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異世界転生サッカー これがサッカーなのか・・・?  作者: 南蛇井


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国外追放とする

試合終了のホイッスルが鳴り止んでも、スタジアムの熱は冷めなかった。

 ただし、それは歓声ではなく――怒号と罵声だった。

 「なにやってんだよ、あのワントップ!」

 「足手まといだ! あれじゃ勝てるわけねぇ!」

 「帰れ! 素人はグラウンドから消えろ!」

 四方八方から浴びせられるブーイング。

 それは刃物のように翔真の心を切り刻む。

 「……っ」

 顔を上げることはできなかった。

 ただうつむき、唇を噛みしめ、耐えるしかない。

 自分が何もできなかった事実が、何よりも重かった。

 そのときだった。

 「――おい」

 ドスの効いた声が背後から響いた。

 振り向いた瞬間、影が覆いかぶさる。

 「なっ……!?」

 翔真の身体は、次の瞬間、軽々と宙に浮いていた。

 片腕で。まるで空気のように。

 「ぐっ……! おろせっ!」

 必死に暴れるが、相手の腕は岩のように硬く、びくともしない。

 抵抗がすべて無駄だと悟った瞬間、翔真の背筋に冷たい汗が流れ落ちた。

 ――この男、何者だ!?



 「やめろっ! 放せって!!」

 必死に腕を振りほどこうと暴れるが、分厚い縄が瞬く間に翔真の手首を縛り上げていく。

 抵抗はむなしく、あっという間に身動きが封じられた。

 「ちくしょう……!」

 男は無造作に翔真の身体を肩に担ぎ上げると、待機していた馬車へと歩いていく。

 そして、まるで荷物でも放り投げるように――

 ドサッ!

 木のきしむ荷台に、翔真は転がされた。

 粗末な縄の感触と、汗のにじむ匂いが鼻を刺す。

 「くそっ……なんでだよ……!」

 馬車がゴトゴトと動き出す。

 車輪が石畳を叩く音が、無情に鼓膜を揺らす。

 うつむいたまま、翔真の胸の中をさまざまな感情が駆け巡った。

 不安。怒り。絶望。

 そして――どうしようもないほどの悔しさ。

 「……俺は、いったいどこに連れていかれるんだ……?」

 見上げた天井は、木の板で閉ざされていて、空も見えない。

 その閉塞感が、心の奥をさらに重く沈めていった。

馬車がきしみを上げて止まった瞬間、扉が無理やり開かれた。

 中にいた翔真の体は、再びあの大男の分厚い腕に掴み上げられる。抵抗する間もなく、まるで荷物のように抱えられ、ずしりとした足音と共に運ばれていった。

 やがて辿り着いた先――目の前に広がったのは、現実感を疑うほどの豪華絢爛な空間だった。

 高すぎるほど高い天井には、無数の光を撒き散らす巨大なシャンデリア。壁一面には金糸で縁取られた絵画や見たことのない装飾品が並び、深紅の絨毯が一直線に伸びている。

 「……なんだよ、ここ……」

 翔真は息を呑む。

 それは、彼が知る“グラウンド”や“スタジアム”とは正反対の場所。勝敗を競い合う土の匂いではなく、甘い香と輝きで満ちた世界だった。

 ただ、その中心に立たされる自分は――まだ汗のにじむサッカーユニフォーム姿。

 スパイクに泥がついたまま、この煌びやかな部屋に放り込まれた少年の姿は、あまりにも場違いで、異様で、孤独だった。

 心臓が高鳴る。怒りも、悔しさも、不安も、一気に渦を巻いて翔真を締め付ける。

 だが彼は、うつむいたまま拳を握りしめていた。

 豪華な部屋の奥へと連れて行かれた翔真の目に、次々と視線が突き刺さる。

 左右に並ぶのは、宝石を散りばめた衣をまとい、肩に羽毛を飾り、誰もが自分こそが特別だと言わんばかりの偉そうな面々。

 彼らは一斉に翔真を値踏みするように見つめ、眉をひそめ、ひそひそと声を交わす。

 やがて、重厚な扉が開かれ――。

 「国王陛下、ご入場!」

 その声と同時に、場の空気が一変した。

 黄金の冠を戴き、煌びやかなマントを翻しながら現れた人物。

 その男――国王が、静かに玉座へと歩み寄り腰を下ろした。

 「これが……召喚された者か」

 低く響く声が広間全体を揺らす。

 次の瞬間、周囲の貴族や重臣たちが一斉に口を開いた。

 「しかし……この少年では……」

 「戦場で役立つとは思えませぬ」

 「召喚そのものが失敗だったのでは?」

 「国費を投じてこれとは……」

 嘲りと失望が入り混じった声が、四方八方から浴びせられる。

 まるで観客席でのブーイングの続きのように。

 翔真の喉がきゅっと締め付けられる。

 自分は望んでここに来たわけじゃない。ただサッカーをしていただけなのに――。

 「……失敗? ふざけんなよ……!」

 唇を噛み締め、悔しさと腹立たしさで胸がいっぱいになる。

 なぜ勝手に呼び出され、勝手に評価され、勝手に「失敗」と切り捨てられなきゃならないんだ。


 王の鋭い眼差しが広間を一望する。

 「――皆の者、意見を申せ。この召喚の結果、如何に裁くべきか」

 その言葉を合図に、重厚な議場は一気にざわめきに包まれた。

 「失敗だ。戦場で使えぬ!」

 「ただの小僧にしか見えませぬ!」

 「処刑こそ妥当!」

 「いや、国外追放にして国境でくたばらせればよい!」

 「監禁して研究対象にすべきだ!」

 次々に飛び交う言葉は、裁きではなくただの罵倒にしか聞こえない。

 処刑? 追放? 監禁?

 ――サッカーをしていただけで、なんで命まで狙われなきゃいけないんだよ!

 翔真の胸の奥で、怒りがぐつぐつと煮え立つ。

 「……ふざけんな! 俺はただ試合してただけだろ……サッカーしただけで処刑って、頭おかしいだろ!」

 だが、その声は群衆の怒声にかき消され、届かない。

 国王はやがて片手を上げ、場を静めた。

 「静まれ」

 広間の空気が、再び凍りつく。

 「――判決を下す。この者、新澤翔真を……国外追放とする」

 その一言が、金槌のように翔真の心臓を打ち抜いた。

 「国外追放……?」

 思わず声を漏らした瞬間、背後から屈強な男の影が覆いかぶさる。

 翔真の襟首を片手でつかみ、まるで小鳥でも扱うかのように軽々と持ち上げる。

 「待てよ! ふざけんなっ!」

 必死に足をばたつかせ、腕を振り払おうとするが――びくともしない。

 そのまま大広間からつまみ出されるようにして運ばれる翔真。

 背後に残るのは、冷たい視線と、見下すような嘲笑だけだった。

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