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第121話 「皆で」のはずが

 食堂に向かう廊下で、フィンが小走りしながら振り返った。

「先生、今日の献立、成功する?」

「成功って何」

「先生が笑うかどうか」

「それは献立の責任じゃない!」


 ローガンが後ろで咳払いをしながら言う。

「先生、陛下の機嫌も見とけよ」

「機嫌?」

「“皆で”って言われた瞬間の顔」

「……見ました」


 見た。眉がちょっとだけ寄って、黙って、でも目は私から離れない。

 あれは機嫌というより――分かりやすすぎる拗ね。


 食堂の扉を開けた瞬間、空気が変わった。

 やけに整っている。

 やけに静か。

 そして、やけに視線が集まる。


 長いテーブルの上に、パンとスープ。湯気。いい匂い。

 その中央に――席が、三つだけ用意されていた。


「……皆で?」

 私が呟くより先に、マルタが低い声を出す。

「誰が“皆”を三人に減らした」


 フィンが固まって、ゆっくり手を挙げた。

「俺、皆でって言ったから、全員分作った」

「なら席は?」

「……分からない。朝来たら、こうなってた」


 ローガンが視線を動かす。

「犯人、分かりやすいな」


 扉が静かに開いた。

 カイゼルが入ってくる。いつもの顔。いつもの足音。

 ……そして、当たり前みたいに私の椅子を引いた。


「どうぞ」

「どうぞ、じゃないです」

 私は椅子と席数を指差した。

「皆で、って言いましたよね」


「皆だ」

 カイゼルが真顔で言う。

「私、お前、そして――」

 そこで視線がマルタに向く。

「監督」


 マルタが眉ひとつ動かさず返した。

「監督って何」

「止め役だ」

「勝手に役職を作るな」

「必要だ」


 フィンが小声で言う。

「先生、陛下、真面目に独占しようとしてる」

「声に出さないで!」


 ローガンが咳払いで笑いを隠しながら、椅子を逆向きにして座った。

「じゃあ俺は何だ」

 カイゼルが即答する。

「警告」

「役職ひどいな」

「適任だ」

「褒めてねぇだろそれ!」


 私は息を吐いて、席の後ろを覗き込んだ。

 壁際に、小さな椅子がずらっと並んでいる。

 端っこに、ぎゅうぎゅうの騎士たち。

 全員、こっそり観察している顔。


「……皆、いるじゃないですか」

 私が言うと、騎士たちが一斉に目を逸らした。

 逃げる練習は上手い。観察は下手。


 カイゼルが淡々と言う。

「見学だ」

「見学って何!」

「お前が笑う日だ。確認する」

「確認しないでください!」


 マルタがスープを一口飲んで、冷たく言った。

「先生、これ、止める?」

 私は喉に手を当てて息を吐いた。

 止めたい。恥ずかしい。

 でも、みんなが楽しそうなのも事実で……悔しい。


「……一つだけ条件」

 私が言うと、全員が耳を澄ませた。

 カイゼルの目も、逃げない。


「席を増やす」

 私はきっぱり言った。

「“皆”を三人にしない。全員、同じテーブルに座る」


 フィンがぱっと顔を輝かせる。

「いいの!? 先生!」

 ローガンが咳払いをして、笑いそうな声で言う。

「陛下、先生の勝ちだな」

 マルタが頷く。

「正しい。独占は医務室の外でやれ」


 カイゼルは一拍置いてから、私をまっすぐ見た。

「……分かった」

 即答。

 でも、声を落として付け足す。


「ただし、隣は私だ」

「それも皆です!」

「隣は私だ」

「聞いてない!」

「聞け」

「命令みたいに言わないで!」


 そのやりとりを見て、壁際の騎士たちから小さな笑いが漏れた。

 スープの湯気が揺れる。

 私も、つられて息を吐いて――少しだけ笑ってしまった。


 “皆で”のはずが、なぜか席取り合戦。

 でも、こういう騒がしさなら悪くない。

 戻る合図は、笑いの中でもちゃんと増えていく。

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