表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
35/142

第35話 フードの下の顔

 白い影は、もう逃げなかった。

 追わなかったから。息を乱さなかったから。――こちらのほうが、落ち着いていたからだ。


 廊下の灯りの下で、影はゆっくりフードを外した。


「……っ」


 そこにいたのは、神官でも侍女でもない。

 宮廷医長ガレインのところで見たことのある、若い医療助手――いつも薬箱を抱えて、目を泳がせていた青年だった。


「あなた……」

 声が出ない私は、代わりに紙に書いて見せる。


『名前は? 怖がらせない。大丈夫』


 青年は唇を震わせて、かすれた声で答えた。

「……ソール、です……」


 皇帝カイゼルが一歩前に出た。けれど怒鳴らない。低い声で言う。

「ソール。誰にやらされた」

「……医長に……」

 その瞬間、ローガンの目が鋭くなった。フィンが息を呑む。


 ソールは両手をぎゅっと握って続けた。

「ぼくは……ただ言われた通りに……“香りを混ぜろ”って。喉が痛くなる粉……声が出なくなるって……」


 私は喉に手を当てて、ゆっくり頷く。

 やっぱり、私の声を奪ったのは“薬”のほうだ。


 私は紙に書く。


『どうして? 誰かが困るって分かってた?』


 ソールは涙をこぼしながら首を振った。

「……最初は、“陛下のため”だって……眠ると危ないからって……」

 ソールは顔を上げ、震える声で言った。

「でも、最近は違う。医長、笑うんです。“皇帝が眠れないほど、医者が必要になる”って……」


 胸の奥が冷たくなった。

 “必要にされるために、眠らせない”。それは守りじゃない。作った病気だ。


 皇帝の気配が、氷みたいに冷える。

 だけど私は皇帝の袖を軽くつまみ、“落ち着いて”の合図を送った。


 皇帝は一拍おいて、息を吐いた。――約束を守ってくれる。


「ソール」

 皇帝は目線を落として言う。

「もうやらなくていい。……話してくれたな」

「……っ」


 ソールの肩が崩れた。

 私は蜂蜜湯を差し出し、紙に書く。


『飲んで。息。ここは安全』


 ソールが小さく頷いて飲むと、喉の震えが少し落ち着いた。


 ローガンが低く言う。

「先生、医長の部屋、行くか」

 私は首を振って、紙に書いた。


『今は行かない。夜に動くと相手の得意。昼に、確かめる』


 皇帝が私の手をそっと握った。

 声は出ないのに、その温度が「分かった」と言ってくる。


 ソールが最後に、ぽつりと言った。

「……医長の机の引き出しに……鈴の金具……あります。高い音の……」


 私は息を吸って、ゆっくり吐いた。

 ようやく繋がった。高い鈴の“持ち主”へ。


 私は紙に一行だけ書いて、皇帝に見せる。


『明日、終わらせよう。眠りも、声も、渡さない』


 皇帝は短く頷いた。

「……ああ」

最後までお読みいただきありがとうございます。


『おもしろい』『続きが見たい』と思いましたら…

下にある☆☆☆☆☆から、作品への評価をお願いします。

面白かったら星5つ、正直な感想で構いません。

ブックマークもしていただけると嬉しいです。


よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