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8. 皇女マリソル、王子の祖国へ ②

 翌朝の朝食の席、リカルド様が一日の予定を説明してくださった。

 今日は早朝の出発で、これから馬車に乗り込むところ。


「昼前には国境を越えて、アグリゼルからマジリエス領内に入ります。そこで昼食を取り、その後はまた移動。夜には我がフェルミゼル王国に到着できるでしょう。今日はマリソル殿下の侍女も同じ馬車にしますか?」


「そうですわね。今日は侍女のレイナも同乗させて頂きます」


 私の専属侍女も連れて来たのだけれど、昨日はリカルド様と二人きりになりたくて——別の馬車に追いやってしまったのだ。


 すぐに呼び寄せたものの、レイナは不満そう。

 リカルド様がいると、昨日の様子を明け透けに聞けないからだろう。

 私より少し年上の21歳、恋愛小説が大好きな可愛い侍女である。


 ちなみに昨晩の宿として使われた——こちらのお屋敷、フェルミゼル王家の外戚にあたる貴族の別荘だそうで。アグリゼルの国境付近に位置していると教えてもらった。


 そう考えると、アグリゼルって意外と広いのよね。

 首都の王城を出て丸一日、まだ国境も越えていないんだもの。

 

 走り出した馬車の外では、作業に励む農民たちが手を振ってくれる。

 リカルド殿下と私も、互いに申し合わせたように手を振り返した。


 さすが広大な農業地帯を抱える王国だわ。

 豊かな土地と、国民の満足度をしっかり維持できている。

 国土の管理と国民への富の分配が上手く行っている証だろう。


 ここで連邦五王国について復習しておこう。

 アグリゼルを筆頭にオデュエル、マジリエス、ジェムナイル、フェルミゼルの五つの王国で、共に隣り合って位置し、イシュトバル連邦を形成している。


 連邦全土で見れば、我がヴァーゼルム帝国の三分の一に匹敵する広さを有しているから、父上曰く『軽視できない』存在だ。


 ——ボンヤリしている私の相手でもしてやろうと思ったのか、リカルド様が口を開く。


「連邦にも帝国の『月光門』のようなものがあれば良いのですが……」

「フェルミゼル到着まで丸二日でしょうか?そのくらい何でもありませんわ」 


 私の祖国——広大な領土を治めるヴァーゼルム帝国には、『月光門』と呼ばれる瞬間移動用のトンネルがあって。月の力による魔法で構築されることから、名前に『月光』と付いているのだ。


 利用方法は簡単で、皇室の許可を受けて使用料を支払えばいい。

 だからだろうか——けっこう頻繁に利用されている印象がある。

 

「リカルド様が帝国にいらしたら、ガンガン使わせて差し上げますわ!!」


 父上の側近——アダムが教えてくれた『月光門』誕生の経緯を思い出す。

 ヴァーゼルムは想像を絶するスピードで領土を拡大したのだけれど、その弊害で情報伝達が著しく遅くなったそうだ。必要に迫られ多数の案が寄せられたなか、異例の満場一致で採用されたのが『月光門』だそう。


 決断の早い父上のこと、採用から実用までのスピードも『ハンパなかった』——と、アダムが話しながら目をグルリと回して見せた様子が蘇り、クスッと笑い声を漏らしてしまった。

 

「……どうしました?」

「あ、すみません。『月光門』の成り立ちについて思い出していたのですが、それを話してくれた父の側近が面白くて」


 なるほどと頷きながら聞いたリカルド様の様子から、サラリと流された感が否めなくて。もう少し興味を持ってくれても良いのに——なんて、私は自分が拗ねていることに気付いた。


「……帝国ほどではありませんが、フェルミゼルにも転移魔法を使ったゲートがあります。ですが……魔法を使える技術者と研究費用の不足が深刻で、改良の余地を残したまま放置されているんですよ……」


 なるほど、フェルミゼル王国は魔法に対して奥手だと。

 彼らにとっては隣国にあたるマジリエス王国——。

 あそこはたしか、魔法に対して進歩的だったはずよね。

 共同開発を提案しないってことは、まぁそういうことか——。

 

「なんだか楽しみになってきましたわ」

「……何がです?」


 顔に出すのは抑えていたつもりだったのに、思いっきり出てしまったみたい。悪巧みする人間だとバレたようで居心地が悪い。


「お聞かせしたら……リカルド様をがっかりさせてしまうかもしれません。内緒にさせていただきます(マジリエスを王国を(いじ)り倒したいです!とは言えない)」

「……そうですか」

 

 不気味だと思われていないと良いけれど。

 まぁ、ほんとに悪巧みしているんだから——仕方ないか。

 

「ところで、帝国では魔道具の研究も発達していると聞きました。何かお持ちでしたら、見せていただけませんか?」


「もちろんですわ。例えば……こちら。ブレスレットのように見えますが、健康管理用の計測具で。歩く速度や歩数を記録しています。まだ試作の段階ですけれど、私がデータ分析の管理をしておりますので……帝国に戻ったら殿下にも一つお送りしましょう」


 ヴァーゼルム帝国は、父上の代になってから各分野で人材育成に力を入れた。その結果——優秀な技術者や魔法師が増え、国力も増強されたというわけ。


 更には、領土拡大戦争により属国として取り込んだ国からも新しい技術を導入して。言うまでもなく——想定以上の発展にも繋げた。


「魔道具に関心がおありなのですね?」

「はい。王城の魔力防御装置を新しく購入する際、隣国製のものを幾つか調査したのですが……、恥ずかしながら予算が足りず。導入を見送りました」


 おそらく、リカルド様が欲しておられるのは——悪意のある魔法から王族を守るための防御装置よね。それなら、帝国では城の全室に置かれている。


 舞踏会などの際には広範囲に効力を発揮するタイプ——大型防御装置が必要で、さすがに大型ともなれば予算に余裕も必要か。


「リカルド様、まずはお一つご自身のお部屋で使われてみませんか?用心のために、父が幾つか持たせてくれたのです」


 私はリカルド様の熱い視線を感じながら、バッグのなかを探った。

 心なしか緊張して、いつまでもガサゴソとしてしまう。

 貴重品用のバッグだから、そんなに大きくもないのに——。


 そうしてようやく、5センチ四方で小型の魔力防御装置を取り出した。


 部屋の広さに応じてサイズも選べるから、予算に余裕さえあれば——ある程度の防衛策としては有効だと思っている。


「プレゼントしますわ。他の王族の皆様には内緒ですよ?リカルド様は私の家族になるお方ですから、特別です」

「ありがとうございます!これはすごい……」


 リカルド様のハイテンション、初見の衝撃は想像以上だった。


 婚約者の記録、記念すべき——2ページ目のお話である。

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