赤ん坊を叱る赤ん坊
三芳さんに連れられ、大迫さんの待ついつものスペースへ戻った。それこそ今度は自分が赤ん坊のようだった。林田さんのことは言えないなと思う。デスクに戻るまでの数メートルの廊下が、まるでフルマラソンほどに長く感じる。
パソコンの前に座り、難しい顔をしていた大迫さんは、私の顔を見ると、いつもの機嫌のいい時の顔、にこやかな顔で迎えてくれた。
三芳さんが、「木内さんは、大迫さんに嫌われてるなんて言ってましたよ。」と笑顔で伝えたので、え!ちょっと、三芳さん、、と思ったけれど、すぐに大迫さんが、「嫌いだなんてことは絶対にないよ。俺は人の好き嫌いが全く無い人間なんだよ。誰も嫌いじゃないよ。木内が俺のこと嫌いなんじゃないの?」と、冗談めかして言ってくれた。つくづく自分は恵まれていると思った。会議室で会議中の隣のスペースでおしゃべりに夢中になり、怒られたからと30分近くも仕事中にトイレに籠り泣き続け、それで簡単に許されてしまった。
林田さんを自分の鬱憤晴らしの的にしてきた自分は社会人として失格かもしれないと反省したところで既に取り返しがつかない。
林田さんは、元々は商社の社員さんだったからか、同じフロアの商社マンたちとよく話をしていた。私は、不思議に思っていたが、林田さんは案外、顔が広いのだ。私は子供時代を東北で過ごし、関西には馴染みがなかった。認識の甘さから、人それぞれ事情があり、出身地によってもその人柄に与える影響が実に様々であることなど、その頃の経験の浅い私の知るところではなかった。
林田さんは、自分が思っていたよりも本当はデキる人なのかもしれない、と今更ながらも自分がいかに世間知らずで常識のない人間か、思い知らされた。
また転職した方がいいかなぁとしばらく悩むも、すぐに気を取り直す。いや、私は何のために転職したんだっけ。今度こそ、辞めないで続けて立派に独り立ちしなくっちゃ。




