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第164話 「いいです」を減らす方法

 “いいです”が増えると危ない。

 昨日の私はそう思った。

 だから今日は、減らす。

 ……減らすはずだった。


 朝、医務室の前でフィンが両手を合わせた。

「先生、今日こそ“いいです”節約デー!」

「節約って言うな!」

 ローガンが咳払いで笑う。

「先生、節約は大事だな」

「大事じゃありません!」

 マルタが腕を組んで淡々と言った。

「大事。増えると危険」


 扉を開けると、カイゼルがいる。

 腕章『先生係』。ぴしっ。

 今日は紙も札もない。偉い。

 そして、低い声。


「確認していいか」

「……まだ朝です」

「朝でも確認する」

「何をですか」

「今日」

 カイゼルが一拍置く。

「隣にいていいか」


 朝から来た。

 私は心の中で机を叩いた。

(節約デーとは)


 私は息を吐いて、答えを“いいです”以外にすることにした。

「……歩幅を合わせるだけなら」

「分かった」

 許可じゃない。条件。私、えらい。


 診察開始。

「ここ。吐こう。長く」

 息が戻る。肩が落ちる。

 今日は静か。

 カイゼルも“歩幅だけ”を守っている……はず。


 午前の終わり。

 騎士が診察を終えて、出口で小さく言った。

「先生、今いいですか」

 確認の練習、定着してる。良い。


「いいよ」

 ……言った。

 いきなり言った。

 節約どこ行った。


 フィンが小声で囁く。

「先生、無意識で言ってる」

「言ってない!」

 ローガンの咳払いが笑いになる。

「言ってた」

 マルタが淡々と頷く。

「増殖」


 昼休み。

 私は自分を戒めるため、紙に書いて机に貼った。

『“いいです”禁止(自分用)』

 禁止って言った。自分で言った。矛盾。


 フィンが覗き込む。

「先生、禁止って言い方はやめろって陛下が」

「今その真似いらない!」


 午後。

 私は薬草の箱を棚へ運んでいた。

 重い。

 隣の気配が動きかけて止まる。

 カイゼルが我慢している。

 その我慢が、また私を困らせる。


「……陛下」

「頼め」

「命令しないでください」

「……頼む」

 柔らかい。反則。

 私は息を吐いて言い換えた。


「……手を貸してください」

 言えた。

 “いいです”じゃない。えらい。


「分かった」

 箱が軽くなる。

 その直後、カイゼルが低く言った。


「確認していいか」

「今はだめです」

 ――言えた!

 “いいです”じゃない拒否!

 私、えらい!


 フィンが扉の向こうで「おお…」と声にならない声を出した気がする。

 ローガンの咳払いが祝砲みたい。

 マルタが淡々と頷く。

「進歩」


 ……ところが。


 カイゼルは真顔で、でも静かに頷いた。

「分かった」

 素直に引いた。

 引かれた瞬間、なぜか胸がちくっとした。

 ちくっ、が最悪。


(拒否したのに、寂しいって何)


 私は慌てて息を吐いた。長く。戻れ。

 そして、取り返すように言ってしまった。


「……あとでなら」

 言った。

 確定の音がした。

(やめて私!)


 カイゼルの目が、ほんの少しだけ柔らかくなる。

「了解」

「軍隊みたいに返事しないで!」


 夕方。

 診察を終えた廊下で、カイゼルが静かに待っていた。

「確認していいか」

「……何を」

「今」

 低い声。

「あとで、の回収」


 回収って言わないでほしいのに、回収された。

 私は長く息を吐いて、負けを認めるみたいに言った。


「……今なら」

 “いいです”は言わない。節約。

「少しだけ」


 減らす方法を探したのに、増えたのは“あとで”だった。

 そして私は今日も、確定の音に弱いままだった。

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