――確かに勝ちは勝ち。でも、これじゃ……
審判の判定は――まさかの「ゴール成立」。
疑われつつも、なんとか得点として認められた。
「……よ、よかった……」
翔真は胸をなで下ろした。だが同時に冷や汗も滲む。
――気配を完全に消しすぎるのはマズい。ゴールどころか、自分の存在まで消えてしまう。危うくサッカーじゃなく、ただの暗殺になりかけた。
だが、その安堵の隙を突くように、盗賊トリオが牙をむいた。
「行くぞ!」
「加速!」
「さらに加速だ!」
ビンド、ウンド、サンドの三つ子は怒涛のパス交換を繰り広げる。
目にも止まらぬ速度でボールが渡り、ステルスのスキルが最大まで発動――まるで姿ごと消えるかのようにピッチを駆け抜ける。
「チョロチョロ……いい加減にしろよ」
トマーティオの額に青筋が浮かぶ。イラついた笑みを浮かべ、杖を振りかざした。
「全方位全攻撃魔法――《豪雨業火蓮華殺》!」
次の瞬間。
空から火球が、まるで豪雨のように降り注いだ。赤い閃光がグラウンド全体を覆い尽くす。
「くっ!」
リオーナが即座にバリアを展開する。しかし彼女一人の防御では、すべてを守りきれなかった。
「ぐあっ!」
「うわああっ!」
ザグも、セトも、デコーズも――。仲間たちは次々と火の雨に焼かれ、地面に崩れ落ちる。
ただ一人、平然と立っていたのはトマーティオ。
火の粉を払いながら、悠々と転がるボールを拾い上げる。
「……ごちゃごちゃチョロチョロとうるさいコバエどもが。始めからこうしておけば良かったんだ」
その声音は冷酷で、試合の空気さえ支配するような絶対的なものだった。
「――トマーティオ、やり過ぎよ!」
リオーナの声がピッチに響いた。
仲間も敵も巻き込むような広域殲滅魔法に、彼女の瞳は冷ややかな光を宿している。
しかし当の本人は、まるで気にする素振りもなかった。
「関係ないだろ。勝ちゃいいんだ、勝てばな」
涼しい顔でドリブルを始めたトマーティオは、そのまま敵ゴールへ突進。火の粉をまだ拭いきれていないスティルマの選手たちを尻目に、簡単に追加点を叩き込んでしまう。
――ピッチの空気は完全に彼一人のものだった。
ベンチから急ぎ駆け寄るマネージャーが、倒れた仲間たちに回復薬を次々と飲ませていく。ザグも、セトも、俺も……それぞれ体を起こし、なんとか立ち上がる。
けれど、その間にもトマーティオは独断専行を続けていた。
味方の動きも無視し、ただゴールだけを射抜く。
「……おいおい、これじゃチーム戦になってないぞ」
俺は胸の奥に妙なざらつきを覚えながらも、再びピッチに立つ。
――でも確かに、勝利は目前に迫っていた。
試合は――勝った。
圧倒的勝利だった。スコアだって、誰が見ても完封の快勝。
でも俺の胸の中は、ちっとも晴れなかった。
ピッチの上に残ったのは勝利の余韻じゃなくて、妙なざらつき。確実に、チームの中にひびが入った音がした気がする。
「おい、トマーティオ!」
最初に声を荒げたのはザグだった。
「俺たちの動き、全部無視してただろ! チームでやるんじゃなかったのか!」
俺も続いて口を開いた。
「そうだよ。魔法で敵まとめて焼き払うとか……サッカーじゃないだろ。勝てりゃいいってもんじゃ――」
けど、トマーティオは鼻で笑っただけだった。
「何が悪い。勝利のために全力を出した。それだけだ。お前らが足手まといだから、俺がやった。それ以上の理由が必要か?」
リオーナが視線を伏せ、他の仲間たちも何も言えなくなる。
ピッチの空気は重く沈み、勝ったはずなのに祝福の声ひとつ上がらなかった。
俺は唇を噛んだ。
――確かに勝ちは勝ち。でも、これじゃ……。




