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異世界転生サッカー これがサッカーなのか・・・?  作者: 南蛇井


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人生で一番ダサい称号

翌朝――。

 まだ全身が筋肉痛でうめき声を上げている俺の横で、ローナルドは酒瓶を片手にぶっきらぼうに言った。

「おい翔真、お前……何歳だ?」

「……え、十四ですけど」

「……は?」

 ローナルドの目が細くなる。

 次の瞬間、盛大に頭を抱えた。

「バカかお前! 義務教育真っ最中じゃねぇか! サッカー以前にまず学校だろうが!」

「え、いや……でも俺、召喚されて……」

「知らん! 中坊は学校行け! これはこの世界でも一緒だ!」

 有無を言わせぬ勢いで、俺はローナルドに引きずられるようにして山を下りた。

 向かう先は村の中心にあるという「王立セントラル中等学舎」。

 ……しかし。

「おーい! こいつを入学させろ!」

 ローナルドが門前に立ち、酒瓶片手に大声を上げる。

 その吐き出す息は完全に酒臭く、門番たちは顔をしかめた。

「お客様、飲酒者の立ち入りは禁止です。お帰りを」

「はぁ!? 教育の義務だぞ!? 俺が責任持って――」

「酒くせぇんだよ!!」

 ローナルドはそのまま、門番二人がかりで押し戻された。

 残された俺は門前で途方に暮れる。

 そんな俺の横で、ピンクの小太り妖精サッキーが羽をぱたぱたさせて腕を組んだ。

「はぁ……やっぱりこうなると思ったよ」

 そう言うやいなや、どこからか羽ペンと書類を取り出す。

 手際よく文字を走らせ、封蝋まで勝手につけると――

「はいこれ、入学手続き完了っと」

 門番がそれを受け取るなり、態度を変えた。

「……ふむ、サッカー召喚枠ですか。特例入学、承認しました。どうぞお入りください」

「へっ?」

 俺はぽかんと口を開ける。

 サッキーはニヤリと笑った。

「この世界じゃ、異能サッカー関係者はなんでも特別扱いだからな。お前、義務教育ついでに“異能サッカー中学部”に入れられたってわけさ」

「……はぁ!?」

 俺の異世界での新生活は――結局また、サッカーから逃れられないものになったのだった。

「学校に入ったはいいが――」

 中庭のベンチに腰を下ろした俺は、まだ現実を受け止めきれていなかった。

 そこへローナルドが、昼間から酒臭い匂いを漂わせながらやってくる。

「翔真、サッカーするんなら“職業”を持て」

「……職業?」

「そうだ。この世界じゃ、サッカーに参加するには職業スキルを持ってるのが当たり前だ。前線は戦士系、後方は魔導士系、中盤は支援系……役割が決まってんだよ」

 さらっと言ってるけど、それってもはやサッカーじゃないだろ。

「俺、別にサッカーやるつもり……」

「ブーブー! 却下! サッカーやらなきゃ帰れねえんだろ?」

 ぐうの音も出ない。

 ローナルドは勝手に話を進める。

「で、お前の武器は?」

「武器って……ボール蹴るしか……あえて言うなら、スピード……かな」

「スピードねぇ」

 ローナルドはじろっと俺を見て、急にニヤリと笑った。

「よし決まり! 盗賊だ!」

「はぁ!?」

「盗賊は足が速ぇ。カウンターで抜け出すにはうってつけだ。あと泥棒スキルは相手のドリブルを奪うのにも使える。お前にはぴったりだ!」

「俺、泥棒なんてやらねーよ!」

「やるんだよ。さぁ行くぞ」

 有無を言わせず腕をつかまれ、俺はそのまま町外れの石造りの建物へと連れて行かれる。

 そこには――『盗賊ギルド』と彫られた、物騒すぎる看板が掲げられていた。

