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第105話 皇帝の笑い方、反則

 午後の診察がひと段落したころ、医務室の廊下がやけに静かになった。

 静か、というより――耳を澄ませている。


「……聞こえる?」

 フィンが小声で言う。

「何が」

「陛下の“コツン”がない」


 私は思わず窓の方を見る。

 窓の外の光の中で、カイゼルがいつもの位置に立っていた。見えにくい位置。けれど、確かにいる。

 そして――今日も、目で返事している。律儀に。


「……合格、って言ったから、頑張ってる」

 私がぽつりと言うと、ローガンが肩を震わせた。

「先生、褒めたら伸びるタイプだな。皇帝が」

「やめてください!」


 そこへ、次の騎士が入ってくる。

 いつもより若い。強面だけど、落ち着かない視線。帽子を握りしめて、座る前に一度だけ廊下を見る。


「……皇帝がいるって、聞いて」

 小さな声。

「緊張する?」

 私が聞くと、騎士はこくりと頷いた。

「……怖いっていうか、変に背筋が」


「大丈夫」

 私は白いリボンを揺らす。ひらり。

「ここは、戻る場所。吐こう。長く」


 騎士が息を吐いた瞬間、窓の外でカイゼルがほんの少し頷いた。

 それを騎士が見てしまい、目を丸くする。


「……今、陛下……」

「気にしないで」

 私は必死に真面目な顔を作る。

「空の鳥を見てるだけです」


 騎士は「そうか……」と納得しかけて、また窓を見る。

 カイゼルがまた頷く。

 ……頷きすぎ。


 診察を終えて騎士が出ていくと、廊下にローガンの咳払いが響いた。

「先生、鳥、頷きすぎだぞ」

「言わないで!」


 夕方、私は廊下に出て、窓際のカイゼルの前に立った。

 今日はちゃんと、作戦通り。偉い。

 ……偉いんだけど。


「陛下」

「ここだ」

 返事が即座に来る。目はまっすぐ。


「頷きすぎです」

「返事だ」

「返事は、私が揺れたときだけにしてください」

「揺れていないのか」

「揺れてません!」

「……嘘だ」


 カイゼルが低く言って、私の頬を指先でそっとなぞった。触れ方が軽いのに、心臓が跳ねる。

 私は慌てて一歩下がり、咳払いした。


「みんなの前では、少しだけ!」

 言った瞬間、しまったと思う。

 “少しだけ”の合図を、私が自分で言ってしまった。


 カイゼルの口元が、ほんの少しだけ緩んだ。

 あの、反則の笑い方。


「……なら、今は少し」

 そう言って、カイゼルは私の手を取る。指を絡める。ほどけない返事。

 そして、耳元に落とす。


「二人きりのときは、少しでは済まない」


 私は真っ赤になって、言葉が出なくなる。

 代わりに息を吐く。長く。戻るために……じゃない。落ち着くために。


「……陛下、ずるいです」

「お前が教えた」

 さらっと言う。


 私はもう負けて、笑ってしまった。

 皇帝の笑い方は反則だ。

 それだけで、今日の疲れがほどけていく。

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