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異世界転生サッカー これがサッカーなのか・・・?  作者: 南蛇井


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21/47

ち、違う違う! 俺、ちゃんと決めたんだよ! ゴールだってば!!

 そして――二回戦が始まった。

 魔法対策? そんなもん、何ひとつ手に入ってない。盗賊ギルドの連中は「ズバーッとだ!」しか言わなかったし、こっちはもう手ぶらのまま戦場に放り出される。

 スタメン発表がコートに響く。

「テイコウジュニアハイスクール――」

 俺たちの布陣は変わらない。

 FWはトマーティオとリオーナ、どっちも規格外の魔法使い。

 中盤にはデコーズ、ドロン、キース、スバース。

 守備陣にはガトー、ギラン、セト、ザグ。

 最後尾はザンガ。狂戦士のGKという時点で相手が気の毒だ。

 ……で、問題は相手のスタメンだ。

「スティルマジュニアハイスクール――」

 読み上げられる名前を聞いて、思わず眉をひそめた。

 FWが――盗賊、盗賊。

 MFにも盗賊。

「……は? 盗賊が前衛?」

 違和感が全身を走った。盗賊って基本、影からコソコソやる職業だろ。正面から点取り屋やるような連中じゃない。

 けれど、俺の視線はもっと妙なものを捉えていた。

 FWの二人、ビンドとウンド。

 それにMFのサンド。

 ――顔が、同じ。

 思わず目をこすった。いや、見間違いじゃない。どいつも同じ輪郭、同じ目、同じ笑い方をしてる。

「三つ子……?」

 背筋に寒気が走った。

 もしこれが三つ子の盗賊トリオなら――息の合い方は尋常じゃないはず。

 ただでさえ盗賊は不意を突くのが得意だ。そこに超連携プレーが加わったら……。

「うわ、絶対やばい奴らだろ、これ……」

 試合前からもう胃が痛い。

 俺のサイドバック人生、二回戦で終わりを迎えるんじゃないだろうな。


 ホイッスルが鳴った瞬間、空気が変わった。

 ――速い!

 ビンド、ウンド、サンド。三つ子盗賊のトリオが、まるで稲妻みたいに動き出す。

 ひとりがボールを持ったと思ったら、もう次のひとりが触ってる。

 触ったかと思えば、もう三人目に渡ってる。

 電光石火の連携。

 パスじゃない。流れるような身のこなしで、自然にボールが移っていく。

「くっ……!」

 翻弄されるチームメイトたち。俺は必死で前に出て、動きを読んだ。

 盗賊のパターンなんて単純だ。必ず裏を突く。そのクセを逆手に取れば――

「ここだ!」

 俺はタイミングを完璧に合わせて足を伸ばした。

 確かにそこにボールが来るはずだった。読みは完璧。俺の感覚は間違ってなかった。

 なのに――

 俺の足が空を切る。

 気づけば、目の前には誰もいなかった。

「……え?」

 次の瞬間、背後から歓声が聞こえた。

 振り返ると――盗賊トリオは、もう俺の後方にいた。

 いつの間に……?

 ボールだけじゃない。三人ごと、影のようにすり抜けていた。

 愕然とする俺。背筋に冷たい汗が流れた。

「……マジかよ。まるで消えたみたいじゃん……」

 これは……ただの速さじゃない。盗賊の“気配を消す技術”が、連携に溶け込んでるんだ。

 読めるのに、捕まえられない――。

 心臓が跳ねる。やばい相手に当たった……!

やばい……このままじゃ押し込まれる。

 頭が勝手に焦りを煽る。

「……仕方ねぇ!」

 俺はスキルを発動した。

 《バックスタッフ》――相手の背後を取る、盗賊の切り札。

 視界がぶれる。

 次の瞬間、俺の体は一気に前へ、いや――ボールを持つサンドの真後ろへと跳んでいた。

「……捕まえた!」

 手の中の短剣が光る。喉元に突き立てれば、一撃必殺――!

 だが。

「――甘ぇよ」

 サンドの体がふっと沈む。まるで俺の動きを最初から知っていたかのように。

 ナイフは虚空を切り、逆に俺の視界にサンドの拳が突き刺さった。

「……がはっ!」

 みぞおちに衝撃。

 肺の空気が一瞬で押し出され、膝が笑う。呼吸が、できない。

 ……完全に、読まれていた。

 スキルで背後を取ったはずなのに。

 俺がどこに現れるか、どう動くか、すべて見透かされていたみたいに。

「なんでだよ……」

 歯を食いしばる俺を横目に、盗賊トリオはボールを繋ぎ、さらに前線へ駆け上がっていく。

 背中に感じるのは、ただの速さじゃない。

 同じ盗賊だからわかる――あいつら、盗賊の“真髄”を俺なんかより遥かに使いこなしてる……!

