だから妖怪じゃないってば
俺は病院の診察室に飛び込むなり、机を叩いた。
「おいジジイ!! なんだこの目!! 花が咲いて前が見えねえんだよ!! ちょっと見づらいんだよ!!」
ヨボヨボ医者は、何も動じずにひげを撫でながらニコニコ。
「なんじゃ、怖いって言うから可愛くしてやったのに」
「可愛くってなんだよ!! 人の目から芽を出して花咲かせるとか、どんなアレンジだよ!? 俺は観葉植物じゃねえ!!」
老人は「まあまあ」と言いながら、今度はまた新しい目薬を差し出してきた。
俺は嫌な予感を覚えつつも、しぶしぶ帰り道で目薬をさす。
……次の瞬間、俺の目からビームが放たれた。
「ぎゃああああ!!? ちょっ、なにこれ!? レーザー出てるんだけど!!」
ちょうど目の前にいたザグが直撃。
「ぐはっ!!」
そのまま即死判定でぶっ倒れた。
「おおおおいザグううう!!!」
慌ててリオーナが蘇生魔法をかけ、なんとか復活。
「……翔真、お前の存在のほうがよっぽど敵より怖いぞ」
「俺だって怖ええよ!! なんで目薬さすたびに別の呪眼発動するんだよ!!」
光線が出たり、視線だけで物が割れたり、邪眼オーラで犬に吠えられたり。とにかくまともな目にはならなかった。
最終的に――俺は諦めた。
「……もういい。俺は“緑の目の妖怪人間”として生きていく……」
誰も慰めてはくれなかった。
けれどその夜、俺は布団の中で小さくつぶやく。
「……スキルって、やっぱり怖えな。頼りすぎちゃダメだ……」
目の奥に残るかすかな熱を感じながら、俺は深く反省するのだった。
地区予選四回戦。相手は――ソーダスジュニアハイスクール。
フォーメーションは3-4-3。前回地区予選準優勝という、名実ともに強豪校だ。
FWにはシス、バス、ナーフと三人の戦士。
MFには盗賊のシンとブーン、僧侶のドーズ、モンクのギブ。
そして守備にはヤマ、ハナ、ハラという魔法使いトリオに、戦士のピグモ。
どう見てもバランスが取れていて穴がない。
対する俺たちテイコウは、リオーナと俺のツートップ。
……もちろん、トマーティオは相変わらずベンチで「ふん」と鼻で笑いながら見学中。
「強敵だな……」
ザグが真剣な表情を浮かべる。
でも、なんだかおかしい。試合開始前から、ソーダスジュニアのベンチがざわついていた。
「な、なんか見てるだけでゾッとするんだけど……」
「うそだろ、もう妖怪出てんじゃね?」
「おい、あれ……目、光ってねえか?」
……いや、光ってないよ。今は普通だからな!?
審判の笛が鳴り、試合開始。俺はボールを受け取り、ドリブルを始める。
前回の反省を踏まえ、いきなりスキルを使うのはやめた。あくまで冷静に、落ち着いて――
――その瞬間。
「ひぃいいいいっ!! 妖怪だあああ!!」
ソーダスジュニアの選手たちが、まるでゴキブリを見た女子みたいに叫びながら後ずさった。
「え、ちょ……なんで!? 俺まだ何もしてないよ!? スキルすら使ってないのに!?」
ドリブルで近づいただけで、相手は蜘蛛の子を散らすように逃げ惑う。
リオーナが顔を真っ赤にして叫ぶ。
「翔真っ!! あんた完全に妖怪扱いされてるわよ!!」
俺は頭を抱えた。
「いやいやいや、どうしてこうなった!?」
地区予選四回戦――俺たちテイコウイレブンは、思わぬところから優位に立ってしまった。
ソーダスジュニアの選手たちが、俺の前からサーッと道を開けるように逃げていく。
その隙間を、俺はボールを軽く蹴りながら、まるで散歩でもしてるかのようにゆっくり進んでいた。
(……この緑の目、本当に有効なのか?)
自分でも信じられない。けど相手は完全にビビってる。結果的には効いてるってことだろう。
ゴール前。俺は静かに足を出して、そっとボールを蹴ろうとしたその瞬間、ソーダスジュニアの僧侶、ドーズが杖を掲げて叫ぶ。
「怯むな、皆の者! あんな妖怪、恐れるに足らず! 我らには神の加護がある!!」
「うおおおおっ!!」
周囲の選手たちが一気に盛り上がる。
「あんな妖怪なんかに負けるはずがない!」
「俺たちで倒すんだ!」
「……いやいやいや!!」俺は全力で否定した。
「妖怪前提で話を進めるな! 俺は妖怪じゃない! ただ目が緑なだけなんだってば!!」
だが、誰も聞いちゃいない。前衛のピグモが剣を抜いて突っ込んできた。
「おのれ妖怪めぇぇぇ!!」
「だから妖怪じゃないってばあああ!!」
俺が叫んだ瞬間、後ろからさらに声が重なる。
「《炎弾》!」
「《氷刃》!」
「《石槍》!」
DF陣が一斉に詠唱を終え、無数の魔法が俺めがけて襲いかかる。
避けきれない。視界が一瞬、光で真っ白に染まった。
「ぐああああああっ!!」
吹き飛ばされ、ボールは足元から離れていく。気づけば俺は地面に転がり、息が詰まっていた。
(……おいおい、ただの緑目ひとりに、どんだけ本気出してんだよ……)




