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リポグラム×他視点小説  作者: さ阿
1/2

探偵の日常【桜木楼視点】

お友達との合作です。

「あら、海音(かのん)ちゃん。今日もご苦労さま。また持っていきなさい。」


水色の髪をなびかせた少女が振り向き、老婆からスイカを受け取る。


「お姉ちゃんも、もう一人のお姉ちゃんも前はありがと!」


老婆の後ろから小さい男の子が現れる。


「おっきくて美味しそうなスイカ、ありがとう!事務所に戻って二人で食べるね!」


そう言った少女は2人に大きく手を振りながらまた進んでいった。



—ガチャ


「あっ、おかえり。ねぇ、10年前に起きた『函館観光名所連続殺人事件』って知ってる?」


今から10年前の2015年。およそ3ヶ月に渡り6つの殺人事件が函館で起きた。事件現場はいずれも函館を代表する観光名所であったこと、被害者の体の一部が潰されていたことから、警察は同一犯の犯行として捜査を行ってきた。被害者の年齢、性別、職業ともに一貫性はなく、犯人の手がかりは一切なく捜査は行き詰まっていた。そして、犯人は依然として見つからないまま10年の年月が過ぎていた。


「えっ、初めて聞いた。なにその事件。名前も内容も物騒すぎでしょ!」

「明日で、その事件から10年が経つんだって。早く犯人見つかるといいね。あっ、それか私のところに捜査依頼でも....」

「それより(ろう)、これ!!」


大きなスイカを楼と呼ばれた少女に見せる。


「これ、安藤さんにもらったの〜!食べよ!」

「それはいいね!ところで安藤さん?って誰だっけ?」

「ほらぁ、この前赤い車と青い自転車が事故って、現場検証してる最中にラムネをくれたおばあちゃん。」

「あぁ!その後お孫さんの失くしちゃった帽子探したよね。」

「そ〜!やっと思い出した?いっつも事件の詳細は覚えてるのに人の名前はすぐ忘れちゃうんだからぁ。」

「海音が教えてくれるからだいじょーぶ。」


2人の少女が探偵事務所で仲睦まじく話している。

いつまでもこの時間が続けばいい。そう願う2人のところに1人の男がやってくるまであと...。


−−−−−−−−−−−−−−−−−−


7月11日、今日で函館観光名所連続殺人事件から10年の月日がたった。当時、この事件は世間に衝撃を与えた。観光客も多い場所での事件だったため、この事件は函館、北海道、日本にとどまらず世界にまで広まっていった。そして、10年前と同じ、午前1:00ごろ。札幌の観光名所の一つ、ラジオ塔で殺人事件が起きた。10年前と同じ日付、同じ時間、観光名所で。朝から札幌は騒然としている。

「また、10年前と同じように6人殺されてしまうのではないか。」

「あと5人はだれか。」

「次の犯行場所はここではないか。」

「犯人は一体誰なのか。」

新聞が1面を使って報じているニュースに、桜木 楼(さくらぎ ろう)はすこしワクワクしていた。もちろん、犯行が願わしい訳では無い。全国的にも有名な札幌に住む女子高校生探偵である楼は面白そうな事件が自分の案件になることを期待していた。


「どうしたの?楼。そんなにニヤニヤした顔で新聞読んで。」

「ニヤニヤとは失礼だな。ねぇ見てよ海音。この事件、面白そうだと思わない?」


海音と呼ばれた少女は楼の助手であり幼馴染の海瀬 海音(うみせ かのん)。楼の1つ下の高校1年生であり、楼のことを尊敬し慕っている一人である。


「何?その事件」

「知らないのぉ?私の助手なんだから少しは気にしようよ。」


そういって新聞を海音に手渡した。

何か食べようかと席を立った瞬間、部屋のベルが鳴る。


「桜木 楼様で間違いないでしょうか?」


いつも通りの単調な台詞。


「ほら、海音。来たよ。天田 奏太(あまた かなた)が。」


楼は満面の笑みを浮かべながらドアを開ける。


「私、中央警察署の警部補、天田奏太と申します。本日はある捜査の依頼に伺いました。」

「報酬は、用意できるのかな?とりあえず内容だけでも話してごらん。」


いつも通り、堅い口調とは裏腹に楼は笑みをこぼしながら奏太を席まで案内する。


「きっと、すでにご存じでしょう。今回の事件はある殺人事件です。」

「えっ!ラジオ塔のやつ?」


先ほどまで難しそうな顔をして新聞に頭をうずめていた海音が声を上げる。


「この事件、どうかご協力いただけないでしょうか?」


堅い口調に合わない優しい笑顔の奏太は、この3人にはよく慣れた台詞を口にした。


「その依頼、受けさせてもらおう!」


もうすでに鞄を持った楼は奏太を急かす。


「今回も事件への協力、感謝するよ。それでは現場まで案内しよう。」


依頼を承諾したとたん、いつもの口調に戻った奏太に人懐っこい声で海音は話しかける。


「今回の報酬はチョコモナカアイスがいい!!」

「ああ、事件が解決した暁にはご所望のアイスを沢山用意する。」


お決まりとなった報酬の交渉が終わった。

桜木楼、海瀬海音、天田奏太の3人は、また新しい事件の解決のために動き出した。


−−−−−−−−−−−−−−−−−−


楼と海音は奏太に案内され、事件現場に来ていた。


「被害者は大元 音(おおもと おと)、52歳女性。探偵業を営んでいる。所持品に荒らされた形跡はなく、財布もスマホも残っていた。」


楼は現場に残された血痕を眺めながら奏太の話を聞く。


「なら、お金目当てではなさそうかな。」

「あぁ。海音がさっき新聞を読んでたし、知ってるだろう?10年前に函館で起きた事件。本部はあの事件と同一犯と見て捜査を進めている。」

「10年前の事件と場所、時間だったりはほとんど同じなの?」


海音が不安そうな顔で問いかける。


「ああ。金目当てではないことや、犯行時刻、犯行場所に被害者の遺体の状態からして過去の事件と同一犯だろう。」


『遺体の状態』とはこの血溜まりのことだろう。遺体の頭がぐちゃぐちゃに潰れている。頭蓋骨だろうか、それとも他の何かだろうか。確実に材質の違う沢山の赤い塊が散乱している。

