MAX!!MAX!!MAX!!
翌日から俺たちは練習に明け暮れていた。
あの野球婆さんとの死闘以来、なぜかトマーティオとリオーナの間に友情っぽいものが芽生えている。
理由は簡単。――二人とも野球が嫌いだからだ。
まさかスポーツへの嫌悪感が友情を取り持つとは……。世界広しといえど、こんなケースなかなかないだろ。
俺はボールを蹴りながら、ひとり考え込んでいた。
(……俺に足りないものって、なんなんだ? スキルなのか、技術なのか、それとも……カロリー?)
そんな俺の様子を見て、トマーティオがニヤリと笑う。
「まあ才能のないFランク一般庶民なんだからよ、悩んでもしょうがねぇだろ。俺との差を感じて落ち込むのはわかるけど……お前はお前のやれることをやればいい」
いや、めっちゃ上から言われたんですけど!?
しかも“才能のない”をさらっと付け足すな!
続けてリオーナが肩をすくめる。
「まあ、気持ち悪いことに野球の才能はあるのに、サッカーは……ねえ」
フォローどころか追い打ちじゃねーか!? 何この人たち!
「お前らさぁ……フォローとかアドバイスとか、なんかないのか?」
俺が抗議すると、ザグが豪快に笑った。
「お前は細けぇこと気にしすぎだ! 楽しくやろうぜ!」
……うん。全員あてにならない。
俺はため息をつきながら、最後の望みをかけてローナルドのところへ向かった。
「ローナルドさん、ちょっと相談が……」
するとローナルドは、すでに酒瓶を片手に上機嫌。
「おお~翔真かぁ。悩んでるのかぁ? ん~いいねぇ、青春だねぇ……ふわぁ~っとやればいいんだよぉ……」
ふわぁ~っとってなんだよ!?
俺は真剣に悩んでんだぞ!?
このチーム、大丈夫かほんと……。
俺は決断した。
(ダメだ……! このチーム、誰もあてにならない!)
ローナルドは酒くさいアドバイスしかくれないし、リオーナとトマーティオはフォローのフの字も知らない。ザグは「楽しくやろうぜ」で全部解決すると思ってる。
こうなったら……ギルドに行くしかない!
俺は部活を抜け出し、街の外れにある――盗賊ギルドへ。
扉を開けると、相変わらず荒くれ者たちでいっぱいだ。
「おう、どうした坊主?」と、筋肉の塊みたいな盗賊が声をかけてくる。
「いや、その……サッカーで伸び悩んでて、新しい盗賊スキルとか覚えられないかなって……」
俺が真剣に相談すると、盗賊のおっさんは「ん?」と眉をひそめたあと、ニヤリと笑った。
「ちょっと来い」
背中をドンと押され、部屋の隅っこへ連れていかれる。なんか嫌な予感がする……。
おっさんは腕を組みながら、深刻そうに言った。
「……あー、あれだな。もうお前、限界だな」
「……え?」
限界? 俺、もう限界? いやいや、まだ成長期だし、伸び盛りのはずなんだけど!?
俺の絶望をよそに、盗賊は続ける。
「でもな……」
グッと親指を立てて、ドンと俺の肩を叩いた。
「お前……もう盗賊スキル、MAXだぞ!」
その瞬間、ギルドの盗賊たちが一斉に盛り上がった。
「MAXだァァ!!」「うおおおお!!」「MAXの男きたーー!!」
……いや、なんでそんな大騒ぎ?
俺の心は愕然どころか混乱でいっぱいだった。
「MAX!!MAX!!MAX!!」
ギルド中に響き渡る大合唱。
気がつけば、俺――翔真は盗賊たちに担ぎ上げられていた。
「ちょっ、待って!? うわっ! やめろって! 落とすなよ!!」
俺は怯えながら、宙を舞う。盗賊たちが笑顔で胴上げしてくる。
なんだこれ、卒業式?いや違うだろ!?
その中の一人が高らかに叫んだ。
「ついに卒業の時が来たな!! 盗賊卒業の時が!!」
「……卒業?」
俺は思わず聞き返した。
「ああそうだ! いつまでもこんなところで遊んでる場合じゃねぇぜ!」
「いやいやいや、待ってくれ。俺、遊んでねぇし! 真剣にサッカーやってんだけど!?」
すると別の盗賊が、酒瓶を片手に俺を指差しながら叫ぶ。
「小僧ォ!! お前はもう――上級職へ転職だ!!」
……え、転職!?
俺、サッカー選手目指してたんだけど!?
「上級職って……なに?」
俺は胴上げから解放され、床に尻もちをつきながら聞いた。
盗賊の一人がドヤ顔で答える。
「盗賊がいける上級職は、忍者かレンジャーだ! だがサッカーすんなら忍者がいいんじゃねえか?」
「に、忍者……!?」
俺は思わずごくりと唾を飲んだ。
「ど、どうやったら……どうやったら忍者に……?」
盗賊は親指で後ろを指差す。
「決まってんだろ! 忍の里だ! 忍の里に行け!!」
「……忍の里?」
俺が聞き返すと、盗賊は胸を張って言い放った。
「隣だ!! 隣の家が忍の里だ!! すぐに行って来い!!」
「近っ!!」
俺は全力でツッコんだ。
「いやいやいや、隣って……! しかも“里”じゃなくて、どう見てもただの一軒家だろ!? あれ忍者の“家”じゃん!!」
盗賊たちは真顔でうなずく。
「そういうもんだ」
「納得できるかーーー!!」




