裁断された夢のゆくえ
「次よ、次の男を探せばいいのよ!」
狂ったように都留野さんの肩を揺さぶる三芳さんの声が、静まり返ったオフィスに虚しく響く。
都留野さんは虚ろな目で、自分が切り刻んだレシピや思い出の欠片が詰まったシュレッダーのゴミ箱を見つめていた。
私は、もう限界だった。
二人の女をここまで追い込み、都留野さんの幸せを粉々に砕いた「主犯」は、三芳さんでも、7階の冷酷な男でもない。私だ。
「……もう、やめてください」
私の声に、二人が同時に振り向く。私は震える足で彼女たちの前に立ち、都留野さんの瞳をじっと見つめて、喉の奥に仕えていた「毒」を吐き出した。
「都留野さん、ごめんなさい。私があなたに言った『峰不二子みたいな悪女になれる』なんて言葉……あれは、全部嘘。あなたにどうしてあんなことを言ったか、はね、」
都留野さんの眉が微かに動く。私は一気にまくしたてた。
「私は、あなたが羨ましかった。東京の短大を出て、キャリアを積んで、誰もが振り返るような女として生きたかった。でも、容姿に自信のない私には、そんな勇気はなかった。だから、理想通りの容姿を持つあなたに、私の『なりたかった姿』を押し付けたの」
三芳さんが息を呑むのがわかった。
「あなたに、クリームコロッケを揚げるような『普通の幸せ』を捨てさせたかった。私の代わりに、高いヒールを履いて、男たちを見下ろして、華やかな世界を歩いてほしかった。私は……あなたを、私のお人形にしたかっただけなのよ。あなたの幸せなんて、最初からどうでもよかった」
静寂と、シュレッダーの音
沈黙がオフィスを支配した。
都留野さんの頬を、一筋の涙が伝った。それは失った恋人への悔恨か、それとも信じていた「私」への絶望か。
「……そうだったんですね。私、三芳さんやあなたの言う通りにすれば、今の自分じゃない『特別な誰か』になれるんだって、信じてた」
都留野さんは、力なく笑った。そして、おもむろにシュレッダーのスイッチを入れた。
ガガガ……。
何も入っていない刃が、虚しく空気を噛み切る音が響く。
「でも、もう遅いわ。私の部屋には、もう彼も、キッチン道具も、何もない。あるのは、あなたたちが私に履かせた、この歩きにくい靴だけ」
都留野さんは、その場で高く、鋭いピンヒールを脱ぎ捨てた。
ストッキングのままの足で、彼女はゆっくりと出口へ向かった。三芳さんは崩れ落ち、自分の離婚調停の書類を握りしめて震えている。
私は、脱ぎ捨てられた靴を見つめていた。
それは、私が履きたかった夢の残骸。
彼女の人生をシュレッダーにかけ、粉々にしたのは、三芳さんの「泥沼の道連れ」と、私の「身勝手な願望」だった。
私たちは、誰とも接続できない。
オンラインを装いながら、結局は自分自身の孤独と欲望の中に閉じ込められた、「オフライン」な女たちなのだから。
完




