第103話 診察室の外の作戦会議
昼休みが終わる直前、医務室の隅に“作戦会議”が開かれた。
参加者は、ローガン、フィン、マルタ。そして――私。
「議題」
マルタが腕を組んで言う。
「皇帝の甘さが、診察の邪魔にならないようにする」
「邪魔じゃないです!」
私は反射で言い返して、すぐ言い直す。
「……邪魔、ではないけど、患者さんが固まる」
ローガンが頷く。
「そりゃ固まる。皇帝だぞ。しかも先生にだけ甘い皇帝だ」
フィンが手を挙げる。
「提案! 陛下には“ここ”の合図だけにしてもらう!」
「どうやって」
マルタが冷たい目で聞く。
「……紙に書いて渡すとか」
「陛下がそんな面倒なことする?」
ローガンが鼻で笑う。
「やる。先生のためなら」
私は頭を抱えた。
それが一番やばい。止まらない。
「じゃあ、別案」
マルタが淡々と言う。
「診察室の外に“皇帝待機場所”を作る。離れすぎず、近すぎず、見えすぎず」
「見えすぎず、って何」
ローガンが言って、フィンが真剣に頷く。
「目に入っただけで患者が直立する」
私は小さく息を吐いた。
「……陛下が“壁になる”って言ってました」
三人が一斉に天井を見た。
「言ったのか」
「言った」
「言いそう」
「言う」
ちょうどそのとき、扉が静かに開いた。
カイゼルが入ってくる。会議の空気を一瞬で変える人。
「何をしている」
低い声。
私は背筋を伸ばし、正直に言った。
「陛下の甘さ対策です」
フィンが咳払いして、勇気を出す。
「陛下、お願いがあります!」
「言え」
「診察室では、先生の声を邪魔しないでください!」
「邪魔していない」
「してないけど、存在が強いです!」
「……分かった」
分かった!?
全員が目を見開く。
カイゼルは私を見て、声を落とした。
「お前が望むなら、控える」
ずるい。そんな言い方、会議いらないじゃないか。
マルタが勝ち誇った顔で頷く。
「じゃあ決定。陛下は診察室の外、窓の近くに立つ。患者からは見えにくい位置」
「分かった」
カイゼルが即答する。
「だが」
全員が身構える。
「お前が揺れたら、入る」
私の指が、反射で首もとの印に触れる。
ローガンが深いため息。
「結局それか」
フィンが耳まで赤い。
マルタは腕を組み直して言った。
「それでいい。先生が揺れたら、医療より先に迎えが必要だ」
私は小さく息を吐いて、苦笑した。
「……分かりました。揺れたら、呼びます」
「呼べ」
カイゼルは短く言い、私の指を絡めた。返事。ここだ。
会議は解散。
患者が呼ばれる。
私は白いリボンを揺らし、窓を少し開けて、いつもの声を出す。
「ここ。吐こう。長く」
診察室の外、窓の近くに立つ影が、見えない位置で返事をしている。
――控えるのに、離れない。
それがいちばん、ずるかった。




