世界がキラキラと色を乱反射している
後半が始まった。
俺はベンチで交代を告げたものの、胸の奥はざわざわして落ち着かない。……本当に大丈夫か? トマーティオなんかに任せて。
そんな俺の不安をよそに、試合は再開する。
ソーダスジュニアのシンが素早くドリブルで駆け上がり、ゴールを狙って一直線に突っ込んできた。
「行かせるかよ」
低く呟いたトマーティオが、前線へと歩み出る。
「――《火炎槍蒼》」
詠唱と同時に、空気を裂いて炎の槍が飛び出した。轟音と共に赤い光がシンを包み込みそうになる。
「なっ!?」
シンは慌てて身をひねり、かろうじてかわす。だが、その動きは無理があり、体勢は完全に崩れていた。
次の瞬間――。
「もらった」
トマーティオはあっさりとシンの足元からボールをかすめ取り、そのままスッと前へ運んでいく。
……嘘だろ。
俺の中の不安が、一瞬で驚きに変わった。
トマーティオは迷いなく前へと駆け出した。
「【火炎走撃蹴脚】!」
彼の足元から炎が噴き上がる。瞬間、ボールに触れるたびに火花が散り、芝を焦がしながら疾走していった。
「な、なんだあれは!?」
ソーダスジュニアのドーズとギブが慌てて立ちはだかる。
だが、次の瞬間――。
ゴォッ!!
炎をまとったトマーティオの脚が二人を薙ぎ払うようにすり抜けた。ドーズは地面に尻もちをつき、ギブはバランスを崩して倒れ込む。
「……独壇場だな」
俺は思わず唾を飲み込む。圧倒的すぎる突破力に、チームプレーなんて必要ないんじゃないかと思えてくる。……でも、それじゃ駄目だ。俺たちは“チーム”で勝たなくちゃいけないんだ。
その不安が胸をよぎった瞬間、ソーダスジュニアのディフェンス陣が一斉にトマーティオを囲みにかかる。
さすがにこれ以上は無理だろ――そう思った矢先。
「ふん、そっちに任せたぜ」
トマーティオが放ったのは、炎の残滓を纏うスルーパスだった。
「えっ……パス!?」
俺は思わず声を上げる。
そのボールの先には、駆け上がっていたリオーナの姿があった。
リオーナは迷いなく走り込み、トマーティオのスルーパスを受けた。
「【雷光爆裂弾】!!」
振り抜かれた瞬間、ボールは雷をまとい、稲光の矢のようにゴールへと突き刺さっていく。
眩い閃光――ゴォンッ!!
キーパーは一歩も動けなかった。ただ呆然と、その雷光を目で追うしかない。
「ゴォォォール!!!」
スタンドが揺れる。
これは間違いなく、俺たち全員の力で奪った得点だ。
パスを選んだトマーティオ。走り込んだリオーナ。そして、それを支えたみんな。
……トマーティオが、本当に俺たちのチームメイトになった瞬間だった。
「やったぞ!!」
ザグやリオーナ、仲間たちが歓喜の声を上げながらトマーティオに駆け寄る。
しかし当の本人は、ふてぶてしい笑みを浮かべると――
「まあ、凡人にしてはよく決めたかな?」
「なんだと!?」
ザグの怒号が響く。
周りは笑って盛り上がるけど……俺だけは胸の奥に小さな影を感じていた。
(ほんとに、大丈夫かよ……先行き不安しかないんだけど)
試合終了の笛が鳴り響いた。
「――よっしゃあああ!!!」
ザグの雄叫びがグラウンドに響き渡る。
テイコウイレブン、勝利!!
みんなが互いに抱き合い、喜びを分かち合う。リオーナも笑顔でハイタッチを交わし、トマーティオでさえ鼻で笑いながらも、ほんの少しだけ口角を上げていた。
……けど、俺は浮かれきれなかった。
(勝ったのは嬉しいけど……この目、虹色のままなんだよな)
視界の中で、世界がキラキラと色を乱反射している。綺麗っちゃ綺麗だけど、どう考えても正常じゃない。
(大丈夫か、俺……)
そんな時だった。
「――あーっ!!」
ローナルドの悲鳴が響いた。
「どうした!?」「何があった!?」
俺たちは慌ててローナルドのもとへ駆け寄る。
ローナルドは手にした小瓶をまじまじと見つめ、青ざめた顔で裏の説明書きを指差した。
「す、すまん!! この目薬……! 目を虹色にするだけで、他に効果が何もない目薬だった!!」
「……は?」
頭の中が真っ白になる。
「なんだよそれ!! なんでそんなもんあんだよ!!」
俺は叫んだ。
勝利の余韻に包まれたグラウンドに、俺のツッコミが虚しく響いた。




