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第145話 “毎日”は重い

「お前には、毎日言う」

 昨日のカイゼルの宣言は、医務室の空気に残ったままだった。

 残ってる。重い。甘い。逃げたい。


 朝、扉を開ける前に私は深呼吸した。

(今日は平常運転。診察。吐く。長く。以上)

 ……そう思ったのに、扉を開けた瞬間、もう終わった。


 カイゼルがいる。

 腕章『先生係』。姿勢ぴしっ。顔はいつも通り。

 そして手に――小さな札。


『本日分』


「……陛下」

「ここだ」

「それ、なんですか」

「毎日分だ」

「札にしないでください!」

「忘れないため」

「忘れなくていいです!」


 フィンが後ろで肩を震わせた。

「先生、陛下、毎日って言ったの本気」

「本気にしないで!」


 ローガンが咳払いで笑いを隠す。

「先生、受け取れ。捨ててもまた出る」

「捨てません!」


 マルタが腕を組んで淡々と言った。

「先生、“毎日”は重い。調整しろ」

「調整って言わないでください!」


 診察開始。

 私は白いリボンを揺らす。

「ここ。吐こう。長く」

 騎士が息を吐き、肩が落ちる。

 ……今日は何も起きない。起きないぞ。


 帰り際、騎士が紙をちらっと見て言った。

「先生、陛下、毎日褒めるんですか」

「褒めません!」

 私が即答すると、窓の近くから低い声が落ちた。


「褒める」

「褒めない!」

「褒める」

「やめてください!」

「必要だ」


 私は額を押さえた。

 患者の前で言わないで、って言う前に、もう言ってる。

 でも今日は禁止しないって決めた日じゃない。今日は通常。私は通常。


 昼休み。

 私は廊下にカイゼルを引っ張り出した。

「陛下、“毎日”は重いです」

「重いなら、軽くする」

「軽くできるんですか」

「できる」

「じゃあどうやって」

「短く」

「短くって」

「一言」


 カイゼルが札を私の目の前に出す。

『よく』

 そこで止まる。真顔。

「……続きは?」

「短い」

「短すぎます!」

「お前は分かる」

「分かりません!」


 フィンが遠くから小声で叫ぶ。

「先生、陛下、“よく”だけで褒めてる!」

「実況しないで!」


 ローガンが咳払いでぼそっと言う。

「先生、陛下の語彙が省エネになってきたな」

「省エネって言わないでください!」


 私は深く息を吐いて、交渉をまとめた。

「分かりました。毎日じゃなくて……“必要な日”にしてください」

「必要な日は毎日だ」

「そういう意味じゃありません!」

「……では」

 カイゼルが一拍置いて言う。

「お前が疲れた日にする」

「それは……」

 言い返せなかった。

 疲れた日。確かに、言われたら戻る気がする。悔しい。


「じゃあ、その条件なら」

 私が小さく言うと、カイゼルの口元が少しだけ緩む。

 返事が顔に出る。反則。


「了解」

「軍隊みたいに返事しないで!」

「了解」


 その日の夕方。

 診察が終わって、私は机に突っ伏してしまった。

 ほんの少し、疲れた。

 外套の影が近づく気配。


「……今日は疲れたか」

「少し」

 答えた瞬間、しまったと思った。

 条件を満たしてしまった。


 カイゼルが低い声で、一言だけ落とす。

「よく」


 短い。

 短いのに、胸の奥にすっと入る。

 私は息を吐いて、小さく返した。

「……ありがとうございます」


 “毎日”は重い。

 でも、“疲れた日に一言”は――ずるいくらい効く。

最後までお読みいただきありがとうございます。


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