お前ら、今が踏ん張りどころだぞ
ローマリオはいつものように酒をちびちびやりながら、ふにゃっとこっちを見た。酔っぱらいのくせに、たまに妙に核心をつくことを言うから困る。
「おい、お前ら――レターティオがなんで真っ先にトマーティオを挑発したと思ってんだ?」
ローマリオの問いは、酒の香りに混じって妙に重く響いた。
ザグが首をかしげる。
「兄弟仲が悪いからじゃねえのか?」
リオーナは鼻で笑う。
「性格が悪いからよ。あんなの二人とも性格に問題あるわ」
俺は正直に言った。
「いや……両方だと思う。仲が悪くて、性格も悪い。合わさって最強にウザいタイプだ」
ローマリオはその意見を一度だけ小さく頷いた。
「お前らの言ってることは間違ってはいない」
なんだよ、それ否定しないのかよ。俺たちはちょっと拍子抜けする。ローマリオが否定しないって珍しい。珍しいどころか、今まで否定されてきた気がするが気のせいだ。
ローマリオは瓶を置き、真面目な顔になった。酒が怖いほど似合っている。
「だがな、今大事なのはそこじゃねえ」
こめかみに一本しわを寄せて言う。
「レターティオにとって、一番嫌なものは何か――それを考えろ」
その言葉に、俺の頭の中でピンが弾けたように何かが繋がる。
(そっか……)
レターティオは真っ先にトマーティオを挑発した。封印までさせた。つまり、トマーティオそのものが、レターティオにとって相当の“トリガー”なんだ。嫌悪の対象、あるいは存在そのものが面倒の根源。
「あいつは、トマーティオを嫌ってる。封印してでも排除したかった――ってことか」
俺が言うと、リオーナが小さく息をついた。
「そうね……まっさきにトマーティオを封じに来たってことは、それほど兄さん(トマーティオ)を嫌がっているのよ」
彼女の声には、戦術家としての冷静さが混ざっている。
「なら……」俺は拳を握った。
「トマーティオを復活させられれば、レターティオの精神的な支えを崩せるかもしれない。あいつの作戦の核を揺るがせば、動揺を与えられるはずだ」
ザグが歯を食いしばる。
「頭を取り返すってのは、ただの感情じゃねえな……戦術にもなるってわけか」
リオーナは少しだけため息をつき、でも顔には戦う意思が満ちていた。
「仕方がないわね。正直言えば、あのままトマーティオが死んでくれてたら平和で良かったんだけど……今は戦術的な意味もあるってわけね。頭、取り返しましょう」
そのセリフに、俺は涙が出そうなくらい救われる気がした。勝つためにやる、ってのは分かる。でも、仲間のためにやるって言われると、腹に力が入る。
ローマリオがニヤリと笑った。
「よし、なら後半は二本立てだ。まずは頭の回収。次にレターティオの動揺を誘って戦線を崩す。お前ら、今が踏ん張りどころだぞ」
俺は深呼吸して、瞳に決意を灯す。
(よし……取り返す。頭も、プライドも、試合の流れも。全部、取り返してやるんだ。)