「ちょ、ちょっと待て! 本当にここで職業決めるのか!?」

「当たり前だ。盗賊に登録してこそ一人前のサッカー選手よ」

 ……この異世界サッカー、やっぱりどう考えても狂ってる。

 ギルドの扉を押し開けると、中は思った以上に活気づいていた。

 薄暗い空間に、屈強そうな連中が酒をあおり、カード賭博をし、盗品らしきガラクタを物々交換している。

「……うわぁ。治安の墓場だな、ここ」

「ようこそ、盗賊ギルドへ!」

 出迎えた声は意外にも明るかった。

 カウンターに立っていたのは、腰まで伸びた黒髪をまとめた――どちらかと言えば、普通の町娘風の女性だった。

 つぶらな瞳に愛想の良い笑顔。まるでパン屋の看板娘。

 ……いや、なんで盗賊ギルドの受付がこんなにかわいいんだよ!?

 思わず二度見して固まる俺をよそに、ローナルドがドンとカウンターを叩く。

「新人登録だ。こいつを盗賊にしてくれ」

「はい、かしこまりま――って、おや?」

 女性は俺をちらっと見て、手元の書類をめくりながら小首をかしげた。

「……申し訳ありません。この子、まだ未成年ですね」

「え?」

「盗賊ギルドでは未経験では“盗賊”として登録できません。未経験者は――“盗人ぬすっと”からのスタートとなります」

「ぬ、ぬすっと!?」

 俺は思わず叫んだ。

 盗人って……語感が最悪だろ! ただの犯罪者じゃん!

「だ、大丈夫。盗人はあくまで見習い職ですから」

 受付の彼女はにっこり微笑む。

 だが俺にはその笑顔が「かわいそうに、ゴミのような称号だね」と言っているようにしか聞こえなかった。

「おいおい、よかったな翔真。“盗人”からのデビューだ!」

 ローナルドは腹を抱えて笑っている。

「よくねぇよ! 俺、サッカーしに来たんだぞ!? なんで初仕事が万引きデビューなんだよ!」

「細けぇことは気にすんな。盗人だろうが盗賊だろうが、ボール蹴れりゃ同じだ」

 ……俺の異世界キャリア、最悪の肩書きから始まった。

登録は書類にサインするだけで終わり――なんて甘いものじゃなかった。

「さぁ、儀式を始めるぞォ!」

 ローナルドの一声で、ギルドの中がざわつく。

 気づけば俺は、場末の居酒屋みたいな木のテーブルを片づけた広場に連れ出されていた。

 周囲を取り囲むのは、いかにも“盗賊です”といったガラの悪い連中。

 革鎧にボロマント、片目に眼帯。ナイフを研ぎながらニヤニヤ笑ってる奴までいる。

「おい新入り! 震えてんじゃねぇぞ!」

「盗人の門出だ! 泣いても笑っても逃がさねぇ!」

 やばい。ビビらない方が無理だ。

 次の瞬間――

「♪盗め!奪え!隠れろよぉ~」

「♪影に生きて影に死ぬぅ~」

 囲んだ盗賊たちが、肩を組みながら妙にノリのいい歌を合唱し始めた。

 ……なんだこの場末感全開の応援歌!?

「おまえらマジで歌うのかよ!!」

 ツッコむ暇もなく、輪の中央に立たされる俺。

 やがて、受付の女性がすっと前に出て、手にした短剣を俺の背中に軽く当てた。

 すると――

 じゅわっ、と熱を帯びる感覚。

「いっ……!」

 思わず声を漏らした俺の背に、光の文字が浮かび上がる。

 それはくっきりと――【盗人】。

「これにて登録の儀は完了だ!」

 どっと沸き上がる歓声と笑い声。

 肩を組んだ盗賊たちはビールジョッキを掲げ、さらに歌声を響かせる。

 ……俺はその輪の中で、ひとり項垂れた。

「盗人って……俺、人生で一番ダサい称号背負わされてるんじゃないのか……」

 背中の熱と羞恥心が、ずっしりのしかかってくる。

 異世界デビューは、最高に不名誉な形で幕を開けた。

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