表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

14/15

裁断された夢のゆくえ

「次よ、次の男を探せばいいのよ!」

狂ったように都留野さんの肩を揺さぶる三芳さんの声が、静まり返ったオフィスに虚しく響く。

都留野さんは虚ろな目で、自分が切り刻んだレシピや思い出の欠片が詰まったシュレッダーのゴミ箱を見つめていた。

私は、もう限界だった。

二人の女をここまで追い込み、都留野さんの幸せを粉々に砕いた「主犯」は、三芳さんでも、7階の冷酷な男でもない。私だ。

「……もう、やめてください」

私の声に、二人が同時に振り向く。私は震える足で彼女たちの前に立ち、都留野さんの瞳をじっと見つめて、喉の奥に仕えていた「毒」を吐き出した。


「都留野さん、ごめんなさい。私があなたに言った『峰不二子みたいな悪女になれる』なんて言葉……あれは、全部嘘。あなたにどうしてあんなことを言ったか、はね、」

都留野さんの眉が微かに動く。私は一気にまくしたてた。

「私は、あなたが羨ましかった。東京の短大を出て、キャリアを積んで、誰もが振り返るような女として生きたかった。でも、容姿に自信のない私には、そんな勇気はなかった。だから、理想通りの容姿を持つあなたに、私の『なりたかった姿』を押し付けたの」

三芳さんが息を呑むのがわかった。

「あなたに、クリームコロッケを揚げるような『普通の幸せ』を捨てさせたかった。私の代わりに、高いヒールを履いて、男たちを見下ろして、華やかな世界を歩いてほしかった。私は……あなたを、私のお人形にしたかっただけなのよ。あなたの幸せなんて、最初からどうでもよかった」

静寂と、シュレッダーの音

沈黙がオフィスを支配した。

都留野さんの頬を、一筋の涙が伝った。それは失った恋人への悔恨か、それとも信じていた「私」への絶望か。

「……そうだったんですね。私、三芳さんやあなたの言う通りにすれば、今の自分じゃない『特別な誰か』になれるんだって、信じてた」

都留野さんは、力なく笑った。そして、おもむろにシュレッダーのスイッチを入れた。

ガガガ……。

何も入っていない刃が、虚しく空気を噛み切る音が響く。

「でも、もう遅いわ。私の部屋には、もう彼も、キッチン道具も、何もない。あるのは、あなたたちが私に履かせた、この歩きにくい靴だけ」


都留野さんは、その場で高く、鋭いピンヒールを脱ぎ捨てた。

ストッキングのままの足で、彼女はゆっくりと出口へ向かった。三芳さんは崩れ落ち、自分の離婚調停の書類を握りしめて震えている。

私は、脱ぎ捨てられた靴を見つめていた。

それは、私が履きたかった夢の残骸。

彼女の人生をシュレッダーにかけ、粉々にしたのは、三芳さんの「泥沼の道連れ」と、私の「身勝手な願望」だった。

私たちは、誰とも接続コネクトできない。

オンラインを装いながら、結局は自分自身の孤独と欲望の中に閉じ込められた、「オフライン」な女たちなのだから。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