楼は顔を上げ、現場を見回す。いつも見ている光景が、一夜にしてこうも変わってしまうのか。楼は、一瞬顔を顰めた。


「ところで、第一発見者は誰?話を聞きたいんだけど。」

「第一発見者は、百目鬼 流(どうめき ながる)。仕事帰りに居酒屋で飲み、帰宅しているところ、遺体を発見し通報した。警官が現場についたころにはもう、被害者の息はなかったそうだ。そこにいる、黒のキャップを被った男だ。」


話を聞くなり楼は海音の腕をつかみ、第一発見者の男に向かって走り出した。


「えっ、っちょ、ま、楼!?手っ、手離してぇ〜!!!!」



「ねぇ!あなたが第一発見者?」


息切れしている海音の横で楼がにこにこしながら男に聞く。


「え?あぁ、俺が最初にこれを発見したけど...この子供、誰なんだよ?刑事さんよ。」


男は、五月蝿そうに楼を見つめる。


「探偵ですよ。今回の事件の捜査を依頼しました。こう見えていくつもの事件を解決してきた実績もあります。この子にも発見当時のことを話していただけませんか。」


奏太に褒められた楼は、誇らしげな顔で男を見つめる。隣にいる海音は、楼に対する男の態度に少し怒っているようにも見えなくない。


「それなら頼りになりそうだな。若いのにご苦労なこった。」


立派な隈を携えた流は楼と海音を交互に見ながら気だるげに口を開いた。


「昨日、仕事が終わって、華金だから居酒屋で夜まで飲んでたんだ。んで、気づいた頃には小通り公園のベンチで寝ててよ?起きたのは2時くらい。流石に家に帰ろうと思ったらあの死体を見つけたんだ。すぐ通報して、警察の人がきたけど…見りゃ分かるが、手遅れだったらしい。」

「走り去る人影とか見てないの?なんかちょっとでもこう、さっ、怪しい人とか!」


海音が流に問いかけるが、流は険しい顔をしている。


「それがさ、遺体を見つけたときの衝撃で今はもう酔いが覚めたけど...あのときは酔ってたからふらっふらだったし、辺りも暗かったから何も見えなかったんだよ。」

「そう.....。じゃあ海音、奏太、さっそく調査しに行くよ!!」

「行くってどこに行くのよ?発見者は役に立ちそうにないし。」

「とりあえずさっき放置してた遺体を見に行こ。凶器とか、倒れている場所とか、可能な限り詳しく記録しておかなきゃ。」


こうして、楼と海音は捜査に乗り出した。


−−−−−−−−−−−−−−−−−−


楼たちが捜査するラジオ塔の殺人事件を尻目に大きな事件が世間を震撼させていた。


7月29日火曜日、谷珠空港(たにだまくうこう)での殺人事件で被害者は市村一輝(いちむらいっき)、32歳の会社員

8月4日月曜日、流山渓(りゅうざんけい)での殺人事件で被害者は赤城蒼(あかぎあお)、24歳の大学生

8月16日土曜日、モアイ霊園での殺人事件で被害者は宇津木 兎(うつぎ うさぎ)、22歳の専門学生


どれも函館の観光名所連続殺人事件と同じ日にちであった。

さあ次は何日やら、さあ次はどこやら、札幌、北海道、日本にとどまらず世界中を巻き込んで一種のブームを築き上げていた。


「なーんにも進まない...。なんでこんなに手がかりがないわけ...?」

「楼がこんなに行き詰まるなんてね。」


いつも呑気に笑っている海音が弱々しい声で楼に声をかける。


刻一刻と変わっていく事件と対象的に、夜遅くまで楼と海音は奏太に渡されたこれまで起こった4つの殺人事件の資料をもらいながら頭を抱えていた。


「なぁんにも、進まない...」

「ずっと同じこと言ってる…もうわかんないし、やめちゃおうよ。」


海音はげっそりとした楼の顔を心配そうに覗き込む。


「だめだよ!私が解決するんだからね。」


なんと言おうが、未だラジオ塔の殺人事件の手がかりもなく、ただ日付が変わっていく毎日だった。

切羽詰まっているような楼に休んでもらおうと海音がテレビをつける。


「ほらぁ。もう夜の2時だよ?一回寝るか、テレビでも見て休もうよ。」


流していたテレビの画面が切り替わる。

そこにはひどく焦りながらも一文字一文字漏らすことなく的確に読み上げるアナウンサーがいた。

画面の右上には大きく「札幌観光名所殺人事件」と書かれている。

また次の殺人事件が起こったようだ。8月31日日曜日の1:00ごろ、事件現場は黄レンガ道庁(おうれんがどうちょう)。被害者は江口 衣人(えぐち いと)、74歳の男性。


