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異世界転生サッカー これがサッカーなのか・・・?  作者: 南蛇井


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見せてみろよ。口だけじゃねぇってところをな

「……不可能に近い」

 サッキーの言葉が頭の奥で反響していた。

 翔真は拳を握りしめる。

(不可能って……でも、俺は……)

 脳裏に、先ほどの地獄のような試合がよぎった。

 雷撃。影縫い。剣や魔法が飛び交う異能サッカー。

 あんな反則みたいなルールで、どう戦えっていうんだ。

 ――けど。

(それでも……やるしかないんだ。俺には、それしか残されてないんだ!)

 ぐらぐらと揺れる心を、無理やり押さえ込むように翔真は顔を上げた。

 そんな彼を見て、サッキーは小太りの腹を揺らしながらケラケラと笑った。

「はっ、いい根性してんな。まあ、どうせ行くところなんてないんだろ?」

「……っ」

 図星だった。

 この異世界で、頼れる仲間なんていない。帰る場所もない。背中を押されるように翔真はうなずく。

「よし決まりだな。じゃ、とりあえず村長の家にでも行くか。腹減ってるだろ?」

 そう言ってサッキーは、翔真の頭の上をひょいひょい飛び回る。

 翔真は深く息を吐いた。

(……何だこれ。全部夢であってほしい。でも――)

 足は自然と前へ進んでいた。

 見知らぬ田舎道を歩きながら、翔真は小さな決意を胸に刻んでいた。

サッキーに案内され、翔真は村の中心にある大きな家の前に立った。

 木造りだが立派な屋根に、広い庭。どうやらここが村長の家らしい。

「ここが村長の家だ。とりあえず頼んでみようぜ」

 サッキーは気楽な調子で扉を叩いた。

 やがて、腰の曲がった白髪の老人が出てきた。

「なんじゃ、サッキーか……って、なんじゃこやつは?」

「新しく拾ったサッカー野郎だ。泊めてやってくれよ」

 すると村長の目が、一瞬で険しく細まった。

「……サッカー、とな」

 翔真はゴクリと唾を飲む。嫌な予感がした。

 村長は杖を地面に突き立て、わざとらしく顔をしかめる。

「わしはサッカーをする奴が嫌いじゃ! 野球をする奴は好きだがな! ましてや“ハズレ”じゃろう?」

「は、はぁ!? なんでここで野球!?」

 思わず翔真が声を上げるが、村長の拒否反応は止まらなかった。

 杖を振り回しながら、村長は全力で首を横に振る。

「断る! 断るぞ! サッカーはサッカーのところに行け! ……村の外れの山奥におる、あの酔っぱらいのところにな! あやつもサッカー野郎じゃろ!」

 ぴしゃりと扉が閉められた。

「……」

 翔真は呆然と立ち尽くした。

 サッキーは深いため息をつく。

「……ったく、だから嫌だったんだよ。村長は昔から“野球原理主義者”なんだ。しょうがねぇ、行くぞ。酔っぱらいのジジイんとこへ」

 サッキーは嫌々と羽をばたつかせながら、翔真を村の外れへと導き始めた。

 翔真は肩を落としながらも歩き出す。

(……なんなんだよ、この世界……)