 ――気配が、消えた。

 次の瞬間、翔真の背筋に冷たいものが走る。

 コートから、盗賊トリオの存在感がまるで霧のように掻き消えていた。さっきまで視界にあったはずなのに、目で追ってもどこにもいない。

「っ……どこだ!?」

 焦りで視線を走らせた刹那――。

 ――ズドンッ。

 乾いた音が響き、ゴールネットがわずかに揺れた。

 ボールはすでに、そこに吸い込まれていた。

「なっ……!?」

 翔真の喉が震える。誰も気づかぬ間に、彼らはゴールを奪っていたのだ。

 完全に、盗まれた。

 翔真は拳を握りしめる。

 あの三人の速度と消えるような連携――止められるのは、自分しかいない。

(……俺が、止める! あいつらを……!)

 決意の熱が胸に灯る。追いつかなければならない。あの電光石火の盗賊たちに――。

 試合が再開される。

 リオーナが必死に食らいつくが――盗賊トリオの電光石火の動きに翻弄され、あっという間にボールを奪われてしまった。

「くっ……!」

 再び始まる三人の突破。

 まるで影が三つに分裂したかのような錯覚を与える高速連携。その先頭に立つのはサンド。

 翔真は前へと飛び出す。

 だが、頭の中で警鐘が鳴った。

(……このまま突っ込んでも、抜かれる!)

 奥歯を噛みしめ、翔真はスキルを解放する。

「――バックスタッフ!」

 瞬間移動のようにサンドの背後へ飛び出す翔真。

 だがサンドはすでに振り返っていた。

「何度やっても通用しねぇよ!!」

 鋭いカウンターの一撃が翔真を狙う――。

 その刹那。

 翔真はナイフを抜かない。身体をひねり、サンドの攻撃を紙一重でかわす。

「……!」

 その動きの裏で、翔真の指先が閃いた。

「スティールッ!」

 予想外の角度から伸びた手が、サンドの足元を狙い、ボールを掻き取る。

 ――ガッ。

 次の瞬間、ボールは翔真の足元にあった。

「……取った!」

 観客席からどよめきが広がる。

 ついに、盗賊トリオの牙城からボールを奪い去ったのだ。

 翔真は奪ったボールをそのままドリブルで持ち上がる。

 得意のボールタッチと加速――彼の武器であるスピードが一気に爆発した。

「行けぇぇっ、翔真!」

「止めろ、止めろォッ!」

 両チームの声が飛び交う中、翔真の脳裏にあの光景がよみがえる。

 盗賊トリオのゴールシーン。気配が完全に消え、気がついた時にはボールが吸い込まれていた。

(……同じ盗賊なら、俺にもできるはずだ!)

 翔真は奥歯を噛みしめ、己の中に眠る感覚を呼び覚ます。

 全身の気配を、呼吸を、鼓動さえも――スッと薄めていく。

「……ステルス――!!」

 空気が揺れた。

 次の瞬間、フィールドから翔真の存在感がかき消えた。

「なっ……!? 消えた!?」

「ボールは!? どこだ!?」

 観客も、敵も、審判さえも目を見開く。

 ボールと一緒に姿を消した翔真は、影のようにゴールへと駆け抜けていた。

 気づかれることなく、ただひたすら一直線。

 気配を消し去った身体ごと――ボールがそのままネットを揺らす。

 ――ゴオォォォルッ!!

 静寂が一瞬、グラウンドを包む。

 次いで爆発する大歓声。

「決まったぁぁぁぁっ!!!」

 翔真は息を切らし、ようやく姿を現した。

 その手は震えていた。

 今の一瞬、自分が確かに“盗賊”として覚醒した感覚があった。

(……これで、互角に戦える!)

「やったぁぁぁ!! ゴール、ゴール決めたぞおお!!」

 翔真は両手を突き上げ、喜びを爆発させた。

 しかし――返ってくるはずの歓声は、意外なほど薄い。

「……き、決めた?」

「……決め……たのか?」

 トマーティオが眉をひそめ、疑心暗鬼に声をもらす。

 リオーナはさらに冷静だった。

「ちょっと翔真、あんた何で敵ゴールの中に立ってるのよ? オフサイドにならないの?」

「オ、オフサイド……?」

 翔真の笑顔が引きつる。

 ザグが腕を組んでうなる。

「……あいつ、ほんとにサッカーのルールわかってんのか?」

 テイコウイレブン全員の視線が妙に冷たい。

 一方、スティルマジュニアハイスクールの連中はといえば――。

 盗賊トリオも、戦士たちも、ぽかんと口を開け、ゴールネットの中にいる翔真をただ見つめていた。

 沈黙。

 空気が妙に間抜けに張りつめる。

 その沈黙を破ったのは、翔真自身だった。

「ち、違う違う! 俺、ちゃんと決めたんだよ! ゴールだってば!!」

 叫んでも叫んでも、なぜか手応えのない虚しい声だけがフィールドに響いていくのだった。


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