「もうここまで行き詰まったら、行くしかないよね。奏太に連絡して。現場に行こう」


楼の行動をわかっていたかのようにすぐに奏太が電話に出る。


「楼か。ニュースでも見たのか?」

「なんかわかりそうなこと、ある?」


久しぶりに笑顔を輝かせた楼が声を弾ませる。


「あるかもしれないし、ないかもしれない。とりあえず来い。話は通しておく。」


−−−−−−−−−−−−−−−−−−


いつもの鞄を持った楼がスキップでリズムを奏でながら事件現場に到着した。


「来たな。待っていた。」


事件現場を事件現場たらしめるテープを持ち上げた奏太が楼と海音に声を掛ける。


「今回も第一発見者、いる?」

「いいのか?先に遺体を確認しなくても。」

「いいから。今回こそは第一発見者から有力な情報をもらうの!」


ムスッとしながら楼は教えられたテントに入る。


「うわぁっ...また君?」


ひょこっと楼の後ろから顔を出した海音がつい口にする。


「うわぁって、ひどくないか?探偵さん」


そこにいたのはこの前より酷い隈を蓄えたあの男だった。


「第一発見者は、百目鬼流...であっていますか?」

「あぁ。面白くないが、面白い偶然だよな」


げっそりとした顔の流がゆっくりと楼の方向に体を向ける。


「今回も、酔っ払ってる?」


なんとなくトゲトゲしい海音の言葉に流が俯く。


「残念ながら完璧なシラフだよ。酔っ払ってたほうが良かったかもな。」

「とりあえず、発見まで何をしていたか、可能な限り詳しく教えていただけませんか?」


丁寧に笑顔で楼が尋ねる。


「特に役に立たねぇだろうが、聞いとけよ。」


警察にもらった水を一口飲んでから流は座り直した。


「今回は、ただ家に帰るために歩いてたんだ」

「何のためでしょうか?わざわざ、こんな夜遅くに?」


矢継ぎ早に畳み掛ける楼を煩そうに流が答える。


「何だっていいだろ。」

「ちゃんと答えてよ。なんでそんな時間にいるの?」


一瞬で飽きたのか、流に出されていたはずのせんべいを食べながら海音が言う。


「お前、ほんとに助手?うざったい。」


奏太が海音に別のせんべいを渡してから口を開く。


「ご協力、お願いします。」

「こっちのテンポで話せんならすぐに話すって。」


海音に一瞬視線をやってから流は話を再開する。


「今日は歩いて職場から帰ってたんだ。普段は自転車で帰ってるんだが、朝、自転車がなくなってて...ほんとにツイてないよなぁ。」

「盗まれたのか?」

「信じたくはないけどな。探偵さんは自転車の捜索も受け付けてるか?」


流は抑揚のない声でどことなく皮肉を帯びた物言いだ。


「そして、殺害現場を発見したというわけですね?」

「現場でも見てりゃヒーローじゃねぇか。俺が見つけたのは死んだあとだとよ。大体1時12分。あのおっちゃんが道庁の裏に倒れてたんだ。2回目となりゃ時間も確認できるらしい。」

「傷の様子と彼の証言は一致している。」


奏太が楼に耳打ちする。


「なぜわざわざ道庁裏に?」


メモすら取らずにずっと見つめる楼を軽く睨みながら流が続ける。


「職場から家までの道が道庁裏なんだよ。悪いかぁ?」

「ねぇ、なんか態度悪いよぉ」

「いえ、すみません。」


海音に被せるように楼が謝る。


「それにしても、日曜日の夜1時に帰宅なんて不自然にもほどがありますよ?」

「社会を知ってから探偵をするべきだよお嬢ちゃん。企業と契約しちまったフリーのシステムエンジニアなんてこんな扱いなんだよ。」


楼に軽い罪悪感が降りかかる。


「心中察するよ。」


奏太が珍しく相槌を打つ。


「ん〜…えっと、珍しく歩いて帰ってたらまたもや殺人事件の第一発見者になっちゃったってこと?」


せんべいを食べ終わったらしい海音が口を開く。


「ほら探偵さんよ。これがお望みの情報だ。役に立ったか?」

「ご協力くださりありがとうございます。」


最初の笑顔を崩すことなく楼が受け答える。


「今日はもう帰って寝てぇんだよ。連絡先でも教えてやるから今日は帰らせてくれ。」


流が一歩下がったところでこちらを見ていた奏太に目線を移す。


「可能ですが、招集がかかれば可能な限り、ご協力ください。」

「あぁ。時間さえありゃな。」

気だるそうな流は他の警察に案内されながら答える。


「ねぇ、どう?楼、なんかわかった?」

レコーダーのデータを確認している楼に海音が問いかける。

「わかんない。でも、きっと、真犯人には、近づくと思う。」

「では、遺体やその周辺の確認に入るか?」


規制線の外まで流を送り届けてきた奏太が提案する。


「うん。もちろん。そうこなくっちゃね。」


−−−−−−−−−−−−−−−−−−


「最近、太陽が昇るのも遅くなったよね。」


朝日を浴びた、眠そうな海音は大きく口を開けている。


「そろそろ、人も多くなるだろう。帰るなら今のうちじゃないか?」

「うん。とりあえず一度帰ろう、海音。」


丁度、簡易拠点から出てきた奏太は2本のペットボトルを差し出した。


「今回の証拠、また送っておいて。」

「ああ。追加でこれまでの事件の資料も、最新のものを送っておいた。」



黃レンガ道道庁での事件後、楼は奏太から送られた資料を読みながら、これまでの事件内容を見返し、一つ一つ見つけた情報をつなぎ合わせていた。


「ねぇ〜...ねぇ〜......ねぇってばぁ!」

「どうしたの?海音。」

「やっと反応したぁ!もうすぐ10時だよ?夜ご飯も食べてないし。進捗、どんな感じ?私にできそうなこと、ある?早く寝ようよ」


楼が反応してくれたのが嬉しいのか海音がニコニコして話す。


「それだけど、少し引っかかる所もあるけど大方分かったかも。」

「ほんと!?前回の事件が引き金だった?1週間も立ってないのに何か掴んだの?!」

「いやぁ、これまでの内容を踏まえた上で、予想できるかもしれない。くらいかな。まだ誰とは言えないな。」

「じゃあ、もうちょっと頑張るの?」


やっと終わったと思っていた海音は悲しそうな顔で聞く。


「うん。でも、本当に、近づいてきてると思う。」

「ね!ハンバーグでも食べよ!私が作る?お店の、テイクアウトしちゃう?」


SNSに流れてきた広告を見て、お腹を鳴らした海音が間髪入れずに楼に問いかける。


「いきなり!...それ、海音が食べたいだけだよね?そういえば、ちょっと前の捜査依頼の報酬でそのお店のハンバーグ半額券とテイクアウト無料券もらってたかも。それ使お!」

