第3話 未知との遭遇
俺は異世界に転生しても、何の能力もないのか。心の中で自問自答し、落胆の感情が胸に広がる。周囲を見渡すと、奇妙な木々や不気味な草が生い茂る森が広がっていた。
(こんな世界で、本当に自分には力がないのか?隠された何かが出てくる可能性だって…)
心の中のわずかな希望を抱きながら、再び視線を落とすと自分の姿がスライムに反射しているのを見て、裸であることに気づく。
「やべっなんて格好してんだ俺」
慌てて周囲の草や木の枝を集め、急いで体を隠すための簡易的な服を作りはじめた。服を作りながらふと胸にある傷跡に目がいった。
(本当に…刺されたんだな…)
その瞬間の記憶が脳裏をかすめたが、不思議と冷静だった。傷はすでに治っていたが、その感触はリアルに残っている。その時かすかに水の音が聞こえるのに気づいた。どこからか流れているようだが、まだ遠い。
(…水の音?)
周囲の風景を見渡しつつ、音の方向を探る。確かなことは分からないが、今の状況では水を見つけることが生き延びる鍵になりそうだった。
「行ってみるか…」
彼は急いで服を作り、決して強い確信ではないが、ゆっくりとその方向に歩き始めた。周りの木々は異様な形をしていて、現実ではありえないような風景が広がっていた。太い幹に絡みつくように、シダ植物のような大きな葉が風に揺れている。まるでこの森全体が異質な生命を持っているかのようだった。
歩みを進めるたびに、霧が徐々に濃くなり、視界が狭まっていく。鳥のさえずりも次第に消え、不気味な沈黙が森に広がる。足元が湿っており、泥が靴にまとわりつく感触がする。森の奥には水がある可能性が高いが、進むほどに緊張感が高まっていった。
そのとき、背後で低い唸り声が聞こえた。振り向くと、赤い瞳を持つ狼のようなモンスターが、鋭い牙をむき出しにしながらこちらを睨んでいた。
「嘘だろ…」
体が一瞬にして固まり、背中に冷や汗が流れる。依然としてモンスターはこちらを見ている。するといきなり静寂を破りその巨体を一気にこちらへ向けて突進してきた。
「っ!」
反射的に飛びのいたが、モンスターの爪が背中をかすめ、鋭い痛みが走る。背中から血が流れ出しているのが分かったが、振り返る余裕はない。とにかく必死で走り出すしかなかった。
(くそ…どうすれば…!)
頭の中が混乱しながらも、とにかく逃げ続けた。背中の痛みがますます強くなり、血が冷たく感じるが、足を止めるわけにはいかない。
「さっき死んだばっかなのに…また死んでたまるか!」
そう叫びながら、必死に森の中を駆け抜けた。