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異世界転生サッカー これがサッカーなのか・・・?  作者: 南蛇井


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俺の炎まで酒臭くなってんじゃねぇか!!

不穏で、重い。だがそれは同時に、試合という舞台の匂いでもある。

 刃を研ぎ、鞘に収めた剣たちが、いままさに抜かれることを待っている──そんな空気。

 ホイッスルが高く鳴った。準決勝、始まる。

ホイッスルが鋭く鳴り響いた。

 同時にボールはトマーティオの足へ。開始直後から、彼はまるで当然のようにゲームを支配する構えを見せる。

「――【疾風双撃斬】ッ!」

 ゼノが吠え、剣を振るう。二閃、三閃、風を裂く斬撃が稲妻のように襲いかかる。凄まじい速度、まるで目が追いつかない。

 だが、トマーティオは――笑っていた。

 身をひねり、半歩ずつ滑らせるだけで、ゼノの連撃をことごとく避けていく。斬撃が空を切るたびに観客席からどよめきがあがった。

「ちっ……!」

 ゼノの顔が焦りに染まる。

 その背後で、さらに不穏な動き。

 トナリーナジュニアのブルー、ザガン、ジーノ、ジェロ――魔法使いの系譜を持つ四人が同時に詠唱を始めた。

 彼らが縦に並び、杖を掲げると、間を結ぶように光の帯が走る。

「……光の道?」

 俺は思わず息を呑んだ。嫌な予感が胸を締めつける。

 だがトマーティオはゼノの斬撃を避けながら、余裕すら見せて呪文を口にしはじめた。

「同時に攻撃すればなんとかなるとでも思ったか……? 甘すぎるな」

 炎と風の揺らぎが、彼の足元に魔法陣を描く。

「俺を舐めすぎだ……!」

 その声は自信に満ち、どこか狂気さえ含んでいた。

 俺の背筋を冷たいものが走る。胸の奥で――悪い予感が警鐘のように鳴り響いていた。

トマーティオの呪文が完成し、彼の全身を炎が包み込んだ。

 燃え盛るその姿は、まるで歩く火炎そのもの。ゼノの斬撃すら熱気に押され、容易に近づけない。

「……これで終わりだ!」

 勝ち誇るように叫んだトマーティオの頭上へ、ひとつの影が落ちた。

 ――カラン。

 忍者・ゼンの手から投げられた小さな箱が、空中で光を帯びながらトマーティオの真上に落ちてくる。

「今だ!! やれッ!!」

 ゼンの声が響く。

 すかさず、トナリーナの魔法使い四人――ブルー、ザガン、ジーノ、ジェロが同時に詠唱を重ねた。

「――【封魔固硬箱】!」

 次の瞬間、箱が不気味な音を立てて真っ二つに割れる。

 上下に裂けたそれは、巨大な板のように広がり、トマーティオを上下から挟み込もうと迫った。

「なめるなァ!!」

 炎が爆ぜた。トマーティオの体を包んでいた炎はさらに膨張し、燃え盛る業火となって辺りを覆い尽くす。

 凄まじい熱気がグラウンドを揺らし、俺は思わず腕で顔をかばった。

 しかし――

 ゴウッ!

 その炎ごと、トマーティオは封魔箱に呑み込まれていった。

 上下から挟み込む光の板が、彼を完全に閉じ込めるようにカチリと閉じる。

「……う、そだろ……?」

 愕然とした声が、チームの誰かの口から漏れる。

 俺も言葉を失っていた。炎を纏う怪物じみたトマーティオが……あの箱に、閉じ込められた……!?

 胸を締めつける悪寒が、試合会場全体を支配していた。

ドスンッ、と鈍い音を立てて、封魔箱はフィールドの真ん中に転がった。

 中に閉じ込められているのは――もちろんトマーティオだ。

「ふざけてんじゃねぇぞ! この程度の箱なんざ――!」

 箱の中から怒声が響く。すぐに呪文の詠唱が続くが……何も起きない。

 トマーティオの声が途切れ、低く唸った。

「……くそっ!! 発動しねぇ!」

 トナリーナの選手たちは冷ややかな笑みを浮かべる。ブルーが鼻で笑った。

「無駄だよ。その【封魔固硬箱】からは絶対に出られない。試合が終わるまで大人しくしてな。」

 観客席がどよめいたそのとき、ベンチから怒鳴り声が響き渡った。

「くそっ、しまった! お前ら、その箱をこっちに投げろォ!!」

 ローナルド監督だ。

「――了解ッ!」

 リオーナが素早く駆け寄り、箱を抱え上げて思い切りベンチに向かって投げる。

「ナイスだリオーナ!」

 ローナルドは軽やかにそれをキャッチすると、脇に抱え――なぜか酒瓶を取り出した。

「監督、まさか……!」

 俺が思わず声を上げる。

 次の瞬間、バリーン!と酒瓶を振り下ろし、封魔箱をぶん殴った。

 ガラスが砕け、芳醇な香りが辺りに広がる。箱の表面は酒にまみれ、滴る液体が地面を濡らしていく。

 しかし――箱はびくともしない。

「……開かねぇのかよ!」

 ローナルドが歯ぎしりしながら叫ぶ。

 中からくぐもった声がした。

「うわっ……!? な、何だ急に!? 酒くせぇぞ!! 俺の炎まで酒臭くなってんじゃねぇか!!」

 酒まみれのトマーティオの叫びに、俺たちは思わず顔を見合わせてしまった。

 味方も敵も関係なく、フィールドには困惑と失笑が漂っていた。

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