「ほんと!?楼グッジョブじゃん!珍しく事件とは関係ないこと覚えてるってことは、ホントはすっごくハンバーグ食べたいんでしょ!」


ハンバーグ屋の注文サイトを開いたスマホを楼に押し付け、海音は話し続ける。


「一回さ、推理も大事だけど...ちょっと休憩してハンバーグ選ぼーよ!」


久しぶりの仲睦まじい会話が続き、楼と海音はハンバーグを選ぶ。


「遅くにありがとうございます」


夜中にも関わらず随分と元気にハンバーグを受け取る女子高校生2人に驚きながらもハンバーグ配達のお兄さんは丁寧にハンバーグを手渡し、帰っていった。


「ほんとにすぐに来たじゃん!」

「おいしそ〜!!」


ハンバーグをお皿に移し替えて2人は食べ始める。


「なにこれ!おいし〜」


ずっと話しながら食べるため、海音は食べるペースが遅い。


「それ、いただきぃ!」


もうすでに殆ど食べ終えた楼は海音のお皿にあったミニトマトをひょいと食べてしまった。


「あぁ!私のミニトマトがぁ〜」


海音は口いっぱいにハンバーグを詰めたまま台詞とは似合わない幸せそうな笑顔で泣き真似をする。


「あ〜...久しぶりに、お腹いっぱいご飯食べたかも。」

「そうそう!楼、最近ゼリーとかすぐに食べれちゃうものしか食べてなかったから心配だったんだよ?」


やっと全て食べ終わった海音はお皿を洗いながら楼の独り言に反応する。


「ほらっ!もう寝ちゃお!」


お皿を洗い終わった海音は楼が持っていた資料を奪いあげ、代わりにパジャマを手渡す。


「おやすみ!また明日。」

「うん。おやすみ。」




「朝だよ、起きて!おはよ!」


太陽のよりも明るい声が事務所に響く。


「ん〜…海音、もう起きてたの?」

「だって、もう10時だよ?」


すでに、朝ご飯を作り終わった海音はまだ寝ぼけている楼をテーブルまで連れて来る。


「おいしそ〜。ありがと!」

「ほらほら、早く食べてまた推理再開しよ!きっといっぱいご飯食べたら、なんかわかるよ!」


やっと起きてきた楼を待ちに待っていたように海音はサンドイッチやスクランブルエッグ、ヨーグルトなど沢山の朝ご飯を楼の眼の前に置く。


「そういえば、今日の朝刊ってもう取ってきてた?」

「あ〜...取ってきてない。私が取ってきてあげるから、ご飯食べてていーよ!」


そう言って、玄関まで消えたと思った海音が一瞬で戻って来る。


「ねぇ!楼!これ!!」


そう言って急いで手渡した新聞の一面は『観光名所連続殺人事件 終焉』と書かれている。


「これは、第6の事件が起きたってこと?」


楼が急いでメールを確認すると、奏太から送られてきた資料が一番上にあった。


「うわぁ…せっかく楼がご飯食べるとこだったのに…タイミング悪いよぉ」


海音がそう言いながら食べやすいようにサンドイッチを一口サイズに切り分ける。


「楼、推理始めるよねぇ。なんか必要なものあったら言ってね。」

「推理というより、奏太がくれた資料とこれまで立ててた仮説を照らし合わせるの。朝ご飯作ってくれて、もう助かりまくってるよ。ありがとね。」


楼に感謝された海音は嬉しそうに洗濯が終わった衣類を取りに行った。

6回目、最後の事件は小倉山。被害者は加藤勝市85歳。これもやはり夜の1:00ごろに殺害され、今回も顔面が潰されていたようだ。


「ある程度、確定かな?でも、本人に聞いてもう少し情報がほしいところだけど…」

「じゃあ、同行してもらっちゃえばいいじゃん!」


洗濯物を干していた海音が声をはずませる。


「そんな簡単なことじゃないんだよ?」


やっと事件の全貌が見えるからかウキウキし始めた海音を楼がなだめる。


「でも、とりあえず奏太に連絡しないとね。」


ぴょんぴょんと周りを跳ねている海音とは対照的に楼は落ち着いてサンドイッチを一欠たべ、奏太に向けたメールをカタカタと打ち込む。


−−−−−−−−−−−−−−−−−−


—ピンポーン


小さく、薄暗いアパートのドアの前に数人の男が立っている


「はい。どちら様?」


小さな声がインターホンから聞こえる。


「警部補の天田奏太です。任意で署まで同行願います。」

「第一発見者だからか?もう話せることはないけど?」


インターホン奥の声が確かに震えている。


「昨今の札幌観光名所連続殺人事件の容疑者として名前が挙がっております。署でお話をお聞かせ願います。」

「は。…嘘だろ。」


開いた口が塞がらない、といった様子でインターホンからは途切れ途切れに小声が聞こえてくる。奏太は黙って待っている。


「断れないやつだよな?これ。」

「断っていただいても構いませんが、その場合容疑を晴らすことは難しくなるかと。」

「〜ッ、じゃあ行くよ!勝手に連れてけ。」



「ほら、早く解放しろよ」


明らかに不機嫌な流が取調室で奏太を睨みつける。


「まだあなたが犯人であることは確定していません。容疑がかかっているだけです。」


流がそれが何を意味するのか問いただすような視線で奏太を睨みながら口を開く。


