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第151話 隣にいろ、の副作用

「……頼む。今日は、隣にいろ」

 昨日のカイゼルの言葉は、夜の間ずっと残っていた。

 残っているのに、重くない。

 でも――朝になると、別の問題が出る。


 副作用。

 “隣にいろ”が、砦の合言葉みたいになっている。


 医務室へ向かう廊下で、フィンが腕をぶんぶん振って追いついた。

「先生! 聞いた! 陛下、頼んだんだって!」

「声を落として!」

「でもさ、“隣にいろ”って」

「言うな!」

「もう言っちゃった」

「言うなって!」


 ローガンが遠くで咳払いをした。

「先生、砦、今日ざわつくぞ」

「ざわつかないでください!」

 マルタが腕を組んで淡々と言った。

「ざわつく。今日の空気、軽い」

「軽くしないでください!」


 医務室の扉を開ける。

 ……視線。

 壁際の騎士たちが、なぜか整列している。

 全員、真顔で、口を閉じている。

 なのに目が言っている。


(隣)

(隣)

(隣)


「やめて!」

 私が思わず言うと、全員が一斉に息を吐いた。

 条件反射が強い。やめて。


 そこへ静かな足音。

 カイゼルが入ってくる。腕章『先生係』。今日もぴしっ。

 でも今日は、どこか眠そう……いや、落ち着いている。


「おはよう」

「おはようございます」

 私は先に釘を刺す。

「今日、その言葉は禁止」

「禁止という言い方はやめろ」

「じゃあ、控えてください!」

「控える」

 即答。素直。怖い。


 診察開始。

「ここ。吐こう。長く」

 息が戻る。肩が落ちる。

 ……順調。

 カイゼルも静か。紙も札もない。珍しく本当に控えている。


 と思ったら、患者が帰り際にぽつり。

「先生、俺も……隣にいてほしい人、います」


 私は固まった。

 フィンが「いい流れ」と顔で言い、ローガンが咳払いで笑いを噛み殺し、マルタが淡々と頷いた。

「良い」


 ……良い?

 いや、良いのか。

 隣にいてほしいって言えるのは、戻ってる証拠。


「それ、言えたのは偉い」

 私は思わず言った。

 しまった。褒め言葉配布に近い。

 でも患者の顔がほどけた。ならいい。


 カイゼルが窓の近くで目だけで「はい」をしていた。

 静かな返事。

 ……助かる。


 昼休み。

 私は水を飲みながら、小声でカイゼルに言った。

「陛下、昨日の“頼む”……嬉しかったです」

 言った瞬間、何言ってるんだ私。

 頬が熱くなる。


 カイゼルは一拍置いて、声を落とした。

「言ったのは、私だ」

「はい」

「なら、返事をするのも私だ」

「返事?」

「……お前が隣にいると、戻る」

「戻るのはいいことです」

「だから、頼む」


 また頼む。

 また副作用が増える。

 砦の噂が増える。

 私の心臓が忙しくなる。


 でも――

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