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第0話

 俺は、間違いなくヒーローだった。


 といっても小さい頃の話である。


 毎週金曜日の晩御飯どき、ぼくは待ちきれずにチャンネルを変え、自分の背丈くらいに置かれたテレビの前のカーペットにお尻をついてその時を待つ。

 OPテーマが流れ出し、心の中がざわめき立つ。始まったのは戦隊モノのアニメ。

 それはありきたりな勧善懲悪の構造で、悪役の怪獣が街をのっしのっしと蹂躙する中、五人のヒーローが立ち向かい、協力して倒すというストーリー。

 

 ……でも、誰が主役で誰が脇役だとか、そんな固定観念なんかないまっさらで純真な年頃だった俺にとって、心惹かれたのは尺の大部分を占めるカッコいい戦闘シーンじゃなくて、その後のエピローグ。

 

 怪獣との戦いを終え、街に平穏が戻ってきた。

 川の水面はゆらゆらと揺れ、紅く染まった空をそのままの色で映し出している。

 世界平和なんて大層なことを成し遂げた後に彼らが向かったのは、河川敷で不安そうに戦いを見つめていた少女。


「ほら、ちょっと汚れちゃったかもしれないけど、何とか取り戻せたよ」


 そう言って、赤色の覆面ヒーローは戦禍に巻き込まれていたクマのぬいぐるみを少女に手渡す。


「ありがとう! この子とずっと一緒だったから、ほんとによかった……」


 瞳を赤くした少女はそのぬいぐるみを大事そうにギュッと抱きしめた。



 今日も平和は守られた……というテロップとともに引きの画角になりEDテーマが流れる。

 今考えると、戦闘のきっかけがこのぬいぐるみをめぐる闘争だなんてかなりツッコミたくなる構成だけど、周りの人を助けるために自分の身を顧みず飛び込んでいくヒーローたちの姿がぼくの目には光り輝いて見えた。

 

 幼稚園の連絡帳には、人が困っているところを見ると無意識に手を差し伸べるような子だと記されている。

 確かに、友達がつまづいて転んじゃった時は迷わずに駆け寄ったし、先生が重いものを運んでいる時には無理言って一緒に運んだっけ。

 あの頃は「ありがとう」と言われるのがすごく嬉しかった。

 その言葉と笑顔だけで、自分がかけた労力に対して抱えきれないほどのお釣りが来るくらいに。

 

 ……そんなのは小さい頃の話である。

 俺はもうわざわざ自分を傷つけてまで、人を助けたりはしない。

 中学の時にいじめられている友達を助けようとして、自分も標的になった。

 それ以来、危ない橋は渡らないことにした。


 

 なのに。


 それなのに。


 どうして、俺はこの子を連れて屋上に向かったんだ?

 もうヒーローじゃないのに、またヒーローになろうとして、泣きながら飛び出す彼女の顔に大した言葉もかけられなくて。


 そっか。


 そうだったんだ。


 俺はまだ――。

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