「どうせ証拠をでっち上げ終わったから呼び出したんだろ?どうせ真犯人がまだやらかそうが、共犯ってことで俺はムショ行き確定なんだろ?」


どこまでも抑揚のない声で流は続ける。


「とりあえず証拠でもなんでも出してみろ。証拠がないまま容疑をかけるはずがねぇ。」


奏太が封筒から書類を取り出す。


「これからあなたになぜ容疑がかかったか説明します。何回かの取り調べで君の性格はよく分かりました。結論から知りたいのではないでしょうか?」


好きにしろと言わんばかりの表情で流は椅子に座り直す。


「最初の事件は札幌ラジオ塔での殺人事件です。被害者は大元音。あなたは彼と一度会っているそうですね。この事件のちょうど2ヶ月前に札幌駅内にあるカフェで彼があなたに飲み物をこぼしてしまった。このカフェの店員によれば一瞬で空気が凍りついたそうです。」


奏太が深く息を吸う。流は机の一点を見つめたまま動かない。


「2つ目の事件、谷珠空港で市村一輝が殺害された事件です。このときあなたは谷珠空港近くの居酒屋に滞在した後12時頃に居酒屋を出ています。」


また深く息を吸いながら、奏太は流に目線を移す。


「では、3つ目の事件です。この事件の被害者は赤城蒼、流山渓の温泉で殺害されました。どうやら、百目鬼流さんは彼と顔見知りとお聞きしました。大学の同級生でよく言い争いをしている現場を他の生徒が目撃していたようですね。」


途中で、やっと流が反応し顔をあげる。


「4つ目の事件はモアイ霊園での殺人事件です。被害者は宇津木兎。こちらの方とも顔見知りのようで。すすきので言い争いをしていたところがインターネット上に拡散されていました。投稿の内容が正しければこれは事件のちょうど1週間前ですね。」


どうにか流の目を見ながら話そうとする奏太だが、どうしても目線が合わない。


「5つ目の事件、江口衣人が殺害された黃レンガ道庁での事件。これもあなたが第一発見者でした。事件後、第一発見者としてお話を伺った際にあなたは仕事帰りだとお話されました。ただ、その後会社からは、7時にご帰宅なさっていたとお聞きしました。」


奏太は冷静に流に話しかけるが、流はまた顔を下げていた。


「6つ目の事件は小倉山で加藤勝市が殺害された事件。あなたは、この方をよくご存知でしょう。調べさせていただきましたが、ご実家の隣に住んでおり、昔からよく交流があったそうですね。」


奏太は一つの事件について話し終わるたびに流を確認するが、何も反応はない。


「以上が百目鬼流、あなたの犯行として疑惑がかかっている事件の概要です。」

「概要以外にも注釈がある。」


突然、流が口を開く。


「俺を犯人たらしめるためによく俺を調べてんじゃん。でもさ、それ、全部ホントなの?嘘掴まされてんじゃねーの?」


何を話そうが、やはり抑揚のない声で流は続ける。


「SNSやら、ちょうど同じ場所にいただとか、そんなん俺が知ってるはずないけどよ。人間関係やら、俺の退勤時間やら...俺の生活を全部完全に知ってるはずねぇだろ?んで、あることないこと言い始めやがって。」


苛ついているのか口調にトゲがある。


「いえ、すべて事実に基づいています。こちらの鑑識や探偵が見つけた情報です。」


流は静かに深く息を吸う。


「じゃあ、なんで俺が赤城蒼の葬式に行ったか分かんのか?」


奏太は久しぶりに流と目があった。衝撃の発言と鋭い眼光の流に押され、奏太がたじろぐ。


—コンコン


「桜木楼と海瀬海音です。これより、取り調べに参加いたします。」


初めてあった時とはまた違う緊張が取調室を満たす。


「よぉ。頼りになるとは言ったが、ここまで持ってきたのは君かい?探偵さん。」

「これより、私が取り調べを担当します。詳しいお話をお聞かせください。」


海音がすぐに楼の前に出るが、楼は海音の後ろから移動し、流の向かいにある椅子に座った。


「まずは、1つ目の事件。私達が事件後、最初に会ったのもこの時です。この時、流さんは酔っ払っていたため、何も知らないとお話しされていました。これは、本当に覚えていなかったのでしょうか?」

「酔っぱらいには人権でもないのか?そもそも俺が殺したなら通報なんてしないで逃げるだろ?」


流は全てに興味を惹かれないかのように、ただ楼の方を向いている。


「ただ、面白いことに、流さんと被害者の大元さんは事件前、同じ居酒屋でお食事を取られておりました。また、事件の2ヶ月前にも同じカフェでお食事を取られており、お話もされていたそうですね。」


流は2ヶ月前の遠い記憶を思い出したのか、楼と目線を合わせる。


「こぼれた飲み物を拭くために、俺が席に合ったふきんを投げてやったおばさんか?」

「ええ。ただ、カフェの店員さんによると、 流さんは大元さんを睨みつけていたそうですね。」

「俺の話と証言が合わないってか?」


抑揚のない声が楼の話を遮る。


「まあ、他人から見たときの印象は異なりますから。」

「次は2つ目の事件ですね。被害者は市村さん。事件現場は谷珠空港です。7月29日ですね。任意ではありますが、この日の行動を覚えている限り教えていただけないでしょうか?」

