表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/160

第2話 皇帝陛下も患者です

 その日のうちに、私は城塞の最上階へ呼び出された。

 通された執務室は、豪奢というより戦場の司令室だ。地図、報告書、封蝋、未処理の書類の山。――そして主は、窓辺で腕を組んでいた。


「お前が産業医を名乗った女か」

 皇帝カイゼル。噂通り冷たい声。だが私はまず観察する。目の下の影、浅い呼吸、肩の力み、指先の乾燥。……不眠と胃の不調、確定。


「はい。リュシアです。まず確認ですが、ここには医務室がありませんね?」

「必要ない。騎士はポーションで立つ」

「それで倒れてます。今、中庭で新人が低血糖で失神しかけました。ポーションは鎮痛剤の飲みすぎと同じ。誤魔化しは効いても、ツケが来ます」


 陛下の瞳がわずかに細くなる。

「反論は?」

「あります。――勤務表をください。出撃回数、負傷、離脱。数字で見ます」

「命令口調だな」

「医師は命令します。命を守るために」


 沈黙。紙の擦れる音だけがした。皇帝が机の引き出しから一通の書類を投げる。受け取った私は目を走らせ、思わず眉を上げた。

(交代制なし、休暇ゼロ、連続出撃……これ、労基に通報案件)


「明日から三つだけ即実施します。第一、ポーション台帳。誰がいつ何本飲んだか記録。第二、食堂に塩と水と糖を常備。第三、強制休養日。倒れる前に休ませます」

「戦力が落ちる」

「落ちません。休ませた方が稼働率が上がります。前世で実証済みです」


 皇帝は少しだけ口角を上げた。怖いほど薄い笑み。

「面白い。なら、私にも実証しろ」

「……はい?」

「私の健康も管理してほしい」


 独占欲、という言葉が頭をよぎる。だが私は医師だ。恋愛フラグより問診だ。

「睡眠は何時間ですか」

「三」

「胃痛は」

「たまに」

「頭痛は」

「毎日だ」


 私は深呼吸して告げた。

「陛下、あなたは患者です。今夜は就寝前の書類禁止。食事は抜かない。水を飲む。――守れなければ、私は診ません」

「脅しか」

「治療です」


 皇帝は私を見つめ、そして短く言った。

「……分かった。条件を飲む」


 机に、金の封印の命令書が置かれた。

『リュシア・アルノーをブラック騎士団産業医に任命する』

 そして、二行目。

『皇帝カイゼルの健康管理も同時に担うこと』


(え、兼務? ブラックすぎない?)


 私は笑顔を崩さず、内心で叫んだ。

「――まずは陛下、寝てください。残業は禁止です」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