ここからは俺が止める番だ
いよいよ練習試合が始まった。
相手は――レイモンドジュニアハイスクール。
並んだメンバー表を見て、俺は思わず心の中で叫んだ。
(な、なんだこの編成……!)
FWに盗賊2人+忍者。
MFに戦士2人、魔法使い、僧侶。
DFにネクロマンサーってお前、どこでライセンス取ってきたんだよ!?
こっちはいつもの布陣。リオーナとトマーティオのツートップ。
そして俺は――サイドバック。忍者になって初めての実戦デビュー戦だ。
(必ず力を見せつけてやる! 俺は今日から忍者サイドバック!)
トマーティオはと言えば、腕を組んでフンと鼻で笑っていた。
「勝利は確定だ。俺がいるからな」
……この人、勝つ前提しか考えたことないよな。
笛が鳴る。キックオフ!
ボールはレイモンドのピスケ(忍者)からハザン(戦士)へ渡り、そのままドリブル開始!
そして――レターティオが中指を立ててトマーティオを挑発した。
「兄さぁん、また封印されたいんですかぁ?」
その瞬間。
「なにぃ……!? 貴様ァ!!」
トマーティオが杖を構えた。
「爆光雷撃弾――《神の怒り(ゴッド・レイジ)》!!」
「待て待て待てーーーっ!!!」
俺の声なんて届くわけもなく。
レイモンドの選手たちはレターティオの指示で一斉に散開!
なんとコートの外へ全員が逃げ出した!?
おい待て。試合中だぞ? ボール持ってるのお前らだろ!?
ていうか爆裂魔法ぶっ放すサッカーに付き合う気ゼロじゃねえか!!
トマーティオが呪文を放った、その一瞬――。
「……っは?」
背後から忍者のピスケがスッと忍び寄り、光る刃を一閃。
次の瞬間――トマーティオの首と胴が、きれいに分かれていた。
「ぎゃああああああああああっ!!」
俺たちは全員絶叫した。サッカーグラウンドで見ていい光景じゃない。
いや、これレッドカードどころの話じゃねえだろ!?
レターティオは勝ち誇ったように叫ぶ。
「やっぱり油断しましたね、兄さん! 大魔法のあとなんて隙だらけですよ!」
「兄さんが首もげた状態でドヤ顔してんじゃねぇ!!」
俺は慌てて声を張り上げる。
「トマーティオを回収しろ! 救護班! すぐに回復だ!」
魔法で蘇生できる世界だからって、毎回こんなノリで殺すなよな……。
ところがその時、敵FWのタカイがトマーティオの胴体をヒョイと担ぎ上げた。
そして自陣へ走り出す。
「……おい、なんだと!? 何をする気だ!?」
まさか――サッカーボールの代わりにトマーティオをゴールにぶち込むつもりじゃ……!?
(いやいやいやいや……やるのか!? 本当にやるのか!?)
タカイがトマーティオの死体を運んでいくのを見て、リオーナが声を荒げた。
「しまった! ネクロマンサーよ! ゾラを潰して!」
リオーナがすぐさま呪文を詠唱。
「――【雷光弾】!」
雷の矢が一直線に走る。しかし――。
ゾラの隣にいたラードが、すかさず魔法障壁を展開した。
「【マジックバリア】!」
バチンッ!と弾かれる雷光。
リオーナが舌打ちする。
「チッ、防がれた……!」
そして次の瞬間――ゾラの呪文が完成した。
トマーティオの死体がガクンと震え……。
ゆらり、と立ち上がる。
しかも右手に自分の生首をぶら下げたままで。
「ひいっ……完全にホラーじゃん!!」
俺、心臓止まるかと思った。マジで怖い。
あのトマーティオがホラー映画のゾンビ主人公みたいになってるとか、笑えねえ。
リオーナが顔をしかめる。
「くそっ……トマーティオはネクロマンサーの支配下……やられたわ」
俺は震える声でツッコミを入れるしかなかった。
「やられたわ、じゃなくて! もうこれ試合どころじゃないよな!? どう見てもR指定ホラーシーンだろこれ!」
ゾンビ化したトマーティオが、よろよろと立ち上がり呪文を唱え始めた。
その瞬間、ザグが一直線に駆け込み――
「どりゃあああっ!!」
豪快な飛び蹴りで、トマーティオの頭をサッカーボールみたいに蹴り飛ばした。頭部は宙を弧を描いて、遠くの地面にごろごろ転がっていく。
「ナイスキックよ、ザグ!」
リオーナがすかさず声を上げた。「今のうちに体だけでも回収するわ!」
すると、トマーティオの頭を拾い上げたのは――レターティオだった。
「ちっ……ほんと、役に立たない兄さんですね」
そう吐き捨てるように言いながら、転がる頭を抱え込む。
「でも復活はさせませんよ。この頭は僕がもらった」
うわ……弟の冷酷さがマジでやばい。兄貴扱いが完全に荷物じゃねーか。
「翔真!」
リオーナが俺を振り向いた。
「トマーティオ抜きで攻めるわよ! あんた、FWにポジションチェンジして!」
「なっ、俺がFW!?」
心の準備もないまま、最前線に呼び出される俺。
でもリオーナの目は本気だ。迷ってる暇なんてない――ここからが勝負だ。
「よっしゃ……! 久しぶりのFW復帰だ」
俺は胸の奥が熱くなるのを感じていた。ずっと待ってた瞬間だ。
「決めてやる。だって今日は――俺の忍者デビューだからな!」
……うん、言っててちょっと恥ずかしい。けど今は勢いだ。
フィールドの向こう、レターティオが冷ややかに笑う。
「兄さん――トマーティオさえいなければ、残りは雑魚です」
「なっ……!」
その一言に、リオーナの眉がピクリと跳ね上がった。
「なめないでよ!!」
怒りの声とともに、彼女が詠唱を叩きつける。
――《光玉連撃豪雨》!!
眩い閃光が無数に生まれ、雨のようにレイモンドイレブンに降り注いだ。
フィールドが昼間みたいに白く染まり、敵の防御を切り裂いていく。
「甘いな!」
ラードが咆哮し、厚いマジックバリアを展開する。光の雨は弾かれ、爆ぜる火花が辺りを照らした。
レターティオが涼しい顔で続ける。
「リオーナさん、あなたの魔法は確かに速い。スキもない。
……でもね、軽いんですよ」
そう言って呪文を唱え、ピスケに光をまとわせる。魔法耐性がぐんと跳ね上がったのが、見ていて分かった。
「突破するぞぉおおッ!」
次の瞬間、ハザンが光の雨をかいくぐり、力ずくでドリブル突破を仕掛けてきた。
くそっ……! ここからは俺が止める番だ!