「29日、火曜日か?」


流はカレンダーを見ながら曜日を確認し、話を続ける。


「この日は家で仕事をしてたな。いわゆるテレワークだ。その後、7時から友人たちと飲みに行った。東区にある居酒屋だったはずだ。時間は覚えちゃいないが、遅くまで飲んでたな。」


静かに話を聞いていた楼は流が話し終えると口を開いた。


「7月29日は流さんは有給を取得しています。また、居酒屋で一人、集団から別れて、空港の方向に歩いていったのが目撃されています。」


流がゆっくり楼と目線を合わせる。


「ただ近くにいただけで犯人なのか?そもそもあの居酒屋も谷珠空港内にある訳でも、谷珠空港に面してもいない。俺が疑われるんなら、その日東区にいた人間、全員疑わなきゃならねぇだろ。あと、俺は今年一度も有給は使ってねぇ。本当に会社の事務に確認したのか?」

「容疑を決めつけているわけではありません。私達が入手した情報と異なっていただけですので、確認したかったのです。」

「ほら、次は3つ目の蒼の事件か?」


どうでも良くなったのか、バツが悪いのか流が話を急かす。


「では。おっしゃるとおり、被害者は赤城蒼、8月4日の流山渓での事件です。赤城さんと流さんはこれまでに面識が合ったと聞いております。お二人のご関係を教えていただけないでしょうか?」

「ああ。ざっくり説明すると、俺等は友達だ。大学の学科が同じでな。1年のときから取ってた授業もほとんど同じだった。グループ演習で一緒になってから、よく話したり、カラオケ行ったり、かなり仲が良かったと思う。7月の29の飲み会にも来てたよ。あの飲み会は俺等の友達の誕生日だったんだ。その後すぐ死ぬとは思ってなかったよ。あぁ、蒼の葬式はもう終わってる。あいつ、最終学歴高卒だぜ。浪人し過ぎなんだよ。」


少しずつ声が小さくなっていく。これまで全く抑揚のなかった声は震えている。


「赤城さんのお母様からお話を聞きましたが、赤城さんが実家に帰る度に流さんについてお話していたそうですね。ただ、お二人の同級生の方からは、よく喧嘩をしており目があっただけで睨み合っていたり、と仲が良くなかったとお聞きしました。」

「同級生の方、って誰だ?...俺はそいつの検討がつかないし、よくそんなやつに俺等について聞いたな。確かな情報が手に入るはずねぇよ。」


誰に話を聞いたのか知りたそうに、流は資料を確認する楼に目線を向ける。


「では次です。4つ目の事件は8月16日にモアイ霊園で宇津木兎さんが被害に遭いました。この方とも面識があるようですね。SNSで調べればすぐに出てきます。」

「俺はそいつを知らないよ。さっき、警部補のあいつ、天田だっけ?がすすきので言い争いをしてた相手だって言ってたが、おれは一度もすすきので言い争ってねぇ。そのSNSの動画は人違いなんじゃねぇのか?」


背が高く、灰色の髪をした男は流くらいだろう。用意していたSNSの動画を海音が流に見せる。


「あぁ、こいつ。あの酔っ払いか。この日は、こいつが俺にぶつかって来たんだよ。俺が道を譲ってやったのに。俺は何も話してねぇのに、ずっとぐちゃぐちゃ叫んでんだよ。」


何も心が揺さぶられないといった声で流が悪態をつく。


「ただ、こいつはそれ以外で会ったことは無ぇ。会いたくもねぇな。俺は、道で絡んできた酔っ払いの素性も名前も何も知らねぇよ。」


それ以外は本当に何も無いのか流は黙り込む。


「では次の5つ目の事件。これも流さんが第一発見者として調査にご協力くださいました。この時、流さんは会社で仕事をしていたとお話していましたが、会社に確認するとタイムカードは夜の18時に切られていたそうです。事件当日の事情聴取では深夜1時に帰宅するほど遅くまで休日出勤していたとお話していましたよね。なぜ嘘を?」


