真っ赤な視界
試合が再開される。
俺たちは気合いを入れ直し、敵陣へ攻め込んだ。けど――すぐに戦士どもにボールを奪われる。
嫌な予感がした。
案の定、コンクジュニアの攻撃パターンはまた同じだ。後方からのロングボール。ゾーマに繋げてくる気だ。
(来る……! 今度こそ、逃がさねぇ!!)
俺は全力で目を凝らした。芝の動き、風の揺らぎ、ボールの軌道……。
その瞬間、頭の奥がズキリと痛んだ。
「うっ……!」
次の瞬間――俺の視界が変わった。
瞳が熱く燃えるような感覚。視界が赤く染まっていく。
全てが赤い世界に変わる中、ぼんやりと“影”が浮かび上がった。
(……見える!! ゾーマの気配が……はっきりと!!)
赤い景色の中、ボールに走り込むゾーマの姿がくっきりと浮かぶ。
こいつは俺にしか見えない景色だ。新しい力――【開眼】!!
「そこだぁぁぁッ!!」
ゾーマが消えたように見えた瞬間、俺は全力で飛び込んだ。
赤い視界の導き通りに足を伸ばす。
――ガキィィィンッ!!
ゾーマのシュートは、俺のスライディングで完全に弾かれていた。
(やった……止めた……! 俺の目で、盗賊を見破った!!)
胸の奥が熱くなる。今度こそ、負けねぇ――!!
俺はゾーマから奪ったボールをそのまま足元に収め、ドリブルで駆け上がった。
目の奥がさらに熱く燃える。視界は赤く、まるで灼けた炎の中にいるみたいだ。
(見える……! 全部、見える!!)
ジーノ、ブク、デリ――コンクの中盤の戦士三人が、剣を構えて突っ込んでくる。
だが、その動きさえも赤い世界の中では手に取るようにわかる。
次に振りかぶるのはジーノ。左足に力が入ってる――来る!
後ろから斬りかかるのはブク。肩の筋肉の緊張が教えてくれる。
デリの突進は直線的、避けやすい。
世界がスローモーションになった。
空気の揺らぎ、剣の切っ先、汗の飛沫――全部が鮮明に見える。
(かわせる……! 全部かわせる!!)
俺は一歩、そしてまた一歩。最小限のステップでジーノの斬撃をかわし、ブクの剣をすり抜ける。デリの突進は逆に利用して横へ流した。
背後で金属音と怒声が重なる。
だが俺はもう振り返らない。
「行ける……! このまま突破だッ!!」
燃える眼が、次のゴールへの道を赤く照らしていた。
俺はさらにドリブルで前へ突き進む。
赤い世界が広がっていく。相手の足の動きも、視線も、息遣いまでもが手に取るようにわかる。
目が――熱い。
焼けつくような灼熱が瞳に宿り、視界全体を真紅に染め上げる。
(赤い光が……導いてくれる……!)
俺はその光に従って走った。
敵DFの剣が迫る。だが、遅い。次にどう動くのか、すでに全部見えている。
ステップ一つ、身体をひねるだけでかわし、抜き去る。
誰も追いつけない。俺の足は赤き炎に押されるようにゴールへと向かっていた。
――シュート!!
俺の足から放たれたボールは一直線に飛び、ネットを突き破る勢いでゴールへ吸い込まれた。
「やった……!」
思わず拳を握る俺に、仲間たちの声が響く。
「もう一点だ! 追いつくぞ!」
「まだいける!!」
熱気と歓声に包まれる中、俺の心臓も真っ赤に燃えていた。
――止まらない。
翔真の身体は、もう自分のものではないように動いていた。
赤い世界の中で、敵の動きも、ボールの軌跡も、全てがスローモーションに見える。
相手が前に立ちはだかる。だが、気づけばもう抜いていた。
次の守備も、そのまた次の影も――何もかもを置き去りにして、翔真はゴールへと突き進む。
誰も、彼を止められなかった。
ドンッ!
ボールがネットに突き刺さった瞬間、会場は揺れるような歓声に包まれた。
怒涛の連続得点で、一気に逆転。テイコウは勝利を手にしたのだ。
「翔真っ!!」「すげえぞ!!」
リオーナやザグ、仲間たちが歓喜に沸き、翔真のもとへ駆け寄る。だが――。
彼らはそこで、足を止めてしまった。
翔真の瞳が、真っ赤に充血していた。血走り、細い筋が裂けるように広がり、瞳の端から赤黒い雫が垂れている。
「……なんか景色が、真っ赤のままなんだ。俺……大丈夫かな?」
苦笑のような声に、リオーナもザグも一瞬言葉を失った。
病気? それとも呪い?
無理に笑っている翔真の顔を見ながら、仲間たちはぞっとするような恐怖を覚えて、思わず一歩、後ろへ引いてしまう。
「……これは力の使いすぎだな」
重い声でローマリオが言った。
「放っておけば死ぬぞ。すぐに病院へ行け」
「死ぬ……?」
翔真の胸に、不安と恐怖がじわりと広がっていく。
さっきまで世界が赤く輝いて見えていたのに、今はただ、血の色が視界を染めている。
――俺、本当に大丈夫なんだろうか。
心臓が嫌な音を立てながら、翔真はふらつく足で病院へ向かうのだった。