北へと続く道を歩きながら、ふと俺は気になっていた疑問を口にした。

「なあサッキー。村長...野球って言ってたけど...?」

「おう。“棒切でボールを打つスポーツ”だな。ほら、あそこでやってるやつだ」

サッキーが指差す方向を見た俺は、思わず目を疑った。

そこには、まるで野球のような光景が広がっていたのだ。

ピッチャーが投げる。

バッターが豪快に打つ。

打球が飛び、走者が一塁へ駆ける。

──ここまではいい。問題は、その次だ。

走者はバットを手にしたまま、一塁ベースに待ち構えるファーストに迫り……そのままフルスイングで殴りつけた。

「ええっ!? それ野球じゃない!! ただの乱闘だろ!?」

俺の叫びに対し、サッキーは眉一つ動かさず答える。

「ん? 普通だろ? 野球の一番盛り上がるところだ」

「盛り上がるとかじゃなくて殺伐すぎるわ!!」

サッカーで死にかけるわ、野球で殴り合うわ……。

この世界のスポーツ文化、どう考えてもおかしい。

異世界は想像以上に“命懸け”だった。




 村を出てから、すでにかなりの時間が経っていた。

 翔真は汗をぬぐいながら、ガタガタの山道をひたすら歩く。

「なぁ……サッキー。酔っぱらいの家まで、どれくらいなんだ?」

 息を切らしながら問いかけると、サッキーは軽やかに羽ばたきながら鼻歌を歌っている。

「だいたい徒歩で三十分くらいかなぁ〜」

「……三十分? もう一時間は歩いてるぞ!?」

 思わず声を荒げると、サッキーは悪びれる様子もなく振り返った。

「おぉ、いいペースだな。ちなみに、今で半分くらいだ」

「……はぁぁぁ!?」

 翔真は思わずその場にへたり込みそうになる。

 足は棒のようになり、靴の中は蒸れて不快感が増していく。

 それでもサッキーはひょうひょうと飛び続けるだけだ。

「だ〜から言っただろ、山奥って。普通に考えて、村の酔っぱらいを隔離するなら奥地に住まわせるに決まってんじゃん?」

「隔離って……そんなやつに、俺を押しつけようとしてんのかよ……」

 翔真は心底うんざりした顔で空を見上げた。

 雲ひとつない青空が広がっている。

 だがその下で、彼の気力はどんどん削られていった。

(……くそ、なんで俺、こんな異世界の山道を歩いてんだ……)

山道をさらに登り続け、ようやくたどり着いたのは――木材を適当に組んだだけのような小さな小屋だった。

 壁はひび割れ、屋根は一部抜け落ち、煙突からは煙ひとつ上がっていない。まるで廃屋だ。

「……ここが、その酔っぱらいの家?」

 翔真は思わず眉をひそめる。

「そうそう。ここにいるはずなんだがなぁ……」

 サッキーはためらいもなく扉に飛びつき、両手でドンドンと叩いた。

「おーい! ローナルド! 起きろー! 死んでねーだろなー!」

 返事はない。

 翔真は首をかしげた。

「……いないんじゃないか?」

「いや、酒くせぇ。絶対いる」

 サッキーはそう言うと、なんの遠慮もなく取っ手を押し下げ、ガチャリと扉を開け放った。

「おいおい……勝手に入るのかよ……」

 翔真は思わず躊躇して、扉の外で立ち尽くす。

 そのとき――鼻をつくアルコール臭が、ぶわっと漂ってきた。

 恐る恐る中を覗き込むと、散乱した酒瓶の山、その真ん中で――。

 髪はボサボサ、髭は伸び放題、片手に酒瓶を握ったまま、床に大の字で転がっているおじさんがいた。

「……マジかよ……これが、俺の“受け入れ先”……?」

 翔真は頭を抱えたくなる。

 だが、サッキーはケラケラと笑いながら叫んだ。

「おい、ローナルド! サッカー野郎を拾ってきたぞ! 起きろ、元・伝説のストライカーさんよ!」

「……んごぉ……むにゃ……」

 床に転がっていた大男が、サッキーに腹をドスドス蹴られてようやく目を開けた。

「いってぇなぁ……誰だ、朝っぱらから俺の二日酔いにケンカ売る奴は……」

 よろよろと上体を起こし、酒瓶をあおってから乱暴に床へ投げる。

 ガシャン、と瓶が砕け、アルコール臭がさらに濃く漂った。

「ローナルド! 起きろ! サッカーだ! サッカーだぞ!」

 サッキーがわざと大声で叫ぶ。

「……サッカー、だと?」

 眠たげだったローナルドの瞳が、一瞬ぎらりと光った。

 それはほんの数秒。すぐに彼の目は冷めきった氷のように沈む。

 サッキーは翔真を前に押し出すようにして言った。

「こいつ、新入りだ。名前は新澤翔真。まぁ、見ての通りハズレだけどな」

 翔真は突然前に出され、思わず背筋を伸ばす。

「お、おれは――」

 しかしローナルドは、翔真の顔を一瞥しただけで、ふっと鼻で笑った。

「……なんだ、ただのガキか」

「……え?」

 ローナルドは立ち上がり、髪をかき上げながら小屋の奥へ歩いていく。

「こんなサッカー不毛の地にまで……わざわざ“ハズレ”を捨てに来るとはな。ご苦労なこった」

 吐き捨てるように言い残すと、また新しい酒瓶を手に取る。

 翔真の胸に、チクリと鋭い棘が刺さった。

「……ハズレ、か」

 この世界に来てから何度目だろう、その言葉を浴びせられたのは。

 翔真は奥歯を噛みしめた。

 ──そうだよ、俺が“ハズレ”なんてこと、そんなの誰よりもわかってる。

「でも……! 俺の力を、まだ見てもいないじゃないですか!」

 思わず声が張り上がった。

 酔っぱらいローナルドは半眼でこちらを見ていたが、その目にわずかな光が差す。

「ほぉ?」

 短く吐き出した声。次の瞬間、彼は乱暴に立ち上がり、酒瓶を床に置くと腕を組んだ。

「そんなに言うなら……見せてみろよ。口だけじゃねぇってところをな」

 サッキーが「おー、やるやる!」と面白がって両手を叩く。翔真は息を整え、拳を握った。

 ローナルドは小屋を出ると、無造作にボールを拾い上げ、手の甲でぽんと弾ませた。

 長年の使い込みで表面がすっかり擦れたサッカーボール。翔真の胸にそれが投げ渡される。

「外に出ろ。話はそれからだ」


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