流の眉間に深いしわができる。


「タイムカードが切られてる?なにかの間違いじゃねぇのか?俺はずっと働かされてたぞ?」


抑揚がないのか、驚きが隠せていないのか判別つかない声色で流は続ける。


「他の日のデータはないのか?俺の残業の証拠は消えてんのか?」


椅子から立ち上がった流の勢いに少し驚きながらも楼は資料を確認する。


「他の日の情報について、今はお答えできませんが、情報は入手しているはずです。」


椅子に座り直した流は次の事件について口を開く。


「小倉山で加藤だっけか、こいつが殺されたのが最後の事件か?」

「はい。9月5日に小倉山で起こった殺人事件で、被害者は加藤勝市です。流さんのご実家のお隣さんとお聞きしました。この事件に関しては証拠がすでにあります。」

「実家の隣に住んでるのか?ただ、家族が5年前に引っ越してんだ。俺は新しい実家の近所付き合いはねぇから、その加藤とやらも知らないな。」


面識がないと説明する流の前に海音がノートパソコンを置く。


「これは事件直前の小倉山の麓の施設、殺人現場につながる唯一の道にあった防犯カメラの映像です。」


楼が説明する横で海音が動画を再生する。

画面には、顔こそは見えないが、流と同じ髪型の身長の高い男がナイフを持って歩いている姿が映る。


「いや、違う。これは俺じゃない。誰だよ。俺に罪をなすりつけようとしてんだろ。こんなものまで作りやがって。」


証拠はないと思っていたのか、流は存在しないはずの映像に驚いているようだ。


「流さん、これはあなたですね?」


楼は目をキラリと光らせて前のめりになる。


―コンコンコン

突如、取調室の扉がノックされる。入ってきた刑事に「天田さん。ちょっと」と、奏太が呼び出された。


「あぁ。2人ともすまない。ちょっと行ってくる。」

「えぇ。こっちは任せて。」


楼がそう言うと、海音は流に向き直った。


「で、あなたがやったんでしょ?さっさと自白してよ。これ以上無駄な時間をかけたくないんだけど?」

「そうはいってもな、俺はやってないんでね。冤罪なんてごめんだよ。」


睨み合う2人を楼は呆れながら眺める。2人の間には今にも火花が舞いそうだった。

同じようなやり取りをもう12回ほど聞いた頃、いきなり取調室の扉が開いた。


—バンッ

奏太が3人のところに走り戻ってきた。相当急いで来たようで、息が切れている。どこか焦っている様子が見られた。


「7つめの事件だ。大和ホームドームで警察官が殺された。犯人は、現行犯逮捕され、今署に連行されている。そいつは、一連の事件の容疑を認めているそうだ。つまり、百目鬼流は冤罪だ。」


バツが悪そうに言う奏太の言葉は、2人の予想の斜め上を行くものだった。


−−−−−−−−−−−−−−−−−−



「「は?」」

「は?、え?ちょっとまって。この人、犯人じゃないの?」


海音が頭に大量の疑問符を浮かべて聞く。


「だからいってんだろ。俺は犯人じゃないって。ただの不運な男だよ。」

「どんだけ運悪いのよ、あんた。」

「とにかく。百目鬼流、もう帰っていただいて構わない。他の者に自宅まで送らせよう。疑いをかけてすまなかった。事件への協力感謝する。」


奏太が2人の会話を遮るように言う。


「おうよ。まぁ、犯人が捕まったならそれに越したことはねぇよ。」


そういい、他の警察官に連れられて流は取調室を後にした。


「で、奏太。いったい犯人は誰だったわけ?」


海音が奏太に問いかける。楼は、自分の推理が外れたことが余程ショックだったのか、その場に立ち尽くしている。


「容疑者の名前は朔月 深月(さくづき みづき)だ。」


いきなりでてきた名前に、2人は固まる。先程まで心此処にあらずな状態だった楼も興味を取り戻したようだ。


「詳しく聞かせて。」

「今日大和(やまと)ホームドームで行われているイベントに署の一部署員が参加していた。そのうちの一人、倉本 暮羽41歳。捜査一課の警部補だ。朔月は背後から倉本(くらもと)警部補を鋭利なナイフで刺した後、近くの警官に取り押さえられた。」

「動機は?」

「まだだ。もう直ぐここにやってくる。聴取はここに来てから行うそうだ。立ち会ってくれて構わない。」

「わかった。ありがとう。」


気を取り戻したとはいえ本調子でない楼をみて海音は少し悲しげであった。


「んーもう、楼をこんな風にさせたやつ誰だよ〜!はやくでてこーい!!」


−−−−−−−−−−−−−−−−−−


数刻後、取調室では朔月深月を打ちのめそうとする海音とそれを抑える楼が朔月深月を見つめていた。


「さぁ、全て話してもらおうか。」


窓もない質素な空間の中、2人の男が机越しに見つめ合っていた。

朔月深月は、不敵な笑みを浮かべながら答えた。


「僕の大切な人を守るためにやった。僕の大切な人を傷つけるやつは許されない。存在してはいけないだろう?だからあいつらを殺してやった。すべては大切な人のためだ。」


朔月は推しを見るかのような目をしている。奏太が「大切な人?」と問うと、嬉しそうに答えた。


「あぁ。6人全員が大切な人を傷つけた。だからやった。単純明快。とても良い理由だろ?」


天田は『納得できない』、そう顔で語っている。顔をキラキラさせて語る朔月を見て、楼と海音も息を飲んだ。


「この場所を選んだ理由は?なぜ、函館の事件を模倣した?」

「10年前と同じ事件を起こせば、警察の疑いは10年前の奴らに向くと考えた。それに、この復讐の注目度も上がる。絶好の舞台だ。」

「6人?被害者は全部で7人のはずだが?」

「お母さんはお前ら警察に殺された。犯人が警視総監の娘だからって、お前らはこの事件を隠蔽しやがった。悪は罰せられるべきだ。だから市民の目の前で殺してやったのさ。いいショーだっただろう?」


朔月は声高らかに、とてもうれしそうに叫ぶ。その様子を見ていた楼はとても苦しそうだった。


「お前は単独犯だと言ったな。だが、ある第一発見者の自宅から犯行に使われたと見られる凶器が発見された。」

「あぁ、百目鬼流な。俺があいつの家に投げ入れたからな。あいつは不憫だよなぁ。何度も第一発見者になっちまうし、俺に証拠偽造されるし。あぁ。そうそう、俺は一回あいつの格好して山に行ったんだよ。あいつが疑われてるって聞いて。俺に捜査の目が向かないようにな。まぁ、いってしまえばただの時間稼ぎだよ。さっきの犯行のためな。」


