おっしゃあ……! まだやれるっ!
翌日の練習。
空気は最悪だった。昨日の試合でついた亀裂は、まるで修復する気配がない。ボールを回していても、どこかぎこちない。俺も胸の奥がずっとざわついていた。
そのとき、ローマリオがどっしり腰を下ろし、手にした瓶をぐいっとあおった。朝っぱらから酒かよ……とツッコミたいけど、あの人には誰も言えない。
「……お前ら、そんなに不満ならよ」
ローマリオは酒臭い息を吐きながら、俺たちを一瞥した。
「次の試合、トマーティオ抜きでやってみろ」
一瞬、練習場が静まり返った。
その言葉を受けて、トマーティオは肩をすくめただけ。
「問題ないさ。負けそうになったら出ればいいそれdd」
淡々としたその態度が、またみんなの神経を逆なでする。
ザグが拳を握りしめ、大声を上げた。
「上等だ! 俺たちの力を見せてやる!」
部員たちの士気が一気に燃え上がる。けど、俺は心の中で冷や汗をかいていた。
――いやいや、本当に大丈夫か?リオーナを除けば、他のメンバーの実力は正直不安だらけだ。
試合で全部崩れる未来が、頭をよぎった。
三回戦当日。
対戦相手はコンクジュニアハイスクール。相手のスタメンを聞いた瞬間、俺は思わず息を呑んだ。
FWはゾーマ――盗賊。
MFにはジーノ、ブク、デリと三人の戦士が並び、さらにジンという魔法使い。
DFラインにはゼン(騎士)、バスク(重騎士)、カン(戦士)、ゲド(僧侶)。
そして最後尾を守るのは、ボルというモンクのGK。
システムは5-4-1。分厚い守備を固める典型的なディフェンス重視の布陣だ。
そんな相手に、俺たちテイコウの布陣は――まさかのツートップ。
リオーナと……俺。
久しぶりにFWとしてピッチに立つことになったのだ。
「おい翔真、ちゃんとやれよ」
リオーナが冷たく釘を刺してくる。
「わ、分かってるって!」
内心ドキドキしながらも、心の奥に小さな炎が灯っていた。俺は今日、FWなんだ。点を取れるポジションなんだ。
――試合開始の笛が鳴った。
俺は迷わず前へ飛び出す。
ボールを受け取ると同時に、ドリブルで一気に加速!
守備的布陣なんざ関係ねぇ、俺が切り裂いてやる!
だが――。
「甘い!」
「ここは通さん!」
中盤の戦士たちが、壁のように立ち塞がった。
鋼鉄の鎧をきしませながら、三人同時に俺を囲み込む。
足元のボールを狙う剣のような視線。まるでドリブルの道を完全に封じる鉄柵だ。
「くっ……!」
一瞬で包囲され、俺は行き場を失った。
ボールを一旦リオーナへと戻す。
リズムを整えるような軽いパス。彼女は落ち着いたトラップで受け、そのまま視線を前へ。
「ザク!」
リオーナの左足から放たれた鋭いスルーパスが、サイドを駆け上がっていたザクの足元へ吸い込まれる。
ザクは勢いそのままにドリブルで突破を仕掛ける。
――だが、立ちはだかる二人の影。
敵ディフェンス、バスクとゼン。
その両手に光る異能の剣が現れ、進路を塞ぐように交差する。
「来いよ……!」
ザクは一瞬も怯まず、ボールを足に吸い付かせたまま切り返し。剣をフェイントでかわしにいく。
だが――。
ギラリ。
閃光のように剣が走った。
「……っ!」
次の瞬間、ザクの身体が斬り刻まれる。
肩、腕、胴、脚――無慈悲に刻まれ、バラバラに弾け飛んだ。
ピッチに血しぶきが散る。
ボールだけが無情に転がり、誰もいない空間へと流れていく。
それでもザクの目は最後まで前を、ゴールを睨んでいた。
「おっしゃあ……! まだやれるっ!」
薬で体を修復させたザクが、血に濡れた芝の上から立ち上がろうとする。
――だが。
ガタリ、と音を立てた瞬間。
彼の身体は支えを失った積み木のように、バラバラと崩れ落ちた。
「なっ……!」
オレは思わず声を詰まらせる。
バスクがゆっくりと歩み寄り、崩れたザクを見下ろした。
冷たい目に、わずかな勝利の色。
「我らの剣の傷……そう簡単に癒えると思うな」
静かに突き刺さるその言葉に、背筋が凍る。
――これはただのファウルじゃない。存在ごと削り取るような、異能のディフェンスだ。
ザクはすぐさま治療班へと運ばれていく。
ピッチに残るのは、オレたち十人だけ。




