第123話 皇帝の取り分問題
食堂のテーブルがぎゅうぎゅうに埋まって、湯気と笑いがふわっと広がった。
スープの匂い、焼きたてのパンの匂い。
……いい。ここまで来るのに、妙に苦労したけど。
「先生、パン、いる?」
フィンが大きな籠を差し出す。
「ありがとう」
私は手を伸ばした――その瞬間。
隣から、低い声が落ちた。
「取ってやる」
「自分で取れます」
「取る」
「取らないでください!」
「取る」
ローガンが咳払いで笑いを隠す。
「先生、“取る取らない”で戦うな」
「戦ってません!」
「戦ってる」
マルタが即答した。
カイゼルは真顔のまま、パンを一つ取って、私の皿にそっと置いた。
丁寧。優しい。……でも、なんか圧がある。
「ありがとうございます……」
「当然だ」
そこで、向かいの騎士がぽつりと言った。
「陛下、先生の皿、守りすぎじゃないですか」
言った瞬間、周囲の騎士たちが一斉に咳払いを始めた。
やめて、咳の大合唱。
カイゼルは瞬き一つせず言った。
「守っている」
「認めた!」
フィンが小声で叫び、マルタに睨まれて黙る。
私は額を押さえた。
「陛下、守らなくて大丈夫です。ここは食堂です」
「食堂でも守る」
「なんで!」
「お前が落ち着く」
「落ち着きません!」
ローガンがパンをちぎりながらぼそっと言う。
「先生、落ち着いてないのは陛下のせいだろ」
「その通りです!」
「なら、医師として処置しろ」
「どう処置するんですか!」
マルタが淡々と提案した。
「皇帝の取り分を減らす」
「取り分?」
私が首を傾げると、マルタはカイゼルの皿を指さした。
そこには、パンが一つ。スープが一杯。
普通。
……普通なのに、カイゼルの手が私の皿へばかり伸びてくる。
「陛下、自分の食べてください」