朔月から笑顔が絶えることはなかった。楼は相変わらず苦しそうに顔をしかめている。


「楼。もう帰ろう。」


これ以上ここにいてはいけない。そう思った海音は楼をつれて取調室をあとにした。


「あ、そうだ。私用事があるの思い出した。ごめん!ばいばい、楼!」


署を出たところで、海音がいきなり言い出した。楼は「わかった。気をつけてね。」と答えると、2人は別の方向へと歩き出した。


−−−−−−−−−−−−−−−−−−


海音と別れた後、探偵事務所に一人帰ってきた楼は、頭を悩ませていた。

ずっと引っかかっていたなにか。その原因がもうすぐわかりそうだった。

頭を悩ませて30分もしないころ、静寂を破る楼の声が、探偵事務所に響き渡る。


「もしかして...。いや、そんなの嘘。私は絶対に信じない。とにかく、急がないと。」


楼はそう言い残すと、署に向かって走り出した。



「奏太、車!早く車出して!」

「え?なん…」

「はやく!」

「おう!」


楼は署につくなり奏太に向かって叫んだ。他の署員が驚く中、奏太が車のキーを取りに走り出す。


「で、どこに向かえばいい?」


−−−−−−−−−−−−−−−−−−


夕暮れ時。海に人気はなく、ただ一人だけが夕日に照らされていた。楼は浜辺に立ち、ただじっと海を見つめる人影に向かって駆け寄る。


「ねぇ。あなたはどう思う?札幌観光名所連続殺人事件。犯人は朔月深月。彼は最後の事件において現行犯で逮捕された。」


楼は人影の主に向かって淡々と話しかける。話しかけても、ただじっと海を見つめて動かない相手を気にすることなく続ける。


「朔月深月は自供していて、自分が犯人だと認めている。だけどね、何かがずっと引っかかってた。」

「1回目の事件だけ、朔月深月は関与していないんじゃないかって。」


影は、だんだんと海に近づいていく。


「でもね、私わかったんだ。ねぇあなたなんでしょ?大元音の事件は朔月深月の犯行じゃない。あなたは、朔月深月に罪をなすりつけた。朔月深月を裏で操っていたのは、あなたなんだよね?」


彼女は微笑みながら私のことを見つめた。太陽が沈みかけ、オレンジ色の空が広がっている。夕日に照らされる彼女は、とても眩しかった。

波音だけが静寂を包み込む。楼は顔を伝う水滴に知らないフリをして、ただ相手を見つめる。いつもなら簡単に言える言葉が、なぜか出てこない。


「海音」


波音にさらわれそうな声がたった一人、楼にとって唯一無二の相棒に向かってはなたれる。


「違うよって、何言ってんのって、言ってよ...。海音。」

「…」

「信じてたのにっ」


楼の言葉に、海音は顔をしかめる。涙ぐむ楼に海音は微笑みながら話しかけた。


「あぁ〜あ。やっぱり楼にはバレちゃうか。そうだよ、全部楼の言う通り。ぜーんぶ私が仕組んだこと。ごめんね、楼。悲しませちゃって。」


海音は、泣いている楼の横を通り過ぎて道路に止まっている車に向かって歩き出す。


「海瀬海音。署までご同行願います。」


車で待っていた天田奏太が海音に向かって言い放つ。この言葉にいつもの優しさは孕んでいなかった。


「もちろん。」


海音は奏太に向かって微笑みながら言った。

浜辺にあるたった一つの影が、夕日に照らされて輝いた涙を流しながら、その様子を見ていた。波音だけが永遠と響いている。

「ばいばい、楼。」そんな声が、聞こえた気がした。


−−−−−−−−−−−−−−−−−−


海で海音と別れてから2日たった頃、楼は海音に会うため署に来ていた。


「(まだ、何も聞けてない。)」


楼は、海音に聞きたいことがたくさんあった。ある程度の予想はついている。だけど、それでも、本人の口から聞きたかった。


「海瀬海音の面会に来ました。」

「少々お待ちください。」


署員にそう言われると、楼はソファーに腰を落とした。海音との思い出が頭によぎる。どれも楽しい思い出ばかりだった。それらを思い出すたびに、唯一無二の相棒がそばを離れてしまった現実を突きつけられる。

数分後、楼は署員に呼ばれた。


「申し訳ありません。海瀬海音は現在面会できないようです。」

「え...?…そう、ですか。わかりました。ありがとうございます。」


楼は困惑を隠すことができないまま、帰路につくこととなった。頬には一筋の涙が浮かんでいた。


−−−−−−−−−−−−−−−−−−


「あれ?今日は海音ちゃんいないのかい?」


水色とピンクの綺麗なグラデーションの髪をなびかせた少女が振り向き、悲しそうな顔を老婆に向ける。


「お姉ちゃん、スイカ美味しかった?また、困ったことあったらお姉ちゃんたち2人で助けに来てくれる?」


老婆の後ろから小さい男の子が現れる。


「どうだろう...?もう、会えないかもしれないな...。」

少女は、今にも泣きそうな声で言い去っていった。


—ガチャ

薄暗い部屋に一人、楼は泣き崩れていた。


「なんで、いなくなっちゃうのかなぁ...。あいたいよ...。」


刑務所に面会を申し込みに行くと、楼は海音に面会を断られた。きっと海音が会いたくないと言ったのだろう。もう、二度と会えないのかもしれない。そう思うたびに、楼は頬を濡らしていた。


—コンコンコン


「やっぱり。」


泣き崩れている楼を見て奏太が言う。


「チョコモナカアイス。冷凍庫に入れとくから、気が向いたら食べてくれ。」

「ありがと。ねぇ、海音なんて言ってた?もう、私に会いたくないのかな?」


楼が潤んだ瞳で奏太を見つめる。奏太は一瞬顔をしかめたが、すぐにいつもの笑顔を見せた。


「そんなことないんじゃないか。今は、体調が優れないんだとよ。」

「そっかぁ。」


今の彼女に本当のことを言ってしまったら、きっと後悔する。

心のなかで海音に謝りながら、楼の背中をさする。


「きっと、私のせいだ。私のせいで、海音は...。」

「自分のせいだなんて思わないほうがいい。きっと海音はそれを望んでない。」


あの日を思い出すような夕暮れ時。一人の少女が、一番星を眺めながら今はもう届かないその星に手を伸ばした。

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