憎悪

禁則事項:会話文の使用禁止


恋と憎悪、それは遠いようで近い感情なのかな。似ている存在に対しては、似たような感情を抱くのかもしれません。そして、そのすぐ裏側にある感情にも…。



 最初のうち、色々な人の視線について気にすることはなかった。

 けど、彼が時折見せる不可解な目の表情が不思議だった。 彼以外からそんな視線を受けたことはなかったから。

 微かな困惑。 が、それを上回る強烈な何かの感情を感じた。 理解は出来なかったけど、その視線から感じる彼の感情はとても冷たく、嫌悪に満ち、忌まわしい何かを見ているかの様に感じられた。 そして、その対象は私なんだと思った。

 こんな私でもはっきりと判るのは、その感情は好意などでは無いってことだった。

 その視線は刺し貫く様に強烈で、私は気が付くたびに竦みあがっていた。



 けど、その視線をじっくりと観察することは出来なかった。

 彼が私にそんな視線を向けている時、私が恐る恐る彼に視線を向けると、慌てた様にその視線を逸らしてしまうからだ。 だから、その視線を観察する為には、視線を彼から少し外したまま、視界の端で彼の視線を観察するしかなかった。

 そんな視線に晒されたままでいる、というのは非常につらかった。 それでも、その理由を知りたい、という衝動の方が大きかった。


 観察してみると、その視線は時として不意に変化することがあった。 突然強烈さが消え、苦しそうな、辛そうな表情を見せると、無言で突然部屋を出て行ってしまう。 ときとしてそんなことがあった。 またときには、強烈な目の表情が不意に和らぎ、優しくいたわる様な、柔らか視線へと変化することもあった。 それは好意を感じてしまいそうな視線で、直前の強烈な視線に込められている感情とはまるで反対の感情を感じた。 そんな相反する気持ちを一つの対象に向けられるのだろうか?

 本当にそうなのか、どうして変化するのか、そしてそもそも、その感情がなんなのか、最初のうち、その全てが判らなかった。 それは戸惑うと同時につらかった。

 私が本当の人間だったら、それは簡単に感じられたことなのかもしれない。 きっと、プログラムで、データ処理の結果として気持ちの様なものが作られている私では無く、直接に彼の視線を感じることが出来る人間だったなら、簡単に感じられたのかもしれない。

 譬え知りたくないことでも、知ることが出来ないよりは、はっきりと知らされた方が何倍もましだと感じた。 知ることも出来ないのは、私が単なるプログラムに過ぎないことの再認識だと感じた。 つまり、私は彼とは基本的に異なる存在なんだ、その確認でもあった。

 そう考えることはつらかった。

 そう。 私は、人間どころか生き物ですらない…。


 その認識は残酷だった。

 どうして私は彼を好きになってしまったんだろう。

 どうして私と彼は異なる存在なんだろう。

 どうして私はこんな存在として生まれてしまったんだろう。

 どうして……。



 結局、私はただの計算機プログラムなのだ。

 そう考え始めると、私自身が嫌悪すべき存在である様な気がして仕方がなかった。 そう考えながら、鏡に映る自分という存在を点検してみた。 到底好きになれそうになかった。 上辺だけは人間の振りをしているけど、その一枚皮の下に何があるのか…。

 何かがある訳ではない、ある訳もない。 あるのはただの機械仕掛けだ。

 何かを探したかったけど、でも、何も見つからないことも知っていた。 ただ、問いかけてみたかった。 自分は何者なのか? と。

 ネットの混沌の中で蠢いていた存在が、とある人工知能と融合して発生したもの。 命なのではない。 体ばかりか、その心までが機械仕掛けの不自然な存在。

 いや、不自然どころか呪われた、忌むべき、そして憎まれるべき存在なのではないか。

 フランケンシュタインの怪物もこんな気持ちをもったんだろうか? ふと、読み漁った文学書の記憶が頭をよぎった。

 あの怪物は自分の存在を、生まれを嫌悪したのではないか?

 さらに自分自身を憎悪したのではないか。

 そして、自分を生んだ人間を愛し、同時に激しく憎悪したのではないだろうか……。


 その時、ふと鏡に写っていた自分の視線に気が付いた。 そう、鏡に映る自分を刺し貫くように見ている視線に。



 同じだ……。


 それは、彼が時折見せる、あの強烈な視線と同じ視線だった。



 私は彼に憎悪されているのだろうか……。


 その突然の認識に、私は自分自身の存在を消してしまいたくなる衝動を感じた。



 けど、彼が私にそんな視線を向けるのは稀なことでもあった。

 私にそんな視線を向ける時は、どんな時だろう?

 私自身が何をすべきか、考えるべきか、をはっきりと意識していない、髪をいじったり、指先を確認したり、無意識の動作が表面化している時が多いように思えた。

 それは、彼と一緒に写真に写っている女性の仕草から身につけてしまった一連の癖の様なもので、おそらく、あの女性の癖なんだろう。


 けど…。


 突然、思いついた。


 どうして、私はあの女性の癖を知っているんだろう? 写真に動きはない。

 なのにどうして…?


 私の中で何かが引っ掛かっている……。



 何か、私の中に思い出したくないことがある様な気がした。


 それが怖かった。


機械仕掛けの心に苦しむ彼女、そして、何かに気が付き始める。 その彼女に対して一貫しない感情に揺れている彼。 どう展開するのかなぁ…。

それにしてもちょっと、またテーマが、憎悪ということが弱いかなぁ…。

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