表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界転生サッカー これがサッカーなのか・・・?  作者: 南蛇井


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

14/47

お前たちの“仲間”だ!

笛の音が鳴り、試合は再開された。

 だが、グラウンドに立つ誰もが――かつての切れ味を完全に失っていた。

 トマティオが少しでも杖を掲げ、呪文の詠唱に入る気配を見せるだけで、

 足がすくみ、パスを出すタイミングが遅れる。

 攻め込む勇気も、身体を張って守る度胸も、もう残っていない。

 「くっ……動けよ、俺の足……!」

 翔真が歯を食いしばる。

 だが脳裏に焼き付いた、あの“消し炭の悪夢”が、彼を縛りつける。

 仲間たちも同じだった。視線は常にトマティオの手元へ吸い寄せられ、

 ボールよりも先に魔法の動きへと反応してしまう。

 その一瞬の怯みが、命取りになる。

 次々にボールを奪われ、あっけなく追加点を許していく。

 シュートがネットを揺らすたび、スタンドが沸き、スコアボードは無慈悲に数字を刻む。

 ――1対5。

 絶望的な点差が、前半終了のホイッスルと共に確定した。

 フィールドに沈む沈黙は、もはやスポーツの試合ではなく、処刑場のそれに近かった。



 ハーフタイム。

 ベンチに戻った翔真たちは、まるで魂を抜かれたかのように肩を落としていた。

 水を口に運んでも、喉は乾いたまま。誰一人口を開こうとはしない。

 そんな沈黙を破ったのは、ローベルトだった。

 彼は静かに腕を組み、睨むように仲間を見渡す。

 「……お前ら、完全に踊らされてるな」

 翔真が顔を上げる。

 「……踊らされてる?」

 ローベルトは低く笑った。

 「トマティオの《爆光雷撃弾》……あれは確かに恐ろしい。だがな、魔力(MP)の消費量を考えろ。あんな怪物みたいな魔法、そう何度も撃てるわけがない。――あれは一発きりだ」

 「……一発、だけ……?」

 仲間たちがざわめく。あの圧倒的な光と轟音。フィールドを焼き尽くす神罰のごとき一撃。あれが、もう飛んでこない?

 ローベルトはさらに続ける。

 「奴は自分の威圧感を最大限に利用してるだけだ。杖を構えりゃ、お前らは勝手に足を止める。心がすでに負けてんだよ」

 沈んでいた空気が、一気に変わった。

 翔真は膝に置いた拳をぎゅっと握りしめる。

 「……なるほどな。つまり、俺たちが恐怖を振り払えば……勝機はあるってことだな!」

 「そういうことだ」

 ローベルトがうなずく。

 仲間たちの表情に、再び闘志の火が灯る。

 燃えるような視線が交錯し、握りしめた拳が次々に掲げられる。

 「後半で逆転だ!」

 「ここからが本番だ!」

 翔真も叫んだ。

 「ビビってた時間はもう終わりだ! 後半戦、俺たちが勝つ!」

 チーム全員の声が重なった瞬間――鈍色の雲を割るように、希望の光が差した。

――後半戦開始の笛が鳴り響いた。

 トナリーナ・ジュニアハイスクールの前線に立つのは、肉体を鎧で固めた戦士トリオ。

 FW:ゼノ。

 MF:ドルマとギライ。

 彼らが織りなすパス回しは、まるで鋼鉄の歯車が噛み合うような正確さだった。

 豪快な蹴りでボールを送れば、仲間は寸分違わずそこに走り込む。

 戦士でありながら、芸術的とすら言える華麗な連携。

 「くっ……速い!」

 翔真は必死に追いすがるが、ゼノの体当たりひとつで簡単に弾き飛ばされる。

 キースのタックルも、デコーズのスライディングも、ザグの豪腕も――すべて軽々とかわされていく。

 「止めろ! 止まれって!」

 叫びも虚しく、戦士トリオの三角形のパスが翔真たちを翻弄し続ける。

 そして――ゴールネットが無情に揺れた。

 「……っ!」

 追加点を奪われた瞬間、翔真の心臓に氷の杭が突き立ったような感覚が走る。

 だが、それは始まりにすぎなかった。

 試合が進むごとに、圧倒的な実力差が刻み込まれていく。

 戦士たちのパワーと技術に、異能の呪文が組み合わされる。

 ディフェンスを抜かれ、ゴールを割られるたびに、北嶺セカンダリースクールの選手たちはただ立ち尽くすしかなかった。

 「……こんな……こんなはずじゃ……」

 翔真は歯を食いしばるが、足は鉛のように重い。

 無情に積み重なるスコア。

 気づけばスコアボードには――9 - 1。

 試合は終わった。

 惨敗。

 その二文字が、フィールドに立つ全員の胸を、重く沈ませていた。

試合終了の笛が鳴った瞬間、翔真たちはその場に崩れ落ちた。

 呼吸は荒く、心臓はまだ暴れ馬のように暴れているのに――スコアボードの**「9-1」**が、彼らの心を完全に沈めていた。

 「……俺たち……全然、歯が立たなかった……」

 翔真はピッチに両手をつき、顔を上げられずにいた。

 だが、その時。

 静かながら力強い声が背後から飛んでくる。

 「顔を上げろ」

 ローベルト監督だった。

 呆然とする選手たちに、彼は顎でトナリーナの選手たちを示す。

 「相手を見ろ。あれが――勝った者の姿だ」

 翔真は恐る恐る顔を上げ、視線を向けた。

 そこには勝者らしい誇らしさはなかった。

 ――あったのは、ボロボロの肉体。

 FWのゼノは肩で荒く息をし、MFのドルマとギライは足を引きずっている。

 そして、チームの要であるトマーティオは――仲間の肩にすがりつかなければ立つことすらできず、完全に消耗しきっていた。

 「……あれ、が……?」

 翔真は思わず息をのむ。

 自分たちと同じように必死で走り、必死で戦い、最後まで力を振り絞った結果があの姿だった。

 強さとは、ただ圧倒することではなく――命を削ってでも勝利を掴みに行く覚悟なのだと、翔真はようやく理解した。

 「……負けたのは俺たちだ。でも……あいつらもタダじゃ勝てなかったんだな」

 キースが苦笑交じりに呟く。

 試合は終わった。

 互いの魂を削り合った戦いの末、勝者も敗者も――ただフィールドに立つ仲間として。

 翔真は立ち上がり、泥だらけの手を差し出した。

 トナリーナの選手もそれを受け、笑みを返す。

 歓声もなく、ただ静かに。

 両チームは互いを称え合い、フィールドを後にした。


翌日――。

 昨日の激闘の余韻も冷めやらぬテイコウジュニアハイスクールのグラウンドに、再びあの威圧感がやってきた。

 「ローナルド監督!」

 金色の長髪を風になびかせ、長身の影が堂々と現れる。

 トナリーナジュニアハイスクールのエース、トマーティオだ。

 グラウンドにいた部員たちは一斉に顔をしかめた。

 「まさか……また試合か?」

 「いや、昨日の今日でそれは……」

 しかし、トマーティオの視線は翔真たちではなく、ただひとりを捉えていた。

 ローナルド。

 「約束は覚えてますよね、ローナルド監督」

 「……あぁ?」

 「昨日、俺たちが勝った。だからあなたは、俺たちトナリーナジュニアハイスクールの監督になる。約束通りだ」

 部員たちの間にざわめきが走る。

 「えっ!? そんな約束してたの!?」

 「マジかよ……」

 当の本人、ローナルドはというと――。

 片手に持った酒瓶をラッパ飲みしながら、妙に困った顔をしていた。

 「いやいやいや……待て待て。確かに“もし勝ったら考える”とは言ったけどな。オレ、今こっちで契約して監督やってんのよ。勝手に移籍とか無理だろ、なぁ?」

 困惑しきった口調のまま、酒をぐびり。

 まるで逃げるようにアルコールに頼るローナルドに、翔真たちは「おい!」と突っ込みたくて仕方がなかった。

 だがトマーティオは一歩も引かない。

 「……そうですか。なら、別の方法を考えるしかないですね」

 低い声に鋭い光が宿る。

 「ローナルド監督を、必ず俺たちのものにする。そのために次の策を講じますよ」

 それだけ言い残し、トマーティオは踵を返してグラウンドを去っていった。

 残された部員たちは顔を見合わせ、そして一斉にため息をついた。

 「……なんか、嫌な予感しかしないな」

翌日。

 昨日とまったく同じタイミングで、再びグラウンドにあの金色の髪が現れた。

 「……お前、また来たのかよ」

 ローナルドが頭をかきながら、酒瓶を片手に呆れ声を上げる。

 「いくら来たって、オレは監督移籍なんてできねぇって言ってんだろ。契約とか大人の事情が――」

 「問題ありません」

 トマーティオはきっぱりと遮った。

 「監督を招聘できないなら……俺が行けばいいだけの話だ」

 「……は?」

 全員の声が重なった。

 意味がわからずぽかんと口を開ける翔真たち。

 「ちょっと待って。今、なんて?」

 「お前が“行く”って……どこに?」

 トマーティオは胸を張り、黄金の髪をかき上げて宣言する。

 「俺は今日から、このテイコウジュニアハイスクールに転校してきた!」

 「……はああああ!?」

 サッキーが素で叫び、ザグが目をむき、翔真は膝から崩れ落ちそうになる。

 「書類も手続きもすべて済ませてある。俺はもう、正式な生徒だ。だから今日からは――」

 トマーティオはにやりと笑い、堂々と腕を広げる。

 「お前たちの“仲間”だ!」

 「仲間って……え、いやいやいや!!」

 全員が混乱の渦に飲み込まれた。

 ローナルドだけは酒をぐびりと飲んで、ぽつりとつぶやいた。

 「……おいおい、マジで来ちまったのかよ」